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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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42・彼女の体1

 その日の夜は満月一つ前のレイペの月のが出ていて、しかも少し赤みがかっていた。セイネリアがそれに不安を感じる事はなかったが、先ほど執務室に来たエルは気味が悪いと何度も愚痴っていた。どうやら彼は今日数人と外に飲みに行く予定だったらしいが、月を見て行く気をなくして中止となったそうだ。


 セイネリアはサーフェスの部屋に向かっていた。

 彼が来てから今日で8日、そして明日のリパ夜の日、アルワナ神官の元で反魂術が行われる事になっていた。

 そのため団に来てから今日まで、彼はその準備に忙しくて部屋にずっと籠っていた。だから当然まだセイネリアも団員達に彼の紹介をしていなかった。もし彼の目的が果たされたなら一人ではなく二人を紹介する事になるからという理由もあるが、とりあえず今のところ彼がここにいるのを知るのは彼の引っ越しを手伝った団の幹部連中だけだった。


「俺だ、明日の話がある」


 魔法使いの部屋をノックしてそういえば、暫くしてドアが開いて少しやつれた様子の魔法使いが姿を現す。


「いいよ、入って」


 現在彼がやっている事は人に見せられないため、この部屋には常に鍵が掛かけられていた。

 なにせ彼は今、人間一体分の体を作っている。

 ここに来る前に体のパーツ自体はほぼ作り終えていたという事で、このところやっていたのはそれをつなぎ合わせる事ではあるらしい。勿論手足などのよく作られるもの以外はエル達に見せる訳にはいかなかったから、そのあたりは箱に詰めて見えないようにして運んだ。……主にセイネリアとクリムゾンが運んでいた例の魔法陣が描かれていた箱がソレだった。


「完成したのか?」


 聞いてみれば、彼は表情に笑みを作ってドアを大きく開けた。


「見てくれる?」


 入ればすぐに棺サイズの水槽があって、その中に女性の体が浸かっていた。


「……作り物には見えないな」

「でしょ?」


 得意げにそう言ってから、サーフェスは水槽の中にいる彼女をうっとりとした目で見つめた。


「とにかくかかった時間のほとんどは頭、というか顔なんだけどね。なにせ体は最悪服で隠せるし、手足なら違和感があっても擬肢だっていえるけど、顔だけは隠せないから本物に見えなくちゃならない」

「確かにな」


 セイネリアは彼女の顔を見てみたが、どうみても人間にしか見えなかった。ただし現状は水の中にあるため、実際水から出して近くで見た場合はまだ分からない。


「しかし、人間一人の体が作れるなら、あらかじめ体を作っておけばどんな死に方をしてもその体に魂を乗せ換えるだけで生きられるんじゃないか?」


 勿論、作るための手間と費用を考えたらそこまで簡単な話ではないという事くらいセイネリアも分かっている。とはいえ金のある貴族連中なら、それが可能であればいくらでも金を出すだろう。いっそそういう連中で実験してから、本命の彼女の復活を行った方がいいのではないかと思っただけだ。


「それは無理かな。魂を定着させてその人間のままでいるためには、元の体に出来るだけ近くなくちゃならない。元の体とはまったくの別モノに入れると、本人の記憶がモノ自体の記憶にすり替わって行ってしまって自分が誰だか分からなくなったりする。魔剣みたいにね」


 セイネリアはわずかに眉をよせる。確かに、魔剣に入った連中は記憶や意識があやふやになるのは知っている。


「だから擬体はもとの彼女の体を出来るだけ使わないとならない。この体の場合は髪と骨が彼女自身のものだよ。ね、あらかじめ作っておくなんてのは無理でしょ?」


 反魂術に関して、セイネリアの知識は大してない。彼女の復活のために調べていたサーフェスの方が詳しいのは確実だろう。だが、魔剣を作る――つまり武具に魔法使いの魂を入れる理論と似たようなものと言われればある程度分かるモノもある。


「だから基本、反魂術は本人の体を治してそれに使うんだよ。ただ彼女の場合はね……高所からの転落死だから、体の損傷的に『作る』しかなかったんだ」


 つまりこの男は愛しい彼女の死体をかき集めて、その髪と骨を採取してこの体を作ったのだ。それは確かに狂っていないと出来る事ではないなとセイネリアは思った。


ちょっと猟奇的な話になってますが、とりあえずサーフェスさんが作る擬体の理論説明回ですね。もう1話あります。ちなみにその形にしただけの偽物ってニュアンスで擬って漢字を使ってます。

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