変わらぬ願い
天使のことは、「身勝手で屑だなあ」と思いながら書いていました。
『彼』のことは、「思考回路がブッ飛んでるなあ」と思いながら書いていました。
「覚えているのなら話は早い」
そう言って日生ーー否、元日生は日生に詰め寄る。
「こんな体にした責任を取って貰おうか」
「……あれは事故だったんです」
当時を思い返しながら日生は語る。
「あんな邪魔が入らなければ、入れ替わりは完璧なはずでした」
「そんなことは聞いていない」
『彼』はあの時のように日生の手を掴む。使っているのは左腕だからあの時とは逆だけれど、何をするつもりなのかは日生にも理解できた。
「何をするつもりですか」
慌てて静止する日生。
対して『彼』は、当たり前のことのように淡々と返す。
「決まっている。あの日をやり直すぞ」
つまり契約を取り消したいのか、と日生は直感した。
「い、嫌だ。この体はもう自分のだ。今更返すなんて……」
すると『彼』は不思議そうな顔をして日生を見上げる。頭一つ分の体格差を埋めるように顔を近付けながら、「なんだそれは」と言い捨てた。
「続けろ」
「……な」
初めは聞き間違えたのかと思った。
『彼』は人間の価値観では被害者のはずで。
だがこれではまるで――――
「続けろと言っている。俺は、早く天使になりたいんだ」
――まるで、『彼』が進んで人間らしさを失おうとしているように思えた。
「……すぐには無理です」
日生がやっとの思いで告げると、『彼』は見るからにうろたえ始めた。
「何故だ? 右腕が駄目でも、まだ左がーー」
「あの日の失敗、原因は恐らく容量限界」
食い下がる『彼』を宥め、日生は語る。
「問題なのはどちらの腕かではなく、大元の器です。今のまま繰り返しても、残った左腕が同じように消し飛ぶだけですよ」
そんな、という呟きが洩れた。それと同時に『彼』の手からも力が抜ける。
浮かんだのは願いが潰えた時の、がく然とした表情だ。
日生には分からない。
『彼』が何故絶望しているのか。
何故天使などになりたがるのか。
何故――変わらぬ願いを抱き続けられるのか。
『彼』を前にして考え続けても明確な答えは得られない。
日生はその場を去りかけて――もしかすると、かつて天使だった自分に理解出来ていない感情があるのかもしれないと思案する。
「自分は『すぐには無理』だと言いました」
瞬間、『彼』の瞳に光が灯る。
「すぐには」。裏を返せば、「いずれは可能かもしれない」ということ。
「できる、の……?」
『彼』の疑問に、日生はコクリと頷く。
「そうですね。あなたが……もう少し、天使の力を使えるようになる頃には」
「俺は何をすればいい!?」
食い気味に尋ねる『彼』へ。日生は苦笑いを浮かべながら答えた。
「詳しくは、また明日話しましょう」




