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ソフトクリームと本

 私は本が好きだ。特に児童書と絵本が好き。

四歳のわたしの家にはあまり本という物がない。

というのも、ぱぱは本よりスポーツが好きでままは本より歌がすきだったから。

 前の私の周りには本で溢れていた。

漫画、小説、図鑑に絵本。

一家で皆本好きだった私の家にはいつだって私が読んだことのない本が置いてあった。

ほんの少し遠くなった記憶を呼び覚ます。ここに着て一カ月と幾らかが過ぎ季節は秋の色彩に変わっていた。

 こっちに来てからあまり考えないようにしていた帰れるのかという疑問が頭を過る。

私が足踏みしている間にも時間はさらさらと流れ落ちていく。

いけない、こんなことを考えたかったはずじゃないのに。

 正直に言おう。私は今参っていた。

環境の激変もさることながら、体の変化にも戸惑い。

一番の苦痛は自分の得意分野である本の話をできる人間がいないことだった。

 話の合わない周囲の人間と誰にも相談出来ないこの状況が私のストレスを限界まで押し上げる。

この感覚は前にいた職場のストレスと似ている・・・・・・。

若干四歳にして胃痛を起こしそうだ。

 胃痛持ちの園児・・・・・・。何て可哀想な光景だろうか。

自分のことながら悲しくなり、腹いせに身近なグミを口の中に掻き込んだ。

お行儀が悪いとさっきよりきつめにままに叱られる。

見逃してくれ、そう思いながら家にある数少ない本を手に取り、お気に入りのソファーに陣取る。

ここは丁度窓の前にソファーがあるから、日光を浴びながら読書ができる私の特等席だ。

 本を読み始めようとした時。視線を感じふと目を上げると、私の天敵がこちらを見ていた。

天敵はこちらの反応に気付き、共に来ていたお姉さんに何か話かける。

その数秒後。

分かっていたが、危険を知らせるベルの音がした。


 ピンポーン

私はそっと本を閉じ、脱兎のごとく逃げ出した。

 だがそう甘くない。わたしは華麗なまでのディフェンスをみせたままにすぐ捕まった。

流石体育会系。切れのある良い動きだった。

右手に蛍を左手にわたしを抱え、器用に扉を開けたままはお客さんを出迎えた。

扉の前には花の精もかくやというさくらさんと新しい玩具を見付けた猫のような眼光の深月ちゃんがいた。

 

ままの気持ちも分かる。大切な一人娘の様子が近頃おかしい。

それだけでも、世の親御さんたちは心配するだろう。それに加え近頃のわたしは友達付き合いをさぼっている。

ままとぱぱはそれはそれは頭を悩ませている事と思う。

 しかし、しかしだ。それとこれとは別の話だ。

お姉さんはともかく私はこの深月という子が苦手だ。

同い年くらいの友達をつくって欲しいままからしたら、こんな都合の良い人材は他にいないだろう。

年が近い、同性、お向かいさん。打って付の好物件だ。

 だけど、この子は絶対、私とは合わないと思う。

こう言っては失礼だけれど、深月ちゃんは言葉が荒い。初対面のわたしにお前って言っちゃう子だ。

言葉の乱れは心の乱れとまでは言わないが、お姉さんがあんなに綺麗な口調なのにどうしてあの子はあんなに口が悪いんだろう。

 幼い子供がいきなりお前とは。

まあ、彼女にも今は色々有るのだろう。

お婆さんの件も有る。出来ればこれ以上厄介ごとには関わりたくない。

私はそれ以上考えるのを止めた。


 しかし、迷惑そうなのは顔に出しておく。自分でも大人げないなとは思うけれど。

ついでに、何で来たの?くらいの空気も出しておこう。我ながら酷いな。

そんなことをしていたら、前の世界であの人顔は良いけど性格悪いと陰口を言われていたことを思い出した。

忘れよう。今すぐに。

さくらさんと目が合った。わたしを見てこんにちはと少し弱ったように微笑む。

それに対して私もこんにちはと短く返しておく。

一連のやり取りにままは眉を寄せ、もっとしっかり挨拶しなさいとたしなめの声を上げる。

 玄関には微妙な白けた空気が流れ出した。

そんな空気を切り裂くように一人の子鬼が口を開いた。

「お前いっつもつまんなそうにしてるな。」

場の空気が凍りつくのを感じる。

私は目を見開いた。

この子は本当にはっきりものを言う子だ。その分損もするだろうに。

私の考えをよそに子鬼はなおも話を続ける。

「俺と一緒だ!」

 この時初めて私はこの子に対して興味を持った。

何も言えない私と真逆。そういったところが羨ましいとも思った。

 ことり。わたしの中で何かが動いた。

私はこの子とお話がしてみたいと思った。


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