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一日目夕暮れ②

竹本トトロス (たけもと ととろす) 職業 農家


忠秋の母方の従兄弟。二つ年下。忠秋曰くヘビースモーカー。ハーフ。明るい栗毛に青い瞳をしている。英語はあんまり喋れない。バリバリ日本語使うよ!(byトトロス)

いつでもどこでも楽しそう。よく頭がぶっ飛んでいると言われる。

彼は正気の世界において狂気であり、狂気の世界において正気である。




すれ違う住人もおらず、住人の中に紛れている職員たちにも会わなかったので工房に向かってだらだらと歩を進める。住人たちの住宅街から少し離れたこの先に俺の終の棲家はある。先ほどのことについての報告書のことを考えると頭が痛くなってくるがそれと同時に自分がこの『街』に住むようになった時のことを思い出していた。


俺はがらくたになった元ニンゲンの住む『街』を管理する家の三男として生まれた。


この世界にはルールがあってそれはカミサマが決めたものなのだという。そのルールを破るとカミサマからニンゲンの資格を取り上げられてしまい、自我を持たないがらくたになってしまうのだ。

がらくたになった元ニンゲンは自我を失い、がらくたになる前のニンゲンとしての最後の一日をずっと繰り返すことになる。その姿は狂気に満ちており、ニンゲンががらくたと同じ場所で暮らすとニンゲンは引きずられて狂気に陥ってしまう。


狂気に陥ってしまったニンゲンはやがて自我を失い、がらくた達と同じようなものになってしまう。そして1、2年でなぜか死んでしまうのだ。というのが一般的に知られているがらくたについての情報だ。自分たちも狂気に飲み込まれてがらくたになるのを恐れた人々はがらくた達を隔離する『街』を作った。


そうしてそこから住人達が出てこないように管理する組織を作り上げた。その一つが俺の実家である。

だからルールを守って正しく生きましょうというのが世間一般の教育だが真実は違う。確かにルールを破ると自我を失い、がらくたと外のニンゲンが呼ぶ存在になるがルールの何を破るとがらくたになるのか。それはわかっていないのだ。


表向きには俺の実家は『街』の管理会社だ。職員を派遣して住人達を管理し、外のニンゲンに害を与えることのないように監視する。そのためこの『街』で働く職員は外のニンゲンから敬意を払われている。がらくたから自分たちを守り、世界のために働いている立派な組織だと。

実体はそんなご立派なものではないが。


俺の実家はがらくたについて研究している家だった。この管理組織は様々な分野に担当が分かれていて、家によって担当が違う。俺の実家はがらくたになる原因について調べていた。

そもそも世界のルールとは何なのか。今のところごく普通の道徳的教範なのだがこれをきちんと守っていてもある日突然がらくたになってしまう。


その原因を調べた結果、どうやら精神に過度の負荷がかかり、疲弊した状態で何らかのきっかけが加わるとニンゲンではいられなくなり、他のニンゲンからがらくただと認識されることがわかった。


この研究結果に上層部は恐れ慄いた。がらくたになってしまうのは個人の行動の結果のせいではなく、誰にでも起こりうることなのだと。この事実については緘口令がしかれ、管理組織の上層部でも一握りのニンゲンしか知らない事実となった。それもそうだろう。こんなことが民衆に知れ渡ったら大混乱とパニックは確実だ。それを防ぐためこの情報は厳重に隠されることになった。


さて俺のことだが初めは実家の仕事に対して興味はあまりなかった。父親の跡を継ぐのは一番上の長兄だったし、その補佐には次兄が付く。俺は大学を卒業したら二人の雑用係として組織に就職することが決まっていたから何とも思えなかった。


この兄二人とは年齢も離れていて、あまり兄弟らしいことをしたこともない。どちらかというと年の近い母方の従兄弟であるトトロスと父方の従妹である祐と過ごすことが多かったと思う。トトロスの母親は俺の母親の姉で祐の父親は俺の父親の弟にあたる。トトロスはこちらの仕事はする必要がなかったので実家の農家を継ぐ予定で、祐は管理組織の事務関係の責任者として働くことが決まっていた。


大学在籍中から女遊びが激しかった俺は8股をかけていた彼女たちに浮気がばれて何度も刺されて入院することがあった。

そのたびに祐に馬鹿にされ、説教されていたが俺は懲りることなくまた新しい女性に声をかけていた。このころ俺は決められた将来に対して不満を持っていたのだろう。

自分の実力を試すこともできず、実家の名前と父の息子というだけで安定した未来が約束される。そんな現状に対しての苛立ちや不安を女遊びで発散させていた当時のことを思い出すと我ながらクズだったと思える。今は実家のすねをかじるニート系クズに退化したが。


厳格な父はそんな俺について興味の欠片も持っていなかったらしい。愛の反対は無関心だというがその通りだ。何度俺が刺されようと気にすることはなかったし、心配されることもなかった。


そんな父によく似た長兄は同じく俺のことに一切の関心を持たなかった。俺も父と長兄の態度は大して気にしてはいなかったが唯一、次兄の忠冬兄さんだけは笑いながら俺の入院費を支払い、「次はもっとうまくやれよ。」と言って肩を叩いてきた。


そんな俺がある日出会ったのが茜さんだった。彼女に一目ぼれし、俺は今までの女性関係をすっかりきれいにした。一人一人彼女たちに誠心誠意謝り、大学を卒業してから適当に働いていた勤務態度を一変させて真面目に働いて見た目もまともな格好に戻して真剣に茜さんと交際をした。


その結果プロポーズは成功。幸せそうに微笑む茜さんのために結婚式のすべての手配は俺がやった。そうして準備万端で迎えた結婚式当日。茜さんは消えた。


その後のことはよく覚えていない。気が付いたら俺は実家の運営するがらくたについての研究施設にいた。それから俺は隔離された部屋で5年間研究されることになる。


研究内容は覚えていないが俺はかなりレアケースのがらくたになったらしい。隔離された当時はショックが大きすぎて研究だろうがその指示を出しているのが実の父親であろうがどうでもよかった。

ただ悲しくて悲しくて部屋の隅でずっとうずくまっていたのだけどしばらくして自分の置かれた状況について把握する余裕ができた。


通常がらくたになった元ニンゲンは自我を失いニンゲンだった最後の日の行動をずっと繰り返すだけの存在になる。俺の場合は結婚式の行動を繰り返すはずだったが不思議なことに俺は自我を失うこともなく、自分の意志で行動することが可能だった。


この不思議な事例を実家が見逃すはずもなく監視と研究を兼ねて俺を研究室に閉じ込めた。すっかり無気力になっていた俺はされるがまま父の研究対象として過ごしていた。そうして無意味に時間だけが過ぎていく中、突然ある日次兄が話しかけてきた。


ちょっと長くなってしまったので分割します。次の話はこれの続き。

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