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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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24・真実を知る方法2

 ケサランは頭を抱えた。一応重要な話を行う時は、死者でも聞こえないようにこの手の簡易結界を張ったりはするが、それはこれから秘密にしたい事をすると分かっているから出来る事だ。何かあった後でその人物の記憶消去をした場合、その消した記憶の行動範囲内に死者がいたかどうかなんて確認のしようがないし、いたからといってどうしようもない。


「……で、そいつなんだが、本人が自らの意志で記憶操作を受けているから外にバラす事はまずないと思う。更に言えばアルワナ神官として神殿の意志で動いている人間であるから、アルワナ神殿の上の人間に言っておけばなにかしら手を打っておいてくれるんじゃないか?」

「まぁ……そう、ではあるが」


 ただ、彼の言い方に少し含みがあるのを感じ取って、ケサランは聞き返した。


「つまり、何がいいたい?」

「いっそ、あいつの記憶を戻してみるというのはどうだ?」


 それには返事どころか目を見開いたままケサランは固まった。

 流石にそれは無理無理無理……と頭の中で無理という言葉がぐるぐる回るが、目の前の男はやはりいつも通り落ち着き過ぎていて……暫くすると、自分だけこんなに焦っているのがバカバカしくなって顔を手で覆った。


「いや。さすがにそれは無理だ。記憶操作をなかったことにする訳にはいかない」

「消した記憶を蘇らせる事は可能なんだろ?」

「可能だが……いくらなんでも……」


 どう考えてもそれを上に頼めるだけの理由が思いつかない。無理だとしか思えない。けれど、いつもならそれですぐに諦める男が、今日は更に言ってくる。


「あいつはな、剣を手に入れた時、一時的にあの滅んだ国の王の魂に体を乗っ取られたんだ。だからその時に王の記憶が見えた可能性がある。それをあんた達は知りたいと思わないか?」


 確かに、それが本当だとすれば話は違ってくる。


「本当なのか?」

「あんたがそれをきくか?」


 確かに、と呟いて、ケサランは考える。

 セイネリアの感情は見難いが、それでも嘘ではないと分かる。それにそもそも、この男がこんな事に嘘をつく人間ではないという事をケサランは知っている。滅んだ王の記憶……確かにそれはギルドにとっては欲しい情報だ。そしてセイネリアのいう通り、そのアルワナ神官ならば他言しないようにさせる事も難しくはなさそうだった。


「……分かった、ギルドの方に掛け合ってはみるが……」

「王の記憶を欲しいだけなら一時的に記憶を戻して、そのあとに本人の同意の元、再び記憶操作をするという手もある。その後にいっそ『記憶操作をした』という事を本人に教えておけば、へたに忘れた記憶を気にしなくなるんじゃないか? 現状の失った記憶を中途半端に取り戻している状態よりいいと思うが」

「成程……一時的に、か」


 それなら上の連中も首を縦に振りやすい。


「分かった。上の反応によってはそれも言ってみよう」

「見通しが立ったら連絡してくれ。なんなら本人には俺が交渉してやってもいい」

「お前にしては、随分親切だな」

「勿論、こっちにも別の思惑がある」


 だろうとは思ったが。だがわざわざそう言ってくるあたり、この男はやはり嘘をつかないと思う。こちらが誠実に対応する限り、向こうも誠実に対応する。だから現状、ケサランはわざわざ自分の能力を使って彼の感情を読み取る必要もないくらいではあるのだが。


「分かった、何か決まったらすぐ連絡する」







 南の森自体は首都を出てすぐだが、南東方面に広く広がっているため思った以上に広い。街の近くなら駆け出し冒険者も多いが、奥にまで来ると途端に人は少なくなる。こんな早朝ならまず何か、イレギュラーな化け物でも現れたとかでもなければ人はいない。


――さて、そろそろこっちを片づけるか。


 ケサランが去って周囲を見渡してから、セイネリアは馬に向かうのではなく首都方面に向かって振り返った。それから大き目の声で言った。


「おいっ、そろそろ出て来たらどうだ。用があるんだろ?」


 傭兵団を出てからずっと付けて来た人間がいるのは気づいていた。いつもなら一人で出かける時はクリムゾンが勝手についてくるところだが、今回彼は部屋を出た段階で来るなと言って置いてきたから彼ではない。そもそも彼なら見える位置でついてくる。

 この人物は、普通の人間ならまず気づかないくらいの距離を取ってつけてきている。目のいいセイネリアでさえ目視では確認するのが厳しいくらいの距離だ。

 それでも追えるという事は、狩人か、千里眼持ちのクーア神官、もしくは他の追跡用の術持ちの神官、あとは魔法使いくらいになる。距離がありすぎるからセイネリアでも気配でどんな人間なのかを察知する事はできなかったし、微かな魔力を見て誰かかも分からなかった。

 ただ、これだけの距離をあけてきっちりつけてくる人間であるから、有能である事は間違いない。だからわざと馬で振り切らず、その顔を見てみようと思ったのだが。


 遠くからやってきた人物は、距離に加えて木や草に隠れていたため最初は誰か分からなかった。ただガタイが良さそうだから、術者系ではなく戦士系の男だろうと思った。

 だが、その人物が誰か分かった途端、セイネリアの目が驚愕に見開かれる。

 今になって会うと思わなかった人物であったからこそ、まさかという思いの方が強くてすぐには名も出せなかった。


「アガネル……」


 確かにロックラン信徒の彼なら、この距離でも自分を追ってこられただろう。当然記憶よりその顔はずっと歳を取って見えたが、体に衰えは見えない。

 彼は確実に殺気をこちらに向けていた。

 それだけでセイネリアには彼が何のために自分のところへやってきたかも大方予想がついた。


やっとこの人の出番。ここから暫く彼との話になります。

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