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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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23・真実を知る方法1

 魔法ギルドには単に魔法使いとしてギルドに所属しているだけの者と、魔法ギルド自体の運営に関わる仕事をしている者達がいる。後者の連中はギルド内での役目から通り名がついていて、大抵の者は見た目よりもずっと長く生きている。

 魔法使いケサラン。

 魔法ギルドの中ではギルドの運営方針を決められる『判定者』と呼ばれる最上位のメンバーではないものの『承認者』なんて御大層な通り名持ちだ。魔力自体はそこまで高くなくても能力が希少でギルドにとって有用でもあったから、彼は魔法使いになった時からずっとギルドの仕事をしてきた。勿論、冒険者として外で働いていた時期もなかったし、自分の住居をもって研究していた時期もない。魔力がそこまで高くない分、ギルド内にある魔法道具を渡されてその魔力補助によって一般魔法使いよりも長い時を生きてもいる。つい少し前まではずっと、ただギルドの指示にしたがってギルドのためだけに働いてきた。疑問を持つこともなく。


 承認者という仕事のせいで魔剣の持ち主やギルドの交渉相手とは度々会う事はあったから、通り名がある連中の中でも外の人間とはそこそこ接触がある方ではあったのだろう。ただギルド外の人間と会ってもそれはその時一度きりの事で、同じ人間とまた会うという事はまずなかった。


 だからセイネリアのように、ギルドと彼の橋渡し役として何度も会うなんて事は彼が初めてだった。更に言えば彼は、人間としてもとても興味深い存在だった。


「やっと来たか」


 遅刻、という程ではないが少し遅れてやってきた黒い男の姿を見て、ケサランは座っていた切り株から立ち上がった。セイネリアは急いだ風もなくのんびりとこちらの近くまで馬を歩かせて来ると、遅れて悪いな、と言いながら馬から下りた。


「どうした、このところらしくないな、寝坊じゃないんだろ?」

「まぁな」


 それから彼が馬を傍の木に繋ぐ間また切り株に座っていれば、終わってこちらに来てすぐ黒い男はこう言って来た。


「話に入る前に、他人に聞かれないように出来るか?」

「うん? まぁ、出来る事は出来るが……」


 一応『承認者』という役職柄、そういう時に使う魔法道具は持っている。だから切り株からまた立ち上がって音を遮断する範囲を囲うように石を置き出す。


「ところで今回は何故外にしたんだ? あんたが団に来てくれるか、例の酒場でよかったろ」


 そんな事を言われたから、最後の石を置き終わったところで彼を睨みつけた。


「あのな、俺の能力の説明をしたろ。人の多いところは出来れば行きたくないんだ、分かれ」


 そうすれば黒い男はすぐ察したように口元を歪めた。


「そうか、なら今までは街に呼び出して悪かったな」

「……いや、それはいいさ。お前の団も、お前が作ったあの酒場もどんなものか興味があったからな。どうしても行きたくなかったらその時点で断ってる。今後は外の方が嬉しいと分かってくれればそれでいい」

「分かった、次からはあんたの好きなところにしてくれ」


 溜息を一つついて、術を発動させる。目で見えるなにかがある訳ではないが、これで石で囲まれた範囲の音は外に漏れない。


「で、今回は夢で何を見せられたんだ?」


 向き直って聞いてみれば、セイネリアはいつものことだが、表情はまったく変えずになんでもない事のように言った。


「騎士の後悔だ」

「……それだけか?」

「あぁ、それだけだ」


 それはつまり、騎士の意識が残っているのが確定したという事か。国が滅んだ状況を騎士が見れていたのなら、食い止められなかった後悔の念だけが強く残っているというのは分かる話である。


「となればやはり……騎士の名前が分かれば、騎士の意識を呼び戻せそうなんだがな」


 だがあの滅んだ国に関する記録なんて、魔法ギルド内になければほぼ絶望的だと言っていい。そこで考え込んでいれば、黒い男が口を開いた。


「そういえば、例の記憶操作をされたのに思い出していそうだった奴だがな、考えたら、奴が記憶を消してもある程度は記憶を取り戻せる理由が分かった」


 内容が内容だけに、まさにぎょっとしてケサランは急いで彼の顔をみた。


「安心しろ、誰でも起こる事じゃない。そいつはアルワナ神官なんだ。つまり、死者との対話が出来る」


 最初、それだけではすぐに思い至らなかった、だが。


「現地に行って、そこら中にいる死者から話を聞いて情報を集めるのが奴の仕事だ」


 そこまで言われて気がついた。


「そうか……記憶を消しても、死者から聞いて真実を知る事が出来るのか」

「そういう事だ」


 それは確かにどうしようもない。成程、そういう事もあるのかと、ケサランは大きな溜息をついた。これはギルドへ報告しなくてはならない。


「もっとも今回の場合、黒の剣がらみだから『その場』には死者がいなかった可能性は高い。ただ事の前後は死者達からの情報収集で分かるから、ある程度の予想をつけて何かがあったというところまでは分かるだろう。具体的に言うと……あんた達は樹海での仕事の記憶を全部別の何かに置き換えたのだろうが、魔法使いの依頼について行ってその行き帰りの道中でどうしていたかくらいは死者から聞けただろうという事だ」

「……厄介だな」

「まぁ、あんた達にとっては想定外のミスだろうよ」


ケサランとの会話シーンは次回まで。

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