片翼片腕の天使
やっとあらすじに書いた部分まで書き上がりました。
サブタイトルでお察しかと思いますが、今話には人体の欠損(後)描写があります。
そして放課後。
校舎裏を訪れた日生は、先客の存在に気付いた。
色素の薄い髪を無造作に短くした少女が振り返る。
ーー否。女物の制服を着ているが故に性別を判断しかけたが、その身に纏う雰囲気は女性と断言するには勇ましさが先行しているように思えた。かといって男性と呼ぶにはあまりにも儚げに見える。
男女を指定しない形の、中性的な美少年。それが日生の抱いた感想だった。まるでーーまるで、西洋画の天使が成長して飛び出してきたかのような。
「先客……いや、あなたが招待主?」
日生が手紙を突きつけると、目の前の『彼』は腕を組んだまま物々しい表情で「そうだ」と応える。
変声前の少年に近い声域はいかにもそれが自然体といった様子で、仮に声楽家の前で唄おうものなら勧誘を通り越して嫉妬心すら引き起こすだろう。
質問の答えは肯定。招待主、手紙の差出人、……どこかで日生に目を付けた人物。
「つまり、あなたが藤岡先輩か」
「んなわけあるかぁー!」
ガサッ、と日生の背後の茂みが立ち上がる。
声の主は振り返らなくても目星がついていた。日生は目の前の『彼』を見据えながら背後の人物に声をかける。
「多聞。手紙には『一人で来い』って書いてあったよね」
「そ、それは」
顔を見なくても級友が狼狽えているのは丸分かりだった。
「親友の告白現場だろ? 見届けにゃあ男が廃るって……」
「か、え、れ」
その後も多聞はなかなか引き下がろうとしなかったが、「告白したいと思っていた相手が約束破って友達連れてたら百年の恋も冷めるわ」という主張に納得したようで、「付き合い始めたら教えろよ」という台詞を残してやっと帰っていった。
「それで、藤岡先輩とは?」
冷ややかな視線を送る『彼』には「こちらの話」と返して、本題ーー呼び出した理由について尋ねる。
……招待主の『彼』が藤岡先輩ではなかったことに安堵したのは、ここだけの秘密だ。
「呼び出した理由? ……成る程、まだ気付かないのか」
『彼』は端正な顔を小さく歪め、嘲るように笑みを浮かべる。
そしてそのまま突如制服を脱ぎ出した。ブレザーが地面に落ちる。ブラウスのボタンを左手だけで器用に外し、するりと両肩を露わにする。いきなりの展開に日生も呆然と見ていることしかできなかった。
白い陶器のような肌が露わになる。隠すことなくさらけ出した薄い胸と、切り落としたみたいに二の腕の半ばから先が喪われている右腕。いずれも正常な光景とは言い難いが、日生の視線はどちらにも向かない。有るべきものが無いくらいじゃあ驚かない。
ーー驚いたのはその背後。『彼』の背には本来人間には有り得ないモノがあったのだから。
「この体ーーどうしてくれる!」
『彼』が叫ぶ。
背中の右側。そこには真っ白な、天使の翼とでも呼ぶべき物が生えていた。




