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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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49・魔法使いの昔話2

 クリュース内の村の子供なんてのは、男は大抵冒険者になりたくて体を鍛えたり剣の勉強をしたりするものだ。特に地方など教育面が弱いところ程、男は強いのが偉いというのが普通になる。サーフェスのような人間は確かに変わり者扱いで、周りから馬鹿にされていただろうというところまでは想像できた。

 ただ幸いな事に彼は才能を見出されて魔法使いを目指す事になった。

 植物系魔法使いの弟子となった彼は師の元で学ぶ事で更に薬草に詳しくなり、師である魔法使いも彼女の事を診てくれたらしい。その甲斐あって呼吸器系が弱かった彼女は、日常生活的には問題ないくらいにまで治ったという。


 そうしてサーフェスが将来はこのまま植物系魔法使いになって治療師になるつもりだと言った事で彼女は、なら自分はリパ神官になる、と言ったそうだ。


 この国で医者や治療師と呼ばれる人間は基本、治癒系の魔法が使える神官か、植物系の魔法使いである。彼らは単体で治療院をしている事も多いが、いろいろな状況に対応できるよう、他の治癒方法を持っている相手と組んでいる事もよくあった。彼女もだからサーフェスに合わせてリパ神官になると言ったのだろう。

 そうして彼女はリパ神官になり、サーフェスと二人でパーティを組んで薬草を取りにあちこちに出かけた。


 だが……そこまで淡々とはしていても穏やかだった魔法使いの口調が、そこで一変して険しくなる。


「ある山に行った時、害獣退治で小銭を稼いでいるらしい性質の悪い冒険者にであってね。リパ神官である彼女に向こうのパーティーに来てくれないかとしつこく絡んできたんだ。勿論彼女は断ったけど、相手は戦士系の連中ばっかりでこちらは術師同士だからね、完全になめられてた。僕は押さえつけられ……彼女は……奴らに襲われて、逃げて……崖から自ら、飛び降りたんだ」


 歯ぎしりをする勢いで押し殺しながら出した声は途切れがちになる。だが状況を知るだけならそれだけで十分だった。

 言い切った後両手を握りしめて無言でいる彼を暫く見てから、セイネリアは聞いてみた。


「奴らに復讐はしたのか?」


 サーフェスはそこで顔を上げてこちらを見た。その顔は笑っていて、確かに瞳には狂気が見えた。


「勿論さ、彼女を生き返らすため、奴らに復讐するため、僕はとにかく研究した。樹海の城で一気に木を成長させた術を見せたよね、あれはまず根だけを先に成長させておけば、上は一気に成長させる事も可能なんだ、だからそれで……」

「一つ聞いていいか?」


 セイネリアが話を止めると、魔法使いは勢いを削がれたのか困惑した顔をする。


「その急成長させる魔法や、植物擬肢を作る魔法は、全部彼女が死んだ後に習得したのか?」


 それに彼はまたうすら笑みを浮かべる。


「そうだよ。彼女が死ぬ前の僕は、本当にただ薬草に詳しいだけの見習いだった。植物の成長魔法は使えたけど、芽から花を咲かせるまでとかの常識的な範囲での成長しかさせられなかった。その植物を作り変えて常識以上の成長を出来るようになったのは彼女が死んでからだ」


 つまり彼が見習いであるのに関わらず、植物の急成長や、植物擬肢なんて魔法使い並みの魔法が既に使えたのは、全て彼の執念による結果だという事だ。才能も確かにあったのかもしれないが、狂気ともいえる程の彼の執念が、その能力を使えるようにしたという事だ。


 セイネリアは我知らずクっと喉を鳴らした。

 執念、望み、願い――それだけで、普通なら出来ないだろう事を成し遂げたこの男の存在は黒の剣を手に入れてから燻っていた自分の中の苛立ちを少しだけ和らげてくれた気がする。この男のような、何をしても成し遂げようとするその執念を今のセイネリアは一番欲していた。


 セイネリアは今まで強くなる事だけを望んできた。

 強くなって自分が生きる意味が出来れば、自分が生きている実感や、心を満たす感覚を得られると思っていた。

 けれど、強くなって手に入れたのは前以上の虚無感で、少しも満たされるものは得られなかった。かえって以前の方が、得られた勝利と強さに喜びを感じられた。


「俺はな、正直、お前のような執着が欲しい」


 そう呟けば、魔法使いはまずは驚いた顔をしたものの、すぐに冷静な顔に戻って言ってきた。


「……あんたに大切な人っているの?」

「いや」


 即答で返してから、だがセイネリアは考えた。


「お前のように執着するほどの人間はいない。だが、いい状態でいられるよう望んでいる人間ならいる」

「そうなんだ。……じゃぁ、あんたは思った程薄情でも冷酷でもないんだね」


 サーフェスは笑った。セイネリアも釣られて唇を歪めた。


「思ったより人間ぽくて安心したかな」


 それにセイネリアは何も返さなかった。だがほんの僅か、自分の中でも安堵する気持ちがあったのは確かだった。


サーフェスとの会話はこれで終わり、かな。

もうすぐこの章は終わり。

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