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従兄弟とカミサマ②

時坂藤右衛門忠冬(ときさか とうえもん ただとう) 職業 規定違反遺体研究所 副所長


忠秋の二番目の兄。厳格な父、気難しい長兄とは打って変わって面白い事大好きの変人。

優秀ではあるが変人。

父が所長を務める研究所の副所長。どうやら父親とは違う思想を持っているようで……?


「珍しいな。甘くないのか。」


「まぁね。火いる?」


いつの間にか居間の縁側にトトロスは移動しており煙を大きく吐き出していた。人一人分の空間を挟んで隣に座り同じように煙草を取り出し口に咥える。ライターを探そうとしたがトトロスが声をかけてきたので面倒になりそのままトトロスの煙草の先に自分の煙草の先を押し付けた。


しばらくの間黙って煙草に火が移るのを待ち、じわりと自分の咥えた煙草が煙を上げ始めたあたりで煙草を離す。煙を肺いっぱいに吸い込んで吐き出すとふわりと広がり空気に溶けていった。


「なぁに。とっとー。珍しいね。」


「面倒だった。」


にやにやとしながらこちらを見るトトロスのほうは見ずに煙を吸う。

トトロスは「ファーストキスがとっとーとか無いわー。」なんで戯言を言っている。


「ばーか。」


「突然の罵倒!?ひでぇー。構ってやってんのに酷くない?」


「で、本題は?」


いい加減茶番にも飽きたのでトトロスをちらりと横目で見ながら問うとトトロスは相変わらずよく分からない笑顔のまま煙草を吸っている。


「うん?そうだね。ほらとっとーってさ、がらくたじゃん。」


「ああ。」


「がらくたって精神に尋常でない負荷がかかるとなるでしょう?」


「お前それ国家機密だろ。」


「忠冬さんが教えてくれた。」


「情報漏洩じゃねえか。」


従兄弟とはいえこの件に関してはホイホイ話していいものじゃない。恐らく次兄は面白そうというだけの理由でトトロスに話しているんだろうが……。

苦い顔をしたのを見てトトロスは笑った。


「別にいいんじゃない?それで話の続きなんだけど、とっとーレアタイプのがらくたじゃん。」


「おう。」


「それでちょっと気になったんだけどとっとーってカミサマ信じてる?」


「カミサマ?」


「そ、ニンゲンが崇め、信仰するカミサマとやら。」


トトロスの話をしばらく聞いていたが突然の話題変更に少し面食らう。

カミサマ。ニンゲンにルールを与えたカミサマはルールを外れたものを許さない。普通のニンゲンはカミサマを信仰している。だが俺たちのようにがらくたの研究をしている者たちは知っている。確かにルールは存在している。しかし、がらくたになることとカミサマとのの因果関係はないのだ。


「いいや。」


しばらく考え出した答えは否定の言葉。カミサマが存在しているかどうかにも興味はもうなかった。

俺はがらくただし、隣に座るトトロスはニンゲンだ。ニンゲンとがらくたは全く別物だ。


「そう?やっぱりなぁ。」


うんうんと頷いているトトロス。トトロスが何を言いたいのか全く分からない。眉を寄せて少し不機嫌な顔になったのを見てトトロスは話し出した。


「ちょっとまた話が変わるんだけど俺って従兄弟たちがたくさんいるだろ?」


「ああそうだな。」


トトロスの母は俺の母の姉で少し珍しい家に嫁いだ。一族は多産の家系で兄弟姉妹がたくさん生まれるが早死にしやすい。短命の一族だ。病死とか体が弱いとかじゃなくてただ早く死ぬ。


割と20代から30代が死にやすく、40歳を超えて生き残ると普通の人のように生きるようになる。

死因は様々で事故死、病死、自殺、死因不明だったりする。

トトロス曰く生まれやすく、死にやすい、そんな一族なのだという。ただ今回トトロスの代はわりと生き残っているほうで現在トトロスには40人近くの従兄弟たちがいる。変人が多いらしい。


「俺の…何番目だったかな…11番目かな。11番目の従兄弟が話してくれたんだけど、カミサマを信仰してるか否かってがらくた達に関係あるみたいなんだよね。」


「は?そんなこと聞いたこともないし、研究されているとも聞かないぞ?まぁ俺は家の仕事にあまり関わってなかったから俺が知らないだけかもしれないが…。」


俺がそう言うとトトロスは首を振った。いつの間にか短くなっていた煙草を灰皿に押し付けて消す。

トトロスはというと新しい煙草に火をつけてすでに咥えていた。


「知らなくて当然だよ。」


吸い込んだ煙を吐き出してしばらく眺めていたトトロスはそう呟いた。


「これ、俺の一族の中でがらくたになったニンゲンを使って分かった研究結果だし。」


「は!?」


トトロスの一族が行った!?国家機密であるがらくたに関する研究を!?


「お前…それ…!」


「もちろん非合法だよ。許可が下りるわけもないし、そもそもがらくたに関する研究は時坂一族が独占してる。それは情報漏洩して一般人がパニックにならないようにするためだ。」


トトロスの顔はいつの間にか真剣な顔になっていた。


「だけど俺の一族は違う。これは一族しか知らないが生まれやすく死にやすい俺たちの特徴として探求心と知能の高さ、そして高い身体能力が存在する。まるで短い一生の対価だと言わんばかりにニンゲンとしてかなりの高スペックを持って俺たちは生まれる。一族の中には自分たちのこの特徴について研究している奴もいるけどまぁ今回はいいや。その派生で一族の中で出たがらくたを研究しだした奴がいた。」


「待て、がらくたになったのなら役所に届け出をしないとだめだろう。がらくたは死者として扱われる…!」


そう。がらくたは死者として扱われる。こうして街の中に隔離こそしているが正確には収納という扱いになる。物扱いだ。だからがらくたに関して人権はない。だから研究もこうして盛んに行われていたのだ。ここで頭に浮かぶのはトトロスの一族の特徴だ。『生まれやすく、死にやすい』


「気づいた?そうだよ。死にやすい俺たちは死因をわざわざ確認されない。死にやすく、そしてポコポコ生まれる俺たちに関して国はそういうものだという認識をした。あんまりにも死んだり生まれたりせわしない俺たちの一族は役所の手続きを簡略化していい許可が出てる。そうして死ぬ一族の中には死因が原因不明なやつも結構な人数で存在している。その中の何人かが、がらくたでも気づかれない。」


「そうして研究を行っていたのか……。」


トトロスは少しだけ悲しそうな顔をした。俺は弟のようなこの従兄弟がそんな顔をしたところを見たことがなかった。

トトロスは何度か首を振った後、いつもの顔に戻った。


「だいぶ話が脱線したね。まぁ結論から言うとその研究結果で分かったのはがらくたになるニンゲンはカミサマの存在を信じていない。ってこと。その研究に関わっていた11番目の従兄弟はそう言ってたよ。それで俺がなんでがらくたの中に居ても正気を保っているかだっけ。」


そうだった。本題はそこだ。すでに長時間ここにトトロスは居る。今更だがトトロスに何か影響はないのだろうか。


「俺はどうもニンゲンの影響も受けないし、がらくたの影響も受けないんだよ。」


トトロスの発言に首を傾げる。がらくたの影響を受けないというのは理解した。正直その理由はよくわからないがトトロスが触れてほしくない様子だったのでそれは置いておくことにする。だがニンゲンの影響を受けないというのはどういうことだ?


「とりあえずお前がここに居ても大丈夫だということはわかった。お前の一族がやっていた研究内容に関しては…聞かなかったことにする。こんなことバレてみろ。一族揃ってこの街に放り込まれてもおかしくないからな。だがニンゲンの影響とはなんだ?」


「ああ。ニンゲンはニンゲンで周りのニンゲンに対してカミサマを信じてがらくたを忌避するように何らかの影響を与えているみたいだよ。」


「はっ!?それも聞いたことないぞ!?」


「うわ、やべっ。これも知られてないのか。一族の優秀さを誇ればいいのか無謀さを嘆けばいいのかわかんないな。」


気になって聞いてみればまたまた俺の知らない情報が出てくる。やっぱりこれ忠冬兄さんにだけでも報告したほうがいいんじゃないか…?


「詳しい話は知らないけどニンゲンがニンゲンに与える影響によってがらくたを忌避するようになっているみたいだよ。ただ無意識らしいけど。」


「無意識にニンゲン同士が影響を与え合っていると?」


「そんな感じ。」


軽く頷くトトロスにため息をつく。本題からだいぶ寄り道をし、話があっちこっちに飛びはしたがなんとか分かった。しかしずいぶんと衝撃的な事実だった。自分がなぜ自我を持つがらくたになったのかまでは不明だがまぁとにかくトトロスがこちらに滞在しても問題ないということさえ分かればいい。


「まぁいい。とりあえずお前に害がないならよかった。」


「うん。だから俺はここに居ても平気だよ。」


ため息ついでにトトロスが三本目の煙草を取り出したところでそれを奪い取る。トトロスはちょっと驚いた顔をしたがまたけらけら笑い、新たに自分の煙草を取り出して咥えると火をつけた。俺も今度こそは自分のライターで咥えた煙草に火をつけた。


「あ、そうだ。今日ここに泊まってくけどいい?」


「は?帰れよ。まだ間に合うだろ。」


「いいじゃーん。久しぶりなのに冷たいよー?とっとー。」


「来客用の布団なんざねぇぞ。」


「大丈夫。一緒に寝よ?」


「気持ち悪い!!」


ワントーン声を高くして近づいてくるトトロスを除けて立ち上がる。トトロスも「よっこいせ。」と言いながら同じく立ち上がり着いてきた。


「とっとーどこ行くの?」


「飯、買いに行く。」


食欲が消滅している自分では一食くらい食べなくとも問題ないがトトロスは飯を寄越せとうるさいだろう。今家にある冷凍食品だけではトトロスには足りない。トトロスは甘いものも好きだがそもそも食事をするのが好きなやつだ。その分食べる量もかなりの量が必要になる。そのために足りない食料を外の商店街で買いこんでこよう。


「俺も行くー。」


煙草を消して身支度をしている間にトトロスは三本目の煙草を吸い切った。とおもえばもう新しい煙草に火をつけている。相変わらずのヘビースモーカーだ。こいつは一族の特徴うんぬんかんぬんじゃなくて単純に煙草の吸いすぎで死ぬんじゃねぇの。


「ねー。まじで布団ねぇの?」


「ないから諦めろ。毛布ならやる。」


「今度から寝袋でも持ってくるかな。」


玄関への廊下を歩きつつトトロスとそんな会話を交わす。こいつこれからも泊まるつもりかよ。

ぎゃいぎゃいと騒ぎながら俺とトトロスは商店街へ向かって歩き出していった。


大変遅くなりました。なるべく次回も早く投稿したいと思いますので気長にお待ちください。

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