アイスケーキと魔法の飛び方
ソファーにだらしなく座って、箱のポップコーンを掴んだ。
お気に入りのスパイアニメを見つつ食べるキャラメルポップコーンは最高!
月に一回のポップコーンを味わいつつ、私は考えていた。
ここの所イベントや事件が多くて、なかなか頭の整理が出来てなかった。
考えるべきは何よりこの事だったのに。
私の転生について。
死んだ覚えはないが、上手い言葉が見つからない以上当面はこう呼ぶ事にした。
あまり良い気分はしなかったが。
向こうに帰るには黒い人を探す事。
出会いは思いがけず直ぐにあった。だが、未だに私は帰れていない。
つまり今の状態ではまだ何かが足りないという事だろう。
一人だけじゃ駄目なのか?
ゲームのクエストみたいに何人も人数を稼がなくちゃ駄目なら正直しんどい。
口の中に広がるキャラメルの味を楽しみつつ、もう一口。
もし仮に人数を稼ぐなら人ごみを一日眺めるのが一番だろうけれど……。
「今の私じゃ無理だしなあ」
溜息をついて、体制を変えた先には真っ黒いワンピースがあった。
クリスマスで着る仮装の服はままの手によって無事仕上がり、今はリビングの一番目立つ場所に掛けられている。
そう言えば、あの時着ていたのはこの服だったな。
用意された魔女の服は、帽子と小さな箒がセットで置かれている。
この服を着て出かけたら、また何か起きないだろうか。
そんな淡い期待が胸に沸き、いそいそと立ちあがった。
散歩に出かけよう。
たまの息抜きは必要だ。
ワンピースとコートを引っつかみ、急いで着替えて部屋を出た。
そっと和室を覗きこむ。
中には横になって眠るままと蛍がいた。
大丈夫当分起きそうにない。
念の為、目覚ましの電池を抜き取り、リビングに戻った。
机には『さんぽ、ごじにかえる』と書いたメモ書きと電池を残し、音を消して扉を閉める。
ここの所ままは衣装の為に夜なべをしていた。
ちょっとやそっとじゃ起きないはず。
問題は蛍だけれど、あの子もいつもより遅く寝るままに気付いて、愚図ってなかなか寝なかったようだから大丈夫。
一人頷いて外に出る。
まだ飾りがない尖がり帽を被った。
よし!
久しぶりの一人の時間に気分が高まる。
軽い足取りで、家を出た私は左へと歩きだした。
らんらんらん。
スキップをしながら、歩道を歩く私を野良猫がつまらなそうに塀の上から見下している。
そんな事も、気にならない位今の私は浮かれていた。
帰ったら山姥のごとく怒るままが待っていたとしても、ここの所のストレスをいい加減晴らしたいと思っていたのだ。
周りに合わせ自分を偽るというのは大分しんどい行為だ。
本当は好きなようにお菓子が食べたいし、沢山本も読みたい。
ままが駄目だという刺激の強いアクション映画もみたいし、もっと一人で出歩きたい。
幾ら大人と言っても沢山の我慢は辛かった。
自由に色々な事が出来るのを知っているからこそ、沢山の事がしたいのだ。
暖かくなったら、一人で花見もしたい。
お弁当を持って好きなように歩いて、好きなようにお菓子を食べて。
責任を得て自由も得たいのだ。
我儘なのは分かっている。今の私がそれを出来ない事も。
それでも、大人の心は自立と自由を欲してしまうのだった。