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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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46・騎士の名5

 狂ったような笑いというより、嬉しくてたまらないというその声は、実際その通りなのだろう。


「いいぞ、強い、強いな。それでこそ、俺が選んだ男だ」


 騎士は再びゆっくりと剣を構える。ただ今度は剣を持つ手を体ごとかなり後ろへと引いていた。そこから一気にこちらに駆けてくる。彼の剣は黒い残像を纏って圧と共にこちらへくる。それをセイネリアは剣で受けた。避けるよりも受けるべきだと、いや、受けられると考えなくてはだめだと咄嗟に思ったからだ。


――逃げようなんて思った時点で負けだろうな。


 現実の戦いなら避ける事も当然アリだが、今は少しでもマイナス方面の思考をしてはいけない。実際、先ほど避けた時にこちらは一瞬ではあるが、向こうの圧に気持ちが怯んだ。剣を止められたのもそのせいだろう。


 剣と剣がぶつかる。火花どころか黒いエネルギーの塊がはじけた。

 受けた剣は重く、体全体に掛かる圧も強い。それを振り切るように腕に力を入れて押し返す。はは、と笑い声が聞こえて、騎士は今度は後ろに逃げずに剣を横へずらして無理やり受け流した。それと同時にすれ違うように体ごと横へとすり抜け、こちらの後ろにつこうとする。勿論、そんな事はさせない、すり抜けようとした騎士の体に蹴りを入れる。それだけでなく、腰を捻って無理やり剣の軌道を変える。変えてそのまま横へ行った騎士の体に斬りつける。

 手ごたえはない。だが、届く。絶対に届いた筈だ。

 そのまま剣で大きく薙ぎ払えば、唸る騎士の声が聞こえた。


 見れば騎士は脇腹を押さえていた。そこからは黒い霧のようなものが溢れていた。

 だが笑い声がまた聞こえたかと思えば騎士の傷だったものは消えていく。騎士はまた剣を構える。剣を持つ手を高く上げ伸び上がれば、騎士の体が大きく見えた。


――何、驚く事じゃない。


 セイネリアは自分に言い聞かせる。

 所詮体はイメージなのだから傷だってただのイメージだ。なら傷が治ったところで不思議じゃない。それどころか致命傷を負わせたとしても勝てるとは限らないという事になる。ようは相手に、勝てないと、自分の負けだと、そう思わせないとならない。だが逆を言えば、自分が勝てると思っている限りは負けはしないという事でもある。心が折れた方が負けるのだろう。

 ならば、何があっても勝つつもりでいればいい。


 正直な話、もし本当に全盛期の彼と直で戦える事になっていたら――勝てない可能性の方が高かっただろうとセイネリアは見ている。黒の剣を手に入れた後の自分の『強さ』の上がり方を考えれば、技能面では勝負にならない差があったのは明白だ。ただそれでも勝機がまったくなかったとは思わない。そもそもセイネリアと騎士では戦闘スタイルが違って、今まで戦ってきた相手も、環境も全く違う。タイプが違う戦い方の場合は、余程の差がない限りは単純な強さだけで勝敗は決まらない。長所と短所がうまく噛み合えば、格上でも勝てる可能性はあるものだ。


「あぁ……いいな。楽しい……楽しいぞ」


 その声は本当に嬉しそうで、騎士は剣を構えず、頭上に高く掲げた。その隙に攻撃をしようと思いかけたが、即座にそれを意味がないと悟ってセイネリアは斬りかかる代わりに彼に聞いた。


「戦えるのが、嬉しいのか?」


 そうすれば騎士はこちらを見て、目を見開く。いや、兜に覆われて顔は見えないのだが、彼の目がカッと見開かれてこちらを見たのが分かった。


「あぁそうだ。こうして再び剣をとって戦える事をどれほど望んだか。全能力を使って戦える喜びの時をどれほど夢見たか。あとは全力を出し尽くした末の勝利を手にするだけだ」


 上に掲げていた剣先をこちらに突き付けて、騎士は爛々とギラつく目を向けてきた。セイネリアはその姿を見ても冷静に、感情を揺らす事なく構えを取った。


「残念だが最後の望みは叶わない。あんたのただの自己満足のための戦いに負けてやる気はないんだ」


――まぁ、俺のも自己満足と言えば自己満足だが。


 皮肉にそう思っても、騎士と自分には大きな違いがある。だから勝ちに対する執念が違う、負ける筈はないと思い込む。

 セイネリアは大きく踏み込むと騎士に向かって走った。伸ばした剣は騎士の剣に受けられる、けれど今度はすぐ戻してまた角度を変えて剣を振る、それも受けられるが構わない。すぐに剣を戻して叩く、角度を変えて、狙う場所を変えて、とにかくひたすら騎士に向けて剣を振り落とす。

 剣と剣がぶつかる度に高い音が響く、黒い靄が弾ける。だが構わずにセイネリアは休む事なく攻撃し続ける。どれだけの無茶をしても体力切れなんてありえない。自分の意志が折れない限りは剣を振り続けられる筈だった。

 騎士は剣を受け続ける、受け損ねて傷を負う事はないが、完全に受け手に回る事で彼の自信には揺らぎが出てきている。その証拠に騎士の足は剣を受けるたびに後ろへと下がっていた。彼の勝てるという自信に疑念が出てきたからこそ、彼の足は下がっていく。

 とはいえ騎士も、そのまま追い込まれてくれる程度の男ではない。

 何度目かのセイネリアの剣を受けた後、騎士は後ろへ下がらず前に突っ込んできた。


そんな訳で、戦闘シーンがまだ続きます。

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