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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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18・最後の酒2

「お前が騎士団に行ってからは……まぁ、知り合いは多いからな、声かけてもらっていろいろ仕事してさ。おかげで俺も上級冒険者になれて、皆とさ、久しぶりに弟にも会って祝ってもらってよ……お前と次に会うまでは絶対上級冒険者になっててやるって思ってたからそらもう嬉しくて……」


 機嫌よく武勇伝を話すように楽しげに喋っていたエルの口調が、そこから急に重くなる。


「そっからほんの十数日後の事だった、弟が死んだって連絡が来たのは。……しかも、遺体見てこっちが愕然としてる時にさ、警備隊の奴が弟の罪状がどーのこーの……雇い主を裏切っただとか、どう考えたってありえねーこと言ってきやがってよ。お前との仕事でさんざん貴族様のやり口は見て来たから、これは絶対どこぞの貴族が仕組んだ事だって確信したぜ」

「それからは、その事件について調べていたのか?」

「おうよ、お前との仕事で稼がせてもらってたから当分仕事をしなくてもいいくらいの資金はあったしな」


 エルから契約の話を聞いて彼の弟の事件を調べた時に、事件前後のエルの行動についてもカリンに調べさせてあった。事件後にもエルは仕事を受けてはいたが、おそらくはその事件に関わる人間を探して、その関係者と組める仕事を受けていたようだと聞いている。なにせその時期受けていたのは報酬や難易度的にエルが受けるような仕事じゃないようなモノが多かったという事だから、情報目的だったのだろう。


「……でもなぁ、なかなか手がかりがなくて……それでどうにか、あの事件に生き残りがいたらしいってのを聞いて、そいつを探してたんだが……そいつもなかなか捕まらなくてよぉ」

「それがウラハッドか」


 それには酔って半分閉じそうになっていたエルの目が見開かれる。


「なんだ……知ってたのか」

「契約のためにこっちで調べたのを忘れたのか」

「あぁ……だよなぁ、お前ならさっさとそんくらいは調べ付くよなぁ……」


 あの樹海の仕事については、誘われた時からエルがあの仕事を受けたのに事情があるのは分かっていたし、ウラハッドから何か聞いたというのも魔法使い共から記憶消去の話が出たところで聞いている。調べてウラハッドが例の仕事の生き残りと分かった段階で、エルがそこで真実を掴んだのだと予想出来た。


「で、あの樹海の仕事で事件の真相がわかったのか?」

「おぉ。まぁ真相は予想通り過ぎた訳だけどな……」


 エルから契約の話が出た時に、この件についてエルが分かっている事については全て聞いてある。だから彼がウラハッドから聞いた事件の真相もセイネリアは当然分かっている。


 ただ……今のエルだからこそ、セイネリアはこの件について聞きたかった事があった。


「何故さっさと俺に相談しなかった。貴族がらみの調査なら、自分で調べるより俺に頼んだほうが早いと分かっていたんだろ? 俺が騎士団にいた時なら、伝言を入れてくれても、カリンに言っても良かった。急ぎの用事がある時なら連絡していいと言っておいただろ」


 エルは酔って虚ろになった目で宙を眺めて顔を顰めた。


「……お前に言ったら……そらぁ、全部調べてくれたろーよ」

「そうだ、言えばよかっただろ」

「ンで全部調べあげてくれて、そのためのリスクも全部背負ってくれて、ヘタすっと相手潰すとこまで全部やってくれたかもしれねーよな」

「……何故、そうしなかった?」


 エルは顔を下に向けた。


「そこまでしてもらったら……俺ァ礼として返せるものがねぇ」

「別に礼など請求しないぞ」

「……あぁ、分かってる。だから、言えなかったんだよ」


 エルはそこで黙って酒を飲む。

 セイネリアも飲み、エルのグラスに酒を注ぐ。

 暫く無言で二人で飲んでから、エルが溜息と共に口を開いた。


「一方的にやってもらうだけってのは……性に合わねぇ」

「借りを作った程度だと思えばいい」

「はっ、返せねぇ程の借りは作らない主義でね」

「それでも、少しづつでも返していれば――」


 お前も気が済んだろう、とそう続ける前にエルがこちらを見た。


「そしたらずっと、俺はお前に対してうしろめたさを感じるだろうよ」


 明らかに酔ってはいたが、彼の目はしっかりとこちらを見ていた。


「……俺はな、対等のつもりだったんだ。勿論、お前には最初から絶対敵わねぇって思ってた。……でもさ、俺の得意な事はお前があんま得意じゃないとこで、お前に出来ない部分を俺がフォローして埋めてやってるって自負があった」

「実際、そうだったろ。俺はそう思っていたぞ」


 それには、はっ、と声を上げて、エルはまた酒を呷った。


ここでぶった切ってすみませんが、2人の話は次話で終わります。

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― 新着の感想 ―
[一言] セイネリアはできないことができなさすぎる
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