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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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51・エルの決断1

 午前中の傭兵団は、仕事に行く連中が去った後は割合静かである。特にセイネリアの執務室は、余程騒がしい奴がいない限りは訓練場の声はほとんど聞こえてこないし静かだ。

 現在、部屋にいるのは自分とエルの2人だけで、セイネリアは彼から今日の予定を聞いているところだった。


「と、報告はこんくらいだな。何か問題はあるか?」

「いや、別に問題はない。想定外の事態がない限りは今の報告通りに進めてくれていい」


 基本的にエルは午前中に来て昨日の問題と今日の予定を、カリンは夜に今日の出来事や新しい情報等を報告に来る。

 来る時間はほぼ決まっていて、エルは朝一で出かける連中を見送ってからこちらに来るのがいつもの事だった。たまに忙しい時は朝食を食べずに来る事があるが、こちらで用意をするから食べていくかと聞いてもそうする事はまずない。彼は団員達とコミュニケーションを取るのも自分の仕事だからと、食堂で食べると言う。


「あぁ、そういえば団の連中に、空いてる時に一度はドクターのところへ行くように言っておいてくれ」


 余程の重要事項やセイネリアが団の連中の反応を見たい場合でもない限りは、団員達への連絡や全体指示はエルから言う事になっていた。セイネリアが毎回顔を出すと団員達がきついから、名前を出すだけで十分だというのがエルの言い分だ。


「サ……ドクターさんは皆の顔でも覚えておきたいンかね?」

「いや、全員の体調管理をするから一度話を聞いて場合によっては体を診たいそうだ」

「へぇ、本当に怪我した時だけ仕事する訳じゃねーんだ」

「専任ならそれくらいするとさ。場合によっては薬を作ってくれるらしい」

「そらー……益々ウチの評判が上がるな」


 エルは茶化してシシシと人の悪い笑みを浮かべる。


「いい環境を作っておけば、いい人材が集まるだろ」

「普通はそれ狙いの使えねー有象無象もくるけどな、ま、そういうのはお前見たら逃げるからふるいに掛けられていいけどよ」

「だから入団審査は厳しい、という噂を流しているんだ」

「おぅ、おかげで希望者は最低でも中の上の実力はあるな」


 最近では新しい団員については基本的にエルとカリンだけで決めている。ただし最後にセイネリアが直接会って確認はするのは止めていないため、まったく関与していない訳ではない。


「そういやラダーはずっとカリンとこにいるのか?」


 持ってきた書類を整理しながら、エルが聞いてくる。


「そうだな、力仕事を頼めて助かっているらしい。そっちで使いたいのか?」

「ん-……あいつ人当たりいいしさ、新人の案内役とかやってもらえっと楽だなとか。一応裏事情知ってる人間の方が注意事項とかちゃんと把握してるし、あいつなら細かい事をいろいろ気づいて言っといてくれそーかなと。なにせ俺以外となるとカリンは忙しいしクリムゾンはなぁ……だし」

「分かった、カリンに言っておく」


 ちなみに現在、クリムゾンはこの部屋の前で見張りをしている。あの性格であるから団員達から浮いているのは当然として、他の者から明らかに恐れられて避けられている。影でいろいろ言われている事も多い。ただ彼は何を言われてもセイネリアの言う事以外は無視するため、団内で騒ぎを起こした事はなかった。せいぜい手合わせでやりすぎて怪我を負わせたくらいだ。それも相手が弱すぎたのが悪いと言える内容の。


「そういやさ……考えたら、団の内部事情知ってる面子の中で、俺だけはお前と個別の契約ってのをしていないよな」


 エルが置いた書類に目を通そうとしていたセイネリアは、そこで顔を上げて彼の顔を見た。


「まぁ、そうだな」


 そうとだけ返せばエルは黙る。かといって話を終わりにして立ち去ろうとはしない。


「たまたまそうなっただけだ、必要がなければしなくても問題ないだろう」


 それでもエルは立ち去らない。


「必要があるンなら?」

「あるのか?」


 聞き返せば、エルは大きく息を吸って、吐き出してからこちらの顔をじっと見て言ってきた。


「あぁ、お前に頼みたい事がある。だからお前と契約したい、代償は他の連中と同じく、お前の部下になる事、絶対の忠誠でもなんでも誓ってやる」


 エルの顔は真剣で、いつものように茶化す空気は少しもない。彼が本気で言っているのはすぐ理解出来た。


次回はこの続き、おそらくそれでこの章は終わりになります。

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