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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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45・騎士の名4

 正直、夢の中でどうやって戦うのかなんて事までセイネリアも考えてきてはいなかった。

 ただ騎士が本気で強さを求めていたなら、この言葉は無視できない筈だと思った。もし名を知って尚、騎士の意志が戻らなかった場合でも、この言葉を掛ければその思いだけでも取り戻すのではないかとも思っていた、そのための言葉でもあった。


 このまま自分が身に着けた技能を失くしたくないと、その願いで王を裏切ってしまった男なら、最高の戦いをしたいと願わない筈はない。


 セイネリアは腰の剣を抜いた。勿論それは黒の剣ではない。いつもの自分が持っている剣の感触だ。それを片手で横に一度振り切る。いつも通りの感覚、返る筈の手ごたえを意識してイメージすれば思った通りに剣は動く。これなら、戦いにはなりそうだ。


「は……はは、はははは、ははははは……」


 聞こえてきた笑い声は騎士のものだった。彼もまた剣を抜き、それを高く掲げて嬉しそうに光るその刃を見ていた。


「そうだ、今の俺なら戦える。今なら腕も、足も、思うように動く。衰えのない体で、最高の敵と戦える」


 騎士の目はまた涙を流していた。だがそれは先ほどとは全く違う、喜びの涙だろう。もう戦えない、剣を持つことさえ出来ないと絶望していた男にとって、再び剣を持ち強敵と戦える事はどれほどの喜びか。

 結局、衰えた自分に諦めて他の誰かに技能を渡そうと願ったとしても、本当なら自分自身が強く衰えない体でいたかったに違いない。


――あんたの願いを叶えてやる。それが、俺も自分の気持ちにけじめをつける事になるからだ。


「最強の騎士様の力を見せてくれ。なぁ、騎士ラーディア」


 剣を構えると同時に、顔が兜に覆われる。同じく騎士ラーディアの方も構えた途端に兜を被っていた。このあたりは現実ではないからこそイメージの問題になるのだろう。戦おうとする意志を受けてそのために最適の状態になったいう事だ。

 それを示すように、剣を頭の横付近に構えれば騎士とセイネリアの間に適度な距離が生まれる。

 騎士の構えはセイネリアと同じ基本の構えに近いが、かなり自己流に崩していて剣を持つ位置が高く、剣先の位置も高い。ただ構えた途端、戦いに集中しているのか彼の意識のブレが消えてこちらに対する攻撃の意志だけを感じる。その圧は、最強を名乗っていた男だけはあるものだった。


 集中してから、騎士は何もしゃべらない。

 ただ僅かに腰を落として前のめりになったのを見て、セイネリアは走り出した。そして踏み込んだと思った途端、距離はすぐに縮まる。相手に向かおうと思った時にはもう騎士は目の前にいて、その剣先が真っすぐ自分に向かってきた。

 それを避ければ、剣というより殺気の塊が顔の横を通って行ってセイネリアも一瞬、その感覚に驚いた。


――成程、精神同士のイメージの戦いだと、こういう感覚になるのか。


 重要なのは意志とイメージ、おそらくそうだろうと思っていたから、気力だけは絶対負けない、何があっても勝つつもりでいる事が重要だろうと予想はしていた。だが向こうの状況を考えればそれは簡単な事ではないとも思っていた。絶望して、全てを諦めた男がその望みを叶えられた時の力を甘く見ていい筈はない。

 避けて、相手の剣は当たらなくても、その意志は体に圧としてやってくる。おそらく、それに飲まれたら負けるのだろう。

 セイネリアも目の前の相手に向かって剣を振り落とす。それは相手に受けられ、セイネリアの剣は止まる。そこから力を込めて押し込んで、力では勝てないと相手に思わせるのがいつものセイネリアのやり方ではある。だが……押し込めない、剣は動かない。

 それでも動揺はない、ここは現実ではないのだ。


――つまりこれも、意志の力か。


 実際の肉体の力の問題ではない、絶対に負けないという意志が相手を上回っていないという事だ。剣が動かないのは、意志の力が拮抗しているという事でもある。

 だから、信じろ。

 絶対に自分は力では負けないと。いつでも力と体力では相手を上回ってきたのだと、それを思い出して信じろ。自分は力だけは絶対に負けない、騎士の上である筈だとそう思い込め。

 実際自分が力で勝ってきたその感覚を思い出し、そのイメージで剣を押す。

 吠えて、剣に力を込める。

 そうすれば、剣は動いて相手の方に押し込まれて行く。だが直後、手ごたえが消えて騎士は後ろへと飛びのいていた。


「は……ははは……はははははは……」


 その場でまた、騎士は大声で笑った。


ここから暫く戦闘シーン。ただ精神の戦いなのでちょっと今までとは違う感じになると思います。


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