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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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44・アルワナ神殿にて1

 この国の国教である三十月神教は名前の通り多神教であり、神殿は基本的には神ごとにある。たまに一つの神殿で複数の神を奉っているところもあるがその場合も祭壇は個別にあって、神殿に入ってからそれぞれ祈りたい神のもとへ分かれるようなつくりになっていた。

 その主神は慈悲の神であるリパだが、対極にある神は意識と眠りを司るでアルワナである。担当する月もリパが満月なのに対してアルワナは新月で、この2つの神が対極にいる事を分かりやすく示している。イメージとしてもリパが光ならばアルワナは闇といったところだろう。


――勿論それは、所詮魔法使い達が作った『設定』に過ぎない。


 真実を知っているセイネリアとしては、どうしてもそう考えてしまう訳だが。

 三十月神教は魔法使いとこの国の初代王が作ったものであるから、神話や教えはどこかの物書きが書いている創作の物語と同じだ。ただセイネリアはもとから神なんてものを信じた事はなかったから、どんな宗教だろうとただの人間が作り出した作り話だと思っている。だからこそ、魔法使い達が秘密にしていた三十月神教の秘密を知ったところで別にどうとも思わなかった。セイネリアにとっては、作り話の作り手が分かっただけでしかない。


 ただしセイネリアは、人の祈りというものを軽視はしていなかった。


 祈りというのは願いでもある。

 たとえ祈る対象が偽物であっても、多くの願う意志が一つに集まればそれが強い力となってもおかしくはない。……実際、魔法使い達はその力を利用して人々の魔力を結びつけ、本来魔法を使えない人間にも魔法を使えるようにしている。無力な者達が祈る事で神殿魔法という力を手に入れている訳だ。

 それはある意味、祈る事によって救いの力を与えられているともいえるのではないか。

 だからつまり、祈る対象などどうでも良くて、強く願うその意志こそが意味がある、セイネリアはそう思っていた。


 光のリパに対して闇をイメージするアルワナは、活動も地味で神殿も大きな街中とかではなく僻地と言える場所にある事が多い。だからほとんどの人間はアルワナの神殿がどこにあるかも知らない。地味で何をやっているのか分からない、不気味なイメージの神、というのが一般的認識だ。

 ただそれはおそらくアルワナ神殿自身が意図してそうなるようにしていると思われた。なにせ彼らは表舞台に出ない代わり、神官達を各地に送り込んで情報収集をしている。眠っている人間から情報を引き出す能力を持っている彼らは、この国で一番大きな情報屋でもある。


「では、こちらの準備が整いましたので、そちらの準備がよければ始めましょうか」


 灰色の布を被って顔の上半分を隠したアルワナ神官がそう言った。ここは首都から比較的近い――と言っても首都を出てから馬車で半日は掛かる場所だが――アルワナ神殿だ。総本山である大神殿はここではないが、アルワナ神殿の中でも大神殿の次くらいには大きいところであるらしい。今回反魂術を行ってくれるのはこの神殿の司祭長で、アルワナ神殿内でも3番目の地位にあたる人物だそうだ。


「はい、始めて下さい」


 台の上に置かれた『彼女』の体の傍に跪いていたサーフェスが立ち上がる。彼が彼女から離れるのに合わせて、神官が彼女の前に向かう。そうして神官は彼女の前に立つと周囲に視線を巡らせ、何かを見つけたように暫く視線をどこかに止めてからセイネリアの方を向いた。


「では、セイネリア殿、こちらに来ていただけますか?」


 セイネリアは黙って神官の傍に向かう。

 これだけの大がかりな術を使う割に、今この場にいるのはセイネリアとサーフェス、そしてこの司祭長の3人だけだった。本来なら反魂術には補助として神官が複数つくとの事だが、今回は魔力に関する補助はいらないだろうという事で他に人間は呼んでいないという事だった。


『その方が貴方がたにも都合が良いでしょう?』


 そう聞いてきたこの神官がこちらの事情を何処まで知っているかは分からない。ただ、これがただの死者を生き返らせるための反魂術ではないのは分かっているのだろう。へたをすると彼女の体が作り物で、これが成功したならサーフェスが魔法使いの禁忌を犯す事になるとまで分かっているかもしれない。

 どちらにしろ、死者からも情報収集が出来る連中であるから、秘密が秘密になっていなくてもおかしくはなかった。


ってことでこれから反魂術。

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