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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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27・師3

「っそぉっ」


 自らの限界を察したアガネルが、斧を引いてから盾を押す方向を変えて横に逃げる。セイネリアとしては追撃も出来たが、ここは向こうの望み通り距離を取らせる事にした。アガネルの肩が大きく上下に動く。荒い息遣いが聞こえてくる。セイネリアは彼の息が整うのを待った。


――本当にもし、あんたがもう少し若くて、俺が黒の剣を手に入れる前なら。


 今の力比べで先に限界を迎えていたのはどちらだったろうか。あり得ない仮定など考える意味がないと分かっていても考えたくなる。起こりえない対戦を想定して、さぞ楽しい戦いになっていただろうと考える。……勿論、考えれば考える程自分の馬鹿さ加減にムカつくだけだが。


「そろそろいいか?」


 アガネルの息がマシになってきたのを見てそう声を掛ける。


「はっ……情けねぇな、てめぇに……待ってもらうなんてよ」

「息が上がってふらふらなあんたを相手にしてもつまらないからな」

「けっ、ホントにイカレた野郎だぜ」


 話してるうちにも彼の息が整い出す。上下する肩の動きが落ち着いた辺りで、セイネリアは改めて剣を頭の横に上げて構えを取った。それを見て、アガネルも盾を前に出して体を締め、腰を落とした。


「化け物だな」


 そう、小さく呟いて。アガネルは咆哮を上げるとこちらにまた突進してきた。ただし今回は盾を前に出すのではなく、盾も、斧も、体につけたまま、ぎりぎりまでどちらを先に出すのか分からないようにしてきた。……勿論、セイネリアにとっては無駄だが。騎士の技能を継いだ自分には、どれだけぎりぎりでもどちらかをだそうとすればすぐに分かる。今のところ、アガネルの動きは全て見えている。

 ただ、ここでアガネルは予想外の動きをする。

 体を低くして走ってきた彼は、更に腰を落として体を低くする。


――足狙いか?


 だから自然、セイネリアも相手に合わせて腰を落とす。剣先で半円を描いて下に向け、そのまま彼の頭の兜に振り下ろす。タイミングはあっている筈だった。

 ただ、直前になってアガネルは走る軌道を少し変えた。セイネリアの真正面に向かってくるのではなく、わずかにこちらの右にずれている。セイネリアの剣先は右上から左下に向かって落ちていたため、逸れて彼の肩当てを叩いてから空を切った。

 アガネルの盾が前に出される。セイネリアは剣をおろした勢いのまま左に避けた。それで斧がセイネリアの体を狙わず伸ばされた事で向こうの狙いに気づいた、マントだ。セイネリアが左に避けた事で右側のマントが広がって、それをアガネルの斧が引っかけて引っ張った。バランスを崩す程ではないが、セイネリアの動きが一瞬、止まる。

 すぐさま盾が迫ってくる。だがセイネリアの右足の方が早く、アガネルの体を蹴り飛ばす。

 それでも、盾はセイネリアの体を叩いた。勿論向こうの全力で、という程の力は入らなかったが。叩いて振り切る前にアガネルの体は吹っ飛び、倒れはしなかったが大きく距離が離れた。


――既に足に来ているか。


 よろけながらどうにか吹っ飛ばされた勢いを耐えた男は、先ほどよりも大きく肩を上下させてゼーハーと音を鳴らしながら下を向いていた。


「どうした、ジジイの限界か?」


 言えばアガネルは顔を上げる。


「うるせぇっ」


 目はまだ強く、こちらを睨んでいる。ただもう息は乱れたままだ。足にも来ている。これ以上戦っても動きは悪くなっていくだけだろう。


「あんたは俺を憎んでいい。リレッタがおかしくなったのは俺のせいだ」

「うるせぇっっ」


 叫んで、アガネルがまた突進してくる。今度は最初の時と同じく、思い切り斧を引いて勢いをつけてこちらに振り下ろそうとしてくる。

 今度はセイネリアは避けなかった。

 頭の左上に剣を構え、向こうの斧より速く振り落とす。重い剣身が、アガネルの体を斜めに斬る。肩から胸は浅いが腹に深く入った傷は十分致命傷だ。

 勢いのまま、アガネルの斧は空を斬った後に彼の手から落ちる。体はセイネリアにぶつかって、そのままこちらに抱き着くように倒れこんだ。それでもこちらの腕を掴んで、足を踏みしめて、彼は倒れまいとする。セイネリアは彼の体を支えてやった。


「は……ふふ、ははは……」


 こちらの肩に顔を押し付けて、聞こえてきたのはアガネルの笑い声だった。


「はは……ったく、バケモン見たいに強く……なりやがって。まったく勝てる気が、しや、しなかった……ぜ」


 笑い声は楽しそうで、腕に掴まっていた手を離して背中を叩いてくる。昔なら叩かれると痛いくらいだったそれにはまったく力が入っていない。やがてがくりと足が落ちて立っていられなくなったその体を、セイネリアは地面に横たえてやった。

 アガネルの顔は笑っていた。満足気に口角をあげ、嬉しそうに自分の顔を見ていた。


「相変わらず、ぶっそうな……目つきの……ほんとにそのまま……あのガキが、デカくなりやが……て」


 セイネリアには最初から分かっていた。彼がここへきた一番の目的は死ぬ事だったのだ。


このシーンは次で終わる……かな。

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