表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
1049/1189

35・アルワナ最高神官1

 アルワナの大神殿は最高司祭の他に補助の神官が5人、そして雑務を行う者が十数人程度とそれだけしか常時いる人間はいないらしい。その代わりに多くの死者がこの周囲にはいて、彼らがここへくる人間の事を知らせたり、明らかに敵意がある者に対しては迷わせたり脅したりして追い返してくれる――と、ラスハルカは言った。それで神殿自体、入れば許可のないものは眠るしかないというのなら警備の人間がいらない訳で、外や出入口周辺に人がいないのはそのせいだと思われた。

 大神殿自体はかなり大きい建物だから、それだけしか人がいなければこんなに人がいないのも納得は出来る。ただセイネリアがラスハルカ以外をまったく見ないのは、わざと今、入口周辺から人を遠ざけているからだそうだ。


 それらの説明を聞きながらセイネリアが連れてこられたのは最高司祭の部屋の前だった。セイネリアの用件としてはラスハルカを説得すれば終わりだが、彼からアルワナの最高司祭に会って欲しいと言われたのだ。

 アルワナ神殿の一番上の人間の部屋であっても、やはり周囲には一人も見張り等は見当たらない。ラスハルカが部屋の前で一声かけはしたものの、呆れる程普通に鍵も掛かっていない扉を開けて部屋に入る事になる。部屋の中にいたのは最高司祭一人だけで、事前の説明を聞いていなければアルワナのトップがこんなに不用心でいいのかと本物かどうかを疑いたくなったかもしれないくらいだった。


「はじめまして。ようこそいらっしゃいました、セイネリア・クロッセス」


 アルワナ神官らしい、黒と灰色の裾の長い僧衣を着た神官は顔の上半分を隠すフードを被っていた。反魂術を行った神官もやはり顔を隠していたから、アルワナでは上位神官はそういうものなのだろう。


「それでは、私は下がります」


 セイネリアが部屋の中程まで入ると、入口前にとどまっていたラスハルカが部屋の外に出て行き扉が閉まる。彼が部屋に残らず下がった段階で、彼に話せない話をするつもりだというのが分かる。


「確かに会うのは初めてだ。あんたが本物の最高司祭であるなら手紙でのやりとりはあるがな」

「名乗れないのはお許し下さい。ですが私がアルワナの最高司祭であるのは間違いありません。ただ……名乗れない代わりに貴方には顔を見せましょう」


 言うと神官はフードを取った。それですぐセイネリアは目を細める。


「お分かりになりましたか? それともこの間の時は見ていませんでしたか?」

「いや……少しは見えていたが」


 最高司祭である男の顔は、前回反魂術を行った神官とほとんど同じだった。あの時の神官も顔に布を被せて隠していたが、布自体が薄く多少透けて見えていたためある程度の顔つきは分かった。その顔とほぼ重なる。

 ただ、同一人物ではない。魔力の見え方が似ているが僅かに違うからだ。


「実はこの間貴方が反魂術を依頼した神殿の司祭長は、私の双子の弟なのです」

「それで同じ顔なのか」

「はい、アルワナ神殿の司祭長は必ず双子と決まっているのです。双子が持つ共感力を鍛えて心話を使えるようにし、各神殿の長として置くのです」


 つまりアルワナの神殿はどれも2つセットで、セットの神殿同士は情報の伝達が即出来るという事だ。


「ならこの間の反魂術を使った一部始終、何が起こったか全てをあんたは知っているという事か」

「そうです」


 そして最高司祭に全て伝わるからこそ、あの神殿の司祭長がセイネリアの依頼を受けたのだろう。最高司祭本人が行う訳にいかないからこそ、双子の神官が請け負った。

 おだやかな笑みさえ浮かべる神官をじっと見つめて、セイネリアはそこで聞いてみた。


「なら少し聞きたい事がある、アルワナ神殿の最高地位にいるあんたは、どこまで魔法使い達の秘密を知っているんだ?」


 さすがにそれにはすぐ答えは返ってこない。だがフードの下から見える神官の口元の笑みは深くなる。


「三十月神教のそれぞれの神殿の最高責任者は、どういう者が選ばれるか知っていますか?」


 答えたくない訳ではなさそうだが、回りくどい言い回しに対してセイネリアはわざと不機嫌そうに、知らん、と答えた。


「保持魔力が高い事や政治力も必要ですが……一番重要なのは信心深くない事です。神を無条件に肯定し崇めるのではなく神の存在をあまり信じず、けれど人々の心のよりどころとしての信仰に意味を見出し、それによって人を救いたいと思える者であることです」


 『信心深くない』者が選ばれる理由はつまり、三十月神教の秘密――魔法使い達に作られた宗教である――という事を知る事になるからだろう。


「成程、少なくとも三十月神教の成り立ちは知ってるという事だな」

「というか、私も魔法ギルド所属と同じ扱いとなります」

「なら、奴らの秘密は全部知っているのか」

「そうですね、少なくとも普通の魔法使いが知る範囲なら全て知っています」


 だから例の記憶を取り戻した後のラスハルカから情報を取り出すのを、彼が直接やる事で問題がクリアされるのだろう。


「アルワナに限らず、三十月神教は全部か」

「そうです」


 三十月神教のシステム的にそうだろうと思っていたが、確定したなら以後はそれ前提で動けるから意味のない情報ではない。神殿関係で何か頼みたい事があれば、セイネリアの名で神殿の最高責任者に連絡を取ればいいという事でもある。

 ただ、それなら疑問がある。


「あんたが魔法ギルド所属と同じなら……何故、反魂術の依頼を受けた? あれが普通に死人を生き返らせたいだけの依頼ではないとあんた達が分からなかった筈はない。明らかに魔法ギルドの禁忌に触れるものだったのに、どうして止めなかった?」


最高司祭との話は多分次で終わり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ