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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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39・眠りの中へ

 相変わらず人気のないアルワナ大神殿は、周りに民家のない隔離された土地という事もあわせて都合が良かったのかもしれない、とセイネリアは思った。なにせ黒の剣に関わる事であるから今回は何が起こるか分からない。周囲に被害が出るような状況にはさせないつもりだが、絶対と約束など出来る筈もない。


 アルワナの大神殿の中、通された丸い部屋はかなり広い上に天井が高く、中心には3本の柱が立っていてそれに囲まれるように丸い水場があった。その傍に祭壇というか人が一人寝転がれるくらいの低い台が3つと小さな台があるから、そこでこれから術を行うのだというのは分かる。

 入口からここまでセイネリアとケサランを連れてきたのはラスハルカだが、彼は今、最高司祭を呼びに行ったためここにはいない。周囲に人の気配はないし、ここへ来るまでも他の人間に会わなかったから、おそらく今回も数少ないここの人間にはこの周囲へ近づかないように言ってあるのだろう。もしくは、何かの時のために今回は避難させていたとしてもおかしくはない。


――誰もいなくても、死者はあちこちにいるかもしれないがな。


 部屋の天井を眺めてセイネリアは思う。

 魔力が見えるのだから死者の魔力が見えてもおかしくない気はするが、どうやらセイネリアに死者は見えないらしい。こちらに見えないように離れていたり隠れている可能性もあるが、今のところ少しも見えた事はなかったから見えない可能性の方が高い。特に見たい訳ではないからどうでもいいが、見えない何かがいるという感覚は気持ちのいいものではないのは確かだ。


「何故、ここでやる事になったか聞かないのか?」


 そこでケサランがこちらを見ずに聞いてきた。


「人がいない僻地だから都合がいいのかと思ったが」

「それもある。が、剣の中の騎士とのやりとりはお前の中で行われる。それをこちらが見るために、どうせここまで関わったのならここの最高司祭に頼もうという話になったんだ」

「なるほど、アルワナ神官は眠っている人間から記憶を読み取れる……だったか」


 眠っている時に剣の意志が入ってきやすいのは分かっているから、騎士の名前が分かった後、こちらを眠らせてやりとりを見るつもりなのだろう。


「そうだな。ただ正確には、アルワナ神官は眠っている人間の精神に入れるんだ。そこまで出来るのは司祭長以上だけだがな」

「そうか」


 その会話の最中に足音が近づいてきて話はそこで終わった。こういう建物だと音は響くもので、足音が聞こえてきてから彼らの姿が見えるまで、少しの間黙って待つことになった。


「お待たせして申し訳ございません」


 先に姿が見えたのはアルワナの最高司祭で、彼はこの間よりも豪奢に見える僧衣の上から薄い灰色のベールを被ってやってきた。ただ少し驚いたのはその後ろにラスハルカともう一人、彼と同じ顔の神官がいたことだった。それが前回反魂術を頼んだ最高司祭の双子の片割れであるのは間違いない。


「アルワナの偉い人間が2人必要となると、随分大きな貸しになりそうだな」


 それに同じ顔の2人は同時に唇に笑みを纏った。


「いえ、それには感謝もしているので、そこを貸しにはしませんよ」

「えぇ、こういう理由がないと我々は直接会うことができませんので」


 感謝とは、会うことが出来た事へか。確かに神殿を守る司祭長がそう簡単に神殿の外に出る訳にはいかないだろうから、彼らが会う機会は限られるというのは分かるが。


「人の精神に入る術は最悪戻ってこれなくなりますから、それを無理やり引き上げる役が必要なのです。それと中にいる最中の事を外に知らせることも、ですね」

「なる程、それで双子のあんた達が揃う必要があるのか」

「そういうことです」


 最高司祭も反魂術を頼んだ方の司祭も、穏やかな表情と口調は前と同じだが今日は明らかに彼らが喜んでいるというのが雰囲気で分かる。確かにこれなら貸しをなしにするくらいの感謝があるのだろう。


「揃ったならさっさと始めるぞ」


 そこでケサランが声を上げて小さい台の方へ向かった。彼は持ってきた袋を開けて杖と共に床に置くと、その中に手を入れ、手のひらサイズの箱を2つ取り出した。それを小さい台におくと、続けてまた中から今度は大きな白い石がついた杖を取り出す。どうみても袋のサイズより大きいところからして、袋は冒険者の荷袋と同じ魔法が掛かったものなのだろう。


「ではまずは貴方がここに」


 最高司祭がラスハルカに指示をすれば、人が寝られる台の一つにラスハルカが上がって横たわった。それを見て、ケサランがこちらを見てくる。


「お前も、そこの台に寝てもらいたいんだが」

「座るだけじゃだめなのか?」


 すかさず返せば、魔法使いは困ったように顔を顰める。


「無茶言うな、眠ってもらうんだぞ」


 セイネリアもその言葉に僅かに眉を寄せた。ここにいる人間が何かをするとは思っていないが、何が起こるか分からない状況ではすぐ動けない体勢で寝る気にはなれなかった。


「ようは寝られる体勢ならいいんだろ」


 だからセイネリアは中央にある柱の一つに寄りかかって座り込んだ。ケサランは溜息をついたが、まぁいい、と呟いて、袋から出した方の杖を持ってラスハルカの方に行く。


「その杖もあんたのなのか?」

「いや、俺のじゃない。魔法ギルド所有の、記憶操作の術が入った杖だ」

「その杖を使えば誰でも記憶操作が行えるのか?」


 ラスハルカの前で一度は杖を振り上げたケサランだったが、やめてこちらへ振り向いた。


「そうじゃないが……そう出来るようにしてもらったんだ。記憶操作をするのは俺がやるというのはお前との約束だったろっ。それにどうせお前はこの場に他の魔法使いがいたら嫌なんだろっ、だから全部俺だけでどうにかなるようにしてきたんだっ」


 軽く怒っているが律儀にこちらに説明するあたり、やはりこの男は人が好い。その間に最高司祭は他の台に横たわっていて、彼と双子のもう一人はセイネリアの前にやってくる。


「さて、貴方には半分眠った状態になって頂きます。これから術を掛けますので受け入れて頂けますか?」

「分かった」


 セイネリアは眠れるように体勢を直すと目を閉じた。直前にケサランが杖を振り上げ呪文を唱えているのを見たが、すぐに頭の上でアルワナの呪文が流れて来たから向こうの呪文は聞こえなかった。そうして流れてきた魔力を受け入れてから間もなく、セイネリアの意識は睡魔に包まれた。


次回は騎士との話の前にちょっとだけ別視点が入るかな。

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