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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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38・すごいところ

 エルがセイネリアの執務室に入ると、そこにはその部屋の主である黒い男しかいなかった。


「なんだ、サーフェスは帰ったのかよ」


 だから思わずそう言ってしまった訳だが、これが抗議口調になるのには事情がある。

 今回、やはり興味があるからサーフェスとセイネリアの話し合いに自分もいてもいいかと聞いたエルだったのだが、サーフェス本人が嫌だという事で部屋にいる事は許されなかったのだ。


――そりゃさ、自分を売ってでも叶えたい願いなんてモン、他人に聞かれたくないって気持ちは分かるけどよ。


 だからサーフェスを案内した後、部屋から追い出された事それ自体はいいのだ。ただ一応、サーフェスがセイネリアと会えるよう仲介したのはエルであるし、話が終わった後に挨拶というか、結果がどうなったとかの話くらいはしていくだろうが普通はよ、と思う訳だ。


「ンで、交渉結果はどうなったんだ?」


 仕方なくセイネリアに結果を聞けば、最近は前にもまして感情の読めない顔しかしなくなった男は気が抜ける程あっさり答えた。


「あぁ、交渉は成立だ。サーフェスはウチに入る」


 予想通りの答えだが、つまりそれが示すところの意味は……。


「それってやっぱ、代わりにあいつのお願いを聞いてやったンか?」


 聞けばやっぱり眉をピクリとも動かさないこの団の主は、あぁ、とだけ簡潔に返してきた。


「あー……いや、お願いは何かなンてのは聞かねーよ、そもそも聞かれたくないって事らしいし。ただあいつの事だから結構吹っ掛けてきたんじゃないかと思ってさ」


 ずるい言い方だが、副団長としては団の経営にかかわる部分は聞いてもいいんじゃないかと匂わせてみる。


「そうだな、奴の目的は一つだがそのための願いは一つではなかった」

「ってことは金とお前からの力と……他にも何か、って感じか」

「そんなところだ」


 セイネリアよりも彼との付き合いが長いエルが見て来たところでは、サーフェスという男は自分を安売りはしない。ただ勿論、セイネリアがいくら人材としてサーフェスを欲しいと思ったとしても、あまりに無茶な要求だったら承諾する筈はない。そこで黙って考えていたら、セイネリアはこちらの考えを読んだかのように言ってくる。


「あいつの願いは俺以外に頼むのなら難しいが、俺なら大した手間ではない事ばかりだ。団として損害を出す程の何かをしてやる訳じゃない。金は多少かかるだろうが、その分は本人に働いてもらえばいい」

「まー……そりゃあいつが団にいりゃいろいろやってくれんだろーけど」


 実際、お抱えの植物系魔法使いが傭兵団の中にいる、なんてのは他にはあり得ない訳で。しかもそれが植物擬肢を作れるくらいの人間だというのならなお更。つまりこの団にいれば、手足を失っても普通なら高額でそうそう手が出ない植物擬肢を作って貰えるという事になる。


――いやまぁ、そもそも見習いがつかない魔法使いが傭兵団にいるってのからしてあり得ねぇけどよ。


 なんだかセイネリアの傍にいて魔法使い慣れしてしまっていたが、本来魔法使いというのは一般人とは関わらないものだ。冒険者として仕事をしているのは見習いばかりで、本物の魔法使い様なんてのは魔法道具用の露店で何か買う時と医者をやってる連中以外、会う事なんてまずない存在だ。


「役に立つ事は分かってるからな。それに頭もいい、何かあった時に意見を聞くだけの意味がある男だろ」

「まぁ、そりゃなぁ」


 ちなみにエルがセイネリアを尊敬……ってか、信頼というか、とにかく感心するのはこういうところだった。自分の事を強くて頭がいいと自負してる人間というのは、普通は自分より劣ってると思う人間の話を聞こうとはしない。だがセイネリアはどんな人間でも、ちゃんと筋道立てて意見を言えば聞こうとする。それを採用するかどうかは結局彼本人の判断だが、それでも自分と違う意見を言える人間を評価して傍におきたがるなんてのは地位が上になればなる程普通は出来ない事だ。

 強引で勝手でおっかなくて俺様な男だが、そういう部分に絶対こいつは将来すごい奴になると思ってエルは彼と組んでいたというのもある。


 思った通り、組んだ当時はただの一冒険者だった彼は今、魔法使いからこの国の王になれなんて言われるくらいで――それは断ったものの、随分遠い存在になったなと最近は実感する事が多い。

 それでも今も尚、傍にいる人間の話を聞く気があるというところが本当にすごいとエルは思う。


 だから――彼になら、一生を捧げて仕えるなんていう契約をしてもいいと考える連中の気持ちも分かるのだ。


次回はエルとのやりとりをもうちょいと、アルワナ神官側の交渉の話。

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