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ソフトクリームと花

 わたしを抱き上げていたままに下ろしてくれと催促する。

一瞬逃走しないかと疑わしげな目を向けられたけど、すぐに逃げないと信じてくれた。

ぶら下がっていた足が地面に着く。呼吸を整えて目の前の人達に対峙した。

本当に綺麗な姉妹だ。きちんと目を合わせて改めて思った。

緊張する。人前で話すのは苦手だ。相手が美人だと特に。

 居ずまいを正したわたしに深月ちゃんが不審がる目を向けた。

そりゃそうだろう。さっきまで毛嫌いしていた相手が急に態度を変えたら誰でもそうなる。

大事なのは、相手の目を見て。今まで目は合わせないようにしてきたんだ、こんな時くらい見なくてはいけないと思った。

 「三橋桃子です。好きなものは・・・・・・。」

そこまで言いかけてはたっと気付く、わたしが本が好きだと言っても良いのだろうか。


園児が読める本は少ない。というよりほぼ無いだろう。

ままは絵本の読み聞かせよりお歌やお遊戯派だ。

ままとの遊びは手遊びや音遊びが多いのだ。寝る時も本よりお歌。優しい声で子守唄を歌ってくれる。

本はあまり読んでもらったことがない。

どうしようか考え込んでいると。


 「おい」

声に呼ばれてはっとした。考え込むのは悪い癖。

相手はわたしの言葉を待ってくれてる。

なら私もきちんと答えなければ。

「好きなものは、本とおかし」

 この世界に来て初めて言った私の本音。

多分ぱぱもままもわたしが本を好きだって知らないと思う。

記憶が戻るまでわたしは、自分が本好きだと知らなかったから。

どきどきする。怖くてままの顔が見れない。人の顔色を窺うこのくせはなかなか直せるものじゃない。



私は人がこわい。

 

 

だけど、わたしの発言後深月ちゃんのご機嫌はみるみる上昇した。

表情は華やぎ気の強そうな目は嬉しそうにほそまっている。

何でって思ったけれど、盗み見たままの機嫌がすこぶる良かったから良しとする。

思わぬところで課題をクリア出来たかもしれない。

 そうお気楽に考えていたら、手を引かれた。

「良い物見せてやる」

きょとんとするわたしに深月ちゃんはずんずん先に歩みだす。自然わたしも歩みだす事となる。

それをさくらさんが止めた。

「ちょっと深月、今日は遊びに来たんじゃないのよ」

そういうさくらさんの手には綺麗な包装紙で包まれた薄い四角の箱が抱えられている。

大きさは絵具の箱ぐらい。自分の保身にばかりに目がいって全然気付かなかった・・・・・・。

気を付けよう。

そんな反省をよそにさくらさんの説得は続いていた。

「えー。良いじゃん向かいなんだし」

「駄目よ突然。桃子ちゃん困ってるわ」

 わたしの手を握ったままぶすくれる彼女に仕方ないので声をかける。

「明日遊ぼう」

これならこの子も納得するかなと軽い気持ちで誘ったら、掴んだ手をぎゅっと握って絶対だぞと念押しされた。

この子は一体わたしの何をそんなに気に入ったんだろうか・・・・・・。


 帰って行く時も深月ちゃんは絶対だぞっと何度も念押ししてきた。

この子は友達がいないのだろうかと他人ごとながら心配になる。

玄関で折角だから上がっていってと話しが進みかけた時、蛍が盛大に愚図りだした。

普段大人しいのが嘘のように泣き叫び、ままがあやしても一向に愚図り続ける。

こうなっては仕方ないと結局本日はお開きとなった。

 柏葉姉妹が帰りドアを閉めた瞬間、蛍は泣きやんでわたしとままは苦笑いした。



 


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