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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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26・師2

 セイネリアでさえ、直感でそれを剣で馬鹿正直に受けるのはマズイと感じた。だから避けたが、ぶん、と大きく音が鳴って、実際風さえ感じた。普通ならこんな大振りは避けられた場合のリスクが大きすぎて出来ないものだが、斜め下に斧が通過した直後、盾を前に出されてセイネリアは一歩下がらざる得なかった。

 それに続いて、今度は斧が下から上に振り上げられる、セイネリアはそれも下がって避けた。そうすれば次は盾で横から叩きに来られて、セイネリアはそれも避けた。だが今度は盾で大きく押されて、セイネリアの足がまた下がる。しかも下がる直前、向こうは足を踏もうとしてきたから更に一歩、余分に下がる事になる。


――力押しもここまでくると呆れるな。


 力押しで強引に持っていくというより、力が武器であるから勢いも最大限につけて最大の力でこちらにぶち当ててこようとしてくる。当然大振りばかりだから隙が出るが、そこを盾の攻撃でフォローするスタイルだ。

 勿論、力勝負をしたとしても負けはしない。だが武器の強度的に、今持っているこの剣だとまともに受ければこちらが先にイカレるのは分かっていた。だからヘタに受けていないだけで、向こうの攻撃も見えるし脅威は感じない。このまま避け続けるだけで、いずれは向こうの体力切れで終わらす事は出来るだろう。


 だが、それは出来ない。


 そんな結果のために、アガネルはセイネリアに挑んできているのではない。

 何度目かの攻撃を避けた後、セイネリアは盾で押して接近してきたアガネルの腹を足で押し飛ばした。そこで距離を取ってから剣を振り落とす。アガネルはそれを盾で受ける。さすがに力はあるからか剣は完全に止められた。だから剣を一度離してもう一度振り落とす、それも止められたらもう一度、角度を変えて盾を叩く。普通の盾ならそろそろガタが出るところだが相当頑丈に作られた盾はまだキズがついた程度だ。4度目に盾を叩いたところで、受けたと同時にアガネルが盾を押してきた。それだけなら良かったが盾の下から斧で切りつけられてセイネリアは下がる。ただこれ以上下がると藪の中になるので横へ逃げて仕切り直しをした。アガネルの方はこちらに合わせて体の向きを変える。


――不動のアガネル、だったか。確かにな。


 ここまでセイネリアは、下がるだけで前に出られていない。今のセイネリアの攻撃でも、アガネルは結局一歩も下がっていない。


「もういい歳のジジイの割に力だけはあるな」


 思わずそう声に出せば、アガネルも答える。


「おぅ、すっかりなまってたからな、鍛え直すのにちぃっとばかり掛かったが」


 ならばリレッタが死んだのは結構前の話なのかもしれない。力仕事はしていたから筋力は維持出来ていただろうが、戦闘のカンを取り戻すのにはそれなりの時間を要した筈だ。ここへ来るまでに現状で出来る限るの万全の状態にしてきたのは疑いない。


「そうだな、出来ればもっとあんたが若い内に来て欲しかったぞ」


 それこそ、こちらが黒の剣を手に入れる前なら。アガネルの体力がもっとある内なら。そうすればきっと、もっと面白い勝負になっていた筈だ。


「無理いうなっ」


 再び、アガネルがこちらに向かって踏み出してくる。だが今度は彼の間合いに入る前にセイネリアの剣が振り落とされて、彼は足を止めて盾で受けなくてはならなくなった。それでも彼はそこから後ろに下がらず横に回りこもうとする。当然セイネリアもそれに合わせて横へ移動する。二人で一定の距離を保ちつつ、円を描くような状況となる。

 間合いは長剣を使うセイネリアに分がある。

 いくら片手斧としては大き目でも、有効な距離は長剣に劣る。一度距離を取ってしまえば、こちらの間合いで相手している限り向こうに勝機はない。そこは初めてナスロウ卿とセイネリアが戦った時と同じだ……今はセイネリアの方が剣な訳だが。


「くっそ……」


 踏み込んではこちらの剣で叩かれて間合いに入れず、足を止める事を繰り返し、アガネルが憎々し気に呟く。ただ勿論、セイネリアもずっとこうしているつもりはないし、向こうもそうだろう。

 するとアガネルは今度は2歩程後ろに下がって、それからぐっと腰を落とす、そうして。


「ぉおおおおおおっ」


 声と共に低い位置のまま盾を前に出して全力で突っ込んでくる。

 イノシシか、と呟いたまま、呆れた口が笑みを作る。セイネリアからすれば避ければそれで済む無謀な突進だが、その勢いがあまりにもバカバカしすぎて受ける事にした。

 とはいえ勿論、刀身で受けるなんて馬鹿なマネはしない。剣は左だけで持って、右腕で盾を受け止めた。

 衝撃に歯を噛み締める。

 全身、全力を出したのなどいつぶりの事だろう。

 どうにか一歩も下がらずに済んだが、足元の地面が抉れて体自体は後ろへ少し移動していた。ただそれで安堵などできる筈はない、当然、直後に斧がやってくる。いくらセイネリアでも左手だけで持っている長剣の刃でそれを受けるのは厳しい。だから振り下ろす前の斧の柄を、剣の鍔と刃の根本で受けた。

 押す盾も、振り下ろそうとする斧もそれで止まる。

 ただ止まったものの、セイネリアの方が不利な状況ではある。それでも止めていられるのは、こちらの方が力が上だからだ。


「ったく、すげぇじゃねぇか」

「あんたもジジイとは思えない」


 はははっとアガネルが笑う。

 互いに押しあって歯を噛み締める。単純、純粋な力勝負ではあるが……ただマトモな人間なら――全力を出せる時間には必ず限界が訪れるのだ。


キリ悪いですが戦闘シーンだけで終わりです。次回もへたすると戦闘だけで終わるかもしれないです。

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