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アイスケーキと繋ぐ糸

 「お邪魔しました」

門扉の前に立って小さく手を振った。

見送りに来てくれた深月くんもさくらさんもそれぞれに反応を返してくれる。

「また来いよ」

っと言う深月くんとにこやかに笑うさくらさん、二人に別れを告げ家に帰宅した。


食事を取り、お風呂に入って歯を磨く。一連の習慣をこなしながらも、頭の中はずっと同じ事がひしめき合っていた。

 どうしようこれから。


 正直に言おう。

たまの違和感はあった。

見ないふりをしていたと言われれば、そうかもしれない。

只、好意をもたれているのは分かっていた。

好意の種類は別として。

見ない振りをしていたのは確信が持てなかったからか、それとも……。

 

 

 結論を言おう。

彼と私の好意の解釈は違うのかもしれない。

感情とは難儀な物で同じ好きでも色々ある。

情愛、親愛、友愛、博愛。詳しくは割愛する。

だが、私のとる行動は決まっている。

 静観だ。

相手からアクションがない限り今まで通り接する。それが無難だろう。

そもそも深月くんが私を好きだという確証もない。

ここでもし、違いましたー。何てなったら目も当てられない。

阿呆以外の何物でも無くなってしまう。

好きだとでも言われない限り、知らぬ存ぜぬが賢いだろう。

いや、結構頻繁に好きだとは言われている気がする。

今のは言葉のあやだ。

告白でもされない限り、と訂正させてもらおう。

 「何をそんなに仏頂面してるの?」

声に驚いて歯ブラシを取り落とした。

さっきまで口の中に有った泡が床にとびっ散る。

「汚いなー。歯磨きしながら、ぼおっとしないの」

ままの声に耳を向けつつブラシを拾い上げる。いつの間にか後ろにいたままは、棚から雑巾を出して拭いていた。

屋敷から帰ってきてからというもの、ずっと考えていた。

 自分の歯ブラシを水道で洗いつつ、ままを盗み見る。

床を拭き終わったままは、そのまま雑巾を洗濯機に放り込んでいた。

「ねえ、まま」

「何?」

顔を上げたままは長い髪を耳にかけた。

「男の子ってどうやったらあしらえるの?」

「は?」

一瞬固まった後、みるみる表情は崩れ最後には大爆笑。

こっちは真面目なんですが。

「あしらうって桃子。あんた悪女でもなる気なの!」

 お腹を抱えて笑い転げるままの目元には、うっすら涙も浮かんでいた。

「そんなつもりはないけど……」

「でしょうね、止めときなさい。あんたじゃ荷が重いわ」

ふふふ、はははっとひとしきり笑って、気がすんだのかままは脱衣所を後にした。

そうだよなあ。柄じゃないもんなあ。

水道を止め、歯ブラシの水を切りながら頷く。

柄じゃないんだよなあ、私には。

恋とか恋愛とか。

 溜息をついて私も脱衣所を出る。

ガラガラガラっと音を立てて戸を引き、パシンっと締め切る。

音と共に閉まったのは扉だったのか、それとも……。








 「それ、どうしたの?」

来て早々面倒なのに会った。

送迎の車を降りて園に入った直後だった。

挨拶くらいしろよとも思ったが、俺も普段こいつにしてないかと思い直した。

それにしてもだ、開口一番鞄を指さす奴があるか。

博人の目は、鞄についたイルカに集中している。

面倒臭い無視しよう。

 決めた直後に鞄に手が伸びてきた。

「おい」

手をよけて心底嫌そうな顔をしても、こいつにはびくともしない。

こんな奴だから今までやって来れたようなものだが、正直邪魔くさく感じる時もある。

「これ深月の趣味じゃないよね?」

無言を貫いて盛大に溜息をついてやった。

これで駄目なら、走って撒くか。

そんな事を考えていた俺の目に黒い物が映った。

 魔女だ。

斜め前の大人の鞄に黒い魔女の人形が付いていた。

何処となく、トウコと似た顔だった。

「あの人に興味あるの?」

後ろから、覗き込む形で博人が聞いてきた。

 そうなって初めて、見かけない人間だって気付いた。

茶色い髪にスーツを着た女。

年は二十代か三十代。

何となく目で追ってから、また鞄を見た。

「あの人来年から、初等科の担任になる人だよ。多分今日は受け持つ子たちの事聞きに来たんじゃない?」

 俺達の通う幼稚園はエスカレーター式で最終大学迄ある。

大学に通うかは人によるが、高校迄は大きな理由がない限り大体の奴が持ち上がりだ。

毎年これ位の時期になると、たまに初等科関係の人間が出入りするようになる。

前を歩いてるのも、その一人らしい。

「お前よくそんな事まで知ってるな」

隣を素知らぬ顔で歩くこいつは異様に学園関係の事に詳しい。

代々この学園の出身だとかで、色々顔が効くからだとか言っていた気がする。

「たまたまだよ」

「嘘つけ」

 この学園の事で有れば、大体の事を答えられる友人を睨む。

「そんなことより深月、そのキーホルダーさ」

ああ、しつこい!

大きく踏み込んで、走り出した俺は校舎へと全力疾走した。

どいつもこいつも人の事なんてどうでも良いだろう!

そう思うのに周りは放っておいてくれない。

本当に面倒な事ばかりだ。













 

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