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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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34・アルワナ大神殿2

「その城の中で、お前はある死者に体を乗っ取られた。お前の記憶を魔法使い達が戻そうとしているのは、そのある死者の記憶のためだ」

「ある死者?」

「あぁ、そいつの事については何も教えられない。そしてお前が記憶を取り戻した後、その死者についての記憶はまた消される事になる」


 王の事については、ラスハルカは現状ではまったく何も覚えていないのだとセイネリアはそれで判断する。記憶を戻してからまた消す事に関しては……魔法使い達がまだ彼に言っていない可能性もあるが、これは話しておかなくてはならない事であるから言ってしまってもいい筈だ。


「その死者はよほど、秘密にしなくてはならない存在なのですね」

「そうだ、少なくとも今この国がそのままであるためには秘密にしておかなくてはならない事ではある」

「貴方はその死者が何者かも、それにかかわる秘密も知っているのですね?」

「あぁ」


 そこまで聞いてラスハルカはじっとこちらを見ると微笑んだ。


「では、私の記憶を戻す事ですが……それを貴方は望んでいるのですね?」


 その質問は少し疑問が残ったが、言葉通りの意味として捉えて返事をする。


「そうだ、そうでなければ俺が今ここに来てはいないだろ」


 ラスハルカはぷっと噴き出して笑った。


「ですよね。……でも一応、私が記憶を戻す事を貴方が本当に望んでいるのかどうか、それが聞きたかったので」

「どういう意味だ?」


 彼の意図が分からなくて僅かに眉を寄せれば、気が強そうには見えない優男は困ったように視線を逸らして考えながら答えた。


「私が記憶を消す事にした理由ですが、一つは私の役目として黙っている事が出来ないからです。……分かりますよね?」

「あぁ」


 ラスハルカはアルワナ神殿が情報を集めるために正体を隠して各地に潜入させている神官の一人である。そしてアルワナの術は眠っている者を操ったり、その意識を読んだりする事が出来る。そこからすれば彼が神殿に情報を伝える手段は意識を読ませる事であると予想出来る。つまり、記憶にあれば神殿に必ず伝わってしまうという事だ。


「それに関しては、私からの情報は直接最高司祭様が受け取るから問題ない、という事になりました。ですがもう一つの理由は……貴方のため、なんですよ」

「俺のため?」


 それは意味が分からなくてセイネリアとしては明らかに不審げな顔になるのは仕方がない。ラスハルカはそれにやはり困ったように視線をさ迷わせた。


「えぇ……正確に何故、というところまでは分からないのですが、私が記憶を消すべきだと判断したのはそれが貴方のためだった……という感覚を覚えているんです」


 正直訳が分からない。だがそれだけ彼が王か剣に関して重要な秘密を知ったとも考えられる。セイネリアが知ったら良くない内容があるのかもしれない。とはいえ、知らずにいればよかった、なんて事を自分が思うとは思えない。知った上でどうすべきかを考える――今回、彼の記憶を取り戻すのはそのためなのだから。


「俺は今、状況が分からなくて中途半端な状態にある。それをはっきりさせる鍵がお前の失った記憶の中にある可能性が高い。あと言っておくと、もし知らない方が良かったような事実を知る事になったとしても、俺は知らないより知ってはっきりさせておきたい」

「貴方の状況をはっきりさせたいと貴方自身が望んでいる、という事ですね」

「そうだ」


 一見神官に見えないアルワナの神官である男は、そこでにこりと嬉しそうに笑った。


「ならいいです。記憶を戻してもらいましょう。その後でまた一部の記憶を消す事も問題ありません」

「随分あっさり了承したな」


 あまりにもあっさりと終わって、セイネリアとしては説得しに来たという感覚ではない。単に彼の意志を確認しに来た程度だろう。ラスハルカは苦笑する。


「ですから、貴方のために記憶を消してもらった、というのが引っかかっていたのです。貴方自身が私の記憶を戻したいと本当に思っているのならすぐ了承するつもりでした。そのために貴方に来てもらったのですから」


 セイネリアとしては魔法ギルドが彼を説得したいから自分を寄越したのだと思っていたのだが、どうやらそれは違ったらしい。


「なんだ、俺が直接ここへ来る事になったのはお前が言ったからか」

「そうです。ご足労をおかけしてすみません」


 ラスハルカはそれでぺこりと頭を下げる。セイネリアとしては拍子抜けした感があるが、それでも目的は果たせたのだからこれでいい。ただ、彼が何をもってセイネリアのために記憶を消すべきだと思ったのかは気になるが、それは実際記憶を戻せば分かる事ではあるだろう。


ラスハルカの説得シーンはここまでですが、次回も場所はこのままアルワナ大神殿。


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