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黒の主  作者: 沙々音 凛
第二十章:決断の章
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13・朝の鍛錬2

「いや、なんかこんな早くにわざわざ待ち合わせしてたンなら、邪魔しちゃ悪ィかなーとかさ」

「ただの朝の鍛錬だ。お前もそうじゃないのか?」

「あぁうん、そうだけどよ」


 声を掛けられた段階で観念して、エルが彼の方へ歩いていけば、気づいた客人の騎士がこちらを向いて丁寧に挨拶をしてくる。


「初めまして、ステバン・クロー・ズィードです。さすがアッテラの神官殿は朝早いのですね」


 なんだか言葉遣いまでやけに丁寧だったから、エルは一瞬驚いた。それからすぐに、その理由はエルが神官だったからだろうというのに気づいた。信心深い人間の場合はたとえ信奉する神が違っていても、『神官』には無条件で敬意を払ってくれる。地方の村や下級兵士などと話している時にはよくあるが、最近団の連中や貴族の依頼主と話す事ばかりだったためその感覚を忘れていた。


「エルラント・リッパーだ。あー、なんていうか育ちが悪ィもんで堅苦しい言葉遣いとかされっと話し難くてさ、良ければ普通に砕けた感じでお願いしたいんだけど」


 すると軽く微笑んでから、彼は手を出してくる。


「なら遠慮なく、予定では明日までこちらに厄介になるつもりだ、よろしく頼む」

「おぅ、こっちこそよろしく頼む」


 握手をして手を離す。見たところ本当に裏もなく、真面目で、相当に腕のいい騎士様だ。エルはセイネリアの方を見て聞いた。


「そンで、マスターがこんな早起きをされて、鍛錬でしょうか?」


 ステバンにああ言った後だから完全に嫌味だ。だが予想通りにまったく動じない男はさらりと答えた。


「あぁ、ここにいる間、ステバンとは時間があれば手合わせをする約束をしたからな」

「へっぇー。手合せねぇ」


 まぁ、嫌味を言う意味もない男だから言葉遣いはすぐに素に戻したが。

 ともかく、セイネリアと手合わせをするという段階で、そらーかなり根性がある人間なんだろうなとは思う。少なくとも最近の彼は強すぎて、一度でも手合わせをするとあまりの実力差に二度目を申し出る者はまずいない。それとも彼は、最近のセイネリアと剣を合わせてないからこそやろうなんて思えるのか。

 そんな事を考えていたエルだが、ステバンが最近のセイネリアと剣を合わせていない……なんて事はないというのはすぐに分かる。なぜならその後、手合わせを始めたステバンとセイネリアは一度で終わりにならなかったからだ。勿論毎回あっさりセイネリアが勝つのだが、それでもステバンはすぐ仕切り直して向かっていく。


――うん、まぁ、確かに強ぇわ、こいつ。


 戦神アッテラの神官であるから、セイネリアは別格としてもエルだって強い人間なんてのは何人も見てきている。そこから考えても1,2位を争うくらいにこの男は強い。他の人間より善戦してるとか、惜しいなんて状況にはならないから馬鹿には分からないだろうが、セイネリアの剣をあれだけ受けて動きが鈍らない点とか、受け流した後に無理やり一歩前に出ていこうとするところとか、見た目によらず体力と筋力は相当だ。しかもセイネリアに向かっていく時、絶対に同じ手で仕掛けていかない。あらゆる手を尽くしてどうにかしようとしてる。それに対してセイネリアもわざとだろう、いろいろな手を使って見せている。


――こらぁ、クリムゾンより強いんじゃねぇか?


 戦闘スタイルが違いすぎるから簡単に比較はしにくいが、おそらく団では実力ナンバー2のクリムゾンでも勝てなそうに見える。


「武器を変えてみてもいいだろうか?」


 5本目をセイネリアが取ったところで、ステバンがそう言いだした。セイネリアは当然それを了承し、ステバンは剣を変えて盾を持った。


「盾持ちでくるか」

「あぁ、君相手ならこっちの方がありかもと思って、クォーデンを見て研究した」


 クォーデンというのも騎士団時代の知人の名だろうか。エルは長棒を肩に担いだ状態で立ちしゃがみを繰り返しながら、2人の様子を緩い目で見ていた。


 ステバンが体を盾に隠すように小さくして屈む。セイネリアは構えてさえいない。ステバンの剣は盾の上にあって、セイネリアの様子を伺っている。


「はぁっ」


 ステバンが走り出して、一瞬の内に距離を詰める。盾を前に出してその上を剣で払うが、セイネリアは引いてそれを避けていた。それを見てステバンは前に出る、盾でセイネリアを押し出すような形で。


――おー、あいつを後退させてンならたいしたもんだ。


 とはいえセイネリアもいつまでも後ろに下がってはいない、ステバンが剣を振った時にその剣を絡めとるように受けて盾に叩きつける。そこで一気にステバンは後ろに弾かれた。


――やっぱあいつの馬鹿力はヤバすぎるよな。


 一度守勢に回ってしまえば攻勢に戻すのは厳しい。セイネリアの剣をステバンはひたすら盾で受けるだけになる。ただ普通の木製の盾ならそろそろ壊れるだろうというところで壊れていないから、相当補強してある盾を使っているらしい。

 それでも、いくら盾が持ったとして、人間の方が持たなくなる。勿論それは本人も分かっているようで、受けた時に無理やり前に押し返そうとしたのだが……そこで逆にセイネリアに引かれてバランスを崩す。直後、足を引っかけられて終わりだ。


次もこの続き。

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