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黒の主  作者: 沙々音 凛
第三章:冒険者の章一
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38・剣と剣

 最初はまず、剣を合わせなければ何も分からない。

 だから互いにわざと当てる、わざと受ける。マトモに鉄と鉄がぶつかれば一瞬だけ火花が散り、柄に相手の押してくる力が掛かる。それですぐ、力では勝てないと分かったザラッツの顔色が変わった。だが彼は歯を噛みしめて踏みとどまる。

 一方セイネリアといえば……実は力をわざと相手が耐えられるレベルまで抑えていた。この男は馬鹿ではない、耐えられない程の力差だと分かればいつまでも押し合いに付き合いはしないだろう。だからわざと力が拮抗している状況を作って、相手に精一杯の力を使わせる、それから。


「う、あっ」


 セイネリアは剣の角度を変え、相手の刃の上で刃を滑らせる。刀身の中ほどでぶつかりあっていたところから押し込み、剣の根元で相手の剣と合わせる。

 当然ながら剣と剣の押し合いになった場合、より剣の根元で合わせ、そしてポジション的に上から押している方が有利だ。だから不利を悟った相手は急いで剣を解こうとする――が、それは既に遅かった。


「くそ……」


 剣を解いて一度距離を取るには剣を合わせている位置が体と近すぎる。一度引いて絡めなおすにしてもへたをすれば引いた時点で相手の剣が体に届く。となれば剣を逸らすか力任せに跳ね返すしかない。

 ザラッツの頭の中でもその判断が行われたのか、彼はそこでまずこちらを足で蹴ってきた。蹴って少しでもこちらの力が抜けたところで剣を跳ね返すつもりなのだろうが、足を蹴ってくる段階で甘すぎる。逆にセイネリアがひざで相手の腹を蹴れば、ザラッツは苦悶の表情を浮かべて思わず腰を折った。それに合わせて剣を押し切ってやれば、ザラッツは腕を上げて無防備な体を晒し、後ろにのけぞって倒れそうになった。


 セイネリアはそこで、わざとザラッツが体勢を整えるのを待ってやる。

 しかも小馬鹿にするように刀身の根元近く、刃がない部分で暇そうに肩を叩くような動作をしてみせた。


「貴様ぁっ」


 案の定、侮辱されて顔を赤くしたザラッツは体勢を整えてすぐ剣をこちらに伸ばしてくる。それをセイネリアが避ければすぐに引いてまた剣で突いてくる。何度も、何度も……確かにこれは呆れるくらい同じ動きをして体に覚え込ませたもののソレで、かなりの速さのその突きを繰り返しても騎士の体勢は少しも崩れない。時折体で避けるだけでは間に合わず剣を当てて相手の剣を逸らしながら、セイネリアも避けるだけでは押される形になって次第に足が後退していく。


 ただし、そこでセイネリアは僅かに口元を嘲笑に歪めた――この男は思ったろう、今は自分が押している、と。そう思う事が戦いにおいて一番隙となる事を知らずに。


 ザラッツの突きに合わせて、今度は逆にセイネリアは前に出た。

 急いで彼は後退しようとする、が彼の前に踏み込んでいた右足は動かない。そこでやっと騎士はセイネリアに自分の右足のつま先が踏まれていた事を知る。引こうとした足が動かなかった所為で焦ったザラッツは、そこにやってきたセイネリアの剣をその不安定な体勢のまま受けなければならなかった。セイネリアは今度は力を込めて剣を押す、当然ながらそれ以上下がれないザラッツは後ろへ倒れるしかない。


 彼は無様に背中から地面に倒れた。しかもブーツが脱げたせいで素足となった右足を晒すという醜態付きで。


 セイネリアの剣先が、倒れた男の顔に向けてぴたりと止められる。

 ザラッツは屈辱と恥辱に顔を赤くしてその切っ先を見つめ……やがて諦めたように目を閉じた。それを確認してセイネリアは剣を引いた。

 暫くは倒れたまま動かなかったザラッツだが、やがてゆっくりと起き上がる。だが立ち上がるまではせずに、地面に座り込んだまま顔を下に向けて呟くように言った。


「……私の、負けです。ありがとうございました」


戦闘シーンは書いてて楽しい。ちなみに足踏んだり蹴ったり何でもありの泥くさい駆け引き的な戦い方が燃えます。どこかでハンマーアタックも使いたいなぁ。


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