夢想家の羊
とある村はずれの牧場に、一頭だけ、変わり者の羊がいた。夢見がちな羊だ。
ある日、その羊は白いモコモコな体を揺すりながら空を見上げていた。高い空の上には、一羽のタカが悠々と羽ばたいていた。
それを見た羊は、あのタカのように、空を自由に飛びたくなった。そして、ふと妙案を思いついた。
「そうだ! ボクのモコモコの毛を編んで、羽を作ろう! そして、あのタカのように空を飛ぶんだ!」
それを聞いた周りの羊たちは、そんなのできっこない、と夢見がちな羊を笑った。けれど、そんなことは全く気にするでもなく、羊は自分が空を飛びまわる姿を想像して蹄を鳴らしていた。
その日、牧場の羊たちの羊毛刈りが一斉に行われた。
ある日、夢見がちな羊は白いモコモコな体を揺すりながら遠い地平線を眺めていた。地平線の先には、一頭のシカが悠々と野原を駆けていた。
それを見た羊は、あのシカのように、立派でカッコイイ角が欲しくなった。そして、ふと妙案を思いついた。
「そうだ! ボクのモコモコの毛を編んで、角を作ろう! そして、他の羊たちに自慢するんだ!」
それを聞いた周りの羊たちは、そんなのできっこない、と夢見がちな羊を笑った。けれど、そんなことは全く気にするでもなく、羊は自分が立派な角を付けている姿を想像して蹄を鳴らしていた。
その日、牧場の羊たちの羊毛刈りが一斉に行われた。
ある日、夢見がちな羊は白いモコモコな体を揺すりながら高い柵の前に立っていた。それを隔てたすぐ先には、一頭の大きなクマが牙と爪を剥いて羊をじっと見つめ返していた。
それを見た羊は、このクマのように、強そうな牙や爪が欲しくなった。そして、ふと妙案を思いついた。
「そうだ! ボクのモコモコの毛を編んで、牙と爪を作ろう! そうすれば、もうケンカにだって負けないぞ!」
それを聞いた周りの羊たちは、牧場の隅っこでぶるぶる震えながら、何やってる、そいつに食われるぞ、と夢見がちな羊に呼びかけた。けれど、そんなことは全く気にするでもなく、羊は自分が牙と爪を付けてケンカに勝つ姿を想像して蹄を鳴らしていた。
その日、牧場の羊たちの羊毛刈りが一斉に行われた。
ある日、夢見がちな羊はいつものようにモコモコな体を揺すっていた。周りの羊たちは、それを見てくすくすと笑っていた。
アイツ、またいつものように毛をどうのこうのって思ってるに違いない。今日が毛刈りの日だって知らないのか? そんな周りの羊たちの言葉は、夢見がちな羊には届かない。
夢見がちな羊は、いつも通りどこかを見つめ、すぐに醒めるはずの夢に浸っていた。
しかしその日、毛刈りは行われなかった。次の日も、その次の日も、毛刈りどころか、人間の姿も、ワンワンうるさい犬の姿も、その日を境に見なくなった。
初めはのんびりしていた羊たちも、次第に焦り始めた。足元の草をほとんど食べ尽くしてしまったからだ。
このままじゃ飢え死にしてしまう。羊たちは、一体どうしようかと高い柵の中で行ったり来たりを繰り返していた。
しかし、たった一頭だけ、じっと柵の上を見上げていた。夢見がちな羊だった。白いモコモコな体を揺すり、蹄を鳴らしながら。
「そうだ! ボクのモコモコな毛を編んで、ハシゴを作ろう!」




