39・名の通り
「ンじゃま、来る日が決まったら早めに教えておいてくれっか。どーせまた俺が団内の案内とかするんだろ?」
ラダーの時もそうだったから当然そうなるものだと思っていたエルだが、セイネリアの返事は予想とは違っていた。
「いや、基本は自分の部屋に籠ってるから別に案内はいらないそうだ」
それにはちょっとガクリとポーズをとって。いやだってそもそも知り合いだしそうくると当然思うじゃねーかというのがエルの言い分だ。だがそうなると彼は傭兵としての仕事には出ないで完全に団内だけの仕事になるのだろうかという疑問が沸く。
「どうせ一般団員と明らかに仕事が違うからな、来てから一度皆を集めて俺の方から言っておけばいいだろ」
「ってぇとやっぱ、依頼の仕事に出てく事はないのか?」
「基本的にはな。奴には自由に外を出歩き難い理由がある」
「そら、魔法使いとしての問題か?」
「そうだ」
そう答えられたらエルはそれ以上聞きようがない。
「あと団に来たら、名前は呼んでほしくないそうだ」
「なんでまた」
「奴がここにいるということをあまり公にしたくない」
「それも魔法使いとしての問題なのか?」
「あぁ」
なんだかよく分からないが……ってか分からなくていいが、魔法使いが傭兵団に所属するって事はいろいろ面倒なんだなとエルは思う事にした。
「んじゃなんて呼べばいいんだよ」
「本人の希望は、ドクター、だそうだ」
つまりその名の通り、依頼の仕事に出ない代わりに団の連中の健康管理をしてくれるという事なのだろうとエルは思った。
サーフェスの願いを叶え、団に迎えれるために必要なモノ。
金と魔力は特に用意する必要はないが、彼に割り当てる部屋の準備をして、そうして最後に反魂術が使えるアルワナ神官の手配となる。ただセイネリアは今回、一番確実なアルワナ大神殿の最高司祭にいきなり頼むことはせず、まずラスハルカに聞いてみることにした。
彼に伝言を送ると割合すぐに返事が返ってきて、彼は今、首都から近い港町リシェにいる事が分かった。どうやら南部方面から船で帰ってきたところらしく、偶然とはいえいいタイミングだと言えた。
リシェなら馬で行けば明るい時間内に行って帰ってくる事が出来る。場所によってはまたケサランに転送を頼むつもりだったがその必要もなく、セイネリアは単身で彼と会うためにリシェに向かった。
待ち合わせは、港近くの大きな酒場。案の定入ってみれば場所柄船員らしき人間の姿が目立って、冒険者の多い首都の酒場とはかなり雰囲気が違っていた。
だからこそ冒険者らしい恰好の優男に見えるラスハルカは目について、セイネリアは店に入ってすぐ、手をふる彼の姿に向かって歩いて行った。
「お久しぶりです。いいタイミングでしたね」
既に酒が入っているらしい彼は、少し赤味かかった顔で言った。
「タイミングが良すぎるくらいだがな」
言えば彼はあいまいな笑みと共に、えぇまぁ確かに、なんて誤魔化すような言葉を返してくる。
「それにしても、貴方くらいの有名人が一人で歩き回ってるのは普通ないですよね。貴方が入ってきたのを見た途端、冒険者っぽい人達は驚いていましたよ」
それでセイネリアは気が付いた。
「わざわざ港近くの店にしたのは、ここだと冒険者より船乗りが多いからか」
つまり冒険者が多い首都方面近くにある店だとセイネリアが注目され過ぎるからこちらの店を選んだという事だ。
「えぇそうです。ま、貴方なら一人で行動していても問題ないとは分かってますから私は驚きませんが」
冒険者として名を上げればそれを倒して名を上げようとする者に襲われる。だからこそ、上級冒険者として有名になった者は傭兵団を作り自分の身を守る。それがこの国での常識であるからセイネリアくらいの有名人が単身で行動しているというのは確かに常識外ではある。
「俺の噂の内容を聞けば、余程の馬鹿か、軍隊一つもって襲ってこれる連中でもないと仕掛けてなど来ないだろ」
「そうですね、首都周りの人間は特に貴方の噂を知っていますから、命が惜しければ貴方に手をだそうなんて思わないでしょう」
「そういう事だ」
普段は放っておけば勝手にクリムゾンが護衛でついてくるのだが、今日は来るなと言って置いてきていた。クリムゾンが外部の人間に漏らすとは思わないが、一応サーフェスの目的に関わる事を必要な人間以外に教える気はなかった。ただラスハルカについては、彼の性格上問題ないだろうと言う事と、他にも確認したいことがあったのだが……。
そんな訳で次回はラスハルカとの交渉。