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あぶくの魚と魔法の指先

 彼女の靄は涙と共に消えて無くなった。

喧騒が止む頃には彼女の涙ももう止まり、私はそろそろお役御免だ。

彼女の中の雨雲も無くなってはいないにしろ小雨程度にはなってくれただろうか。

席を立ち、来た道を見る。

 そろそろ帰らないとぱぱ達が待ってる。

「わたし、もう行かなくちゃ」

声を出して彼女を見ると、赤く腫れた目で私を見返してくれた。

「ごめんなさい。私ったら」

彼女はそう言って笑い、笑顔のぎこちなさも消えていた。

「あのお名前聞いて良いかしら?」

彼女に聞かれ答えるか迷っていると、見慣れた人物がこちらに向かってくるのが見えた。

「ごめんなさい。」

 彼女の手をそっと離し見慣れた影へと走った。

最後に振り返ると彼女は笑って小さく手を振ってくれた。

もう大丈夫。

前を向いて彼女と別れる。

大丈夫。きっと大丈夫だ。



 クラゲのスペース、端の柱前。

暗い色見のジーンズにしがみ付いた。

わたしを見付けたぱぱは開口一番叱りつける。

「大馬鹿者! 何一つ守れてないじゃないか」

 ぱぱの剣幕に相当心配させたのが窺え、素直に謝る。

「ごめんなさい」

「今まで何してたんだ」

「お魚の餌やり見てた」

はあと溜息が頭上から降ってくる。

 私を端の邪魔にならないスペースに誘導して携帯を取りだすと、辺りに気を使いながら電話をかけた。

「ああ、かやさん。桃子見つかったよ。うん、今クラゲスペースに居る」

要件だけ短く告げ、すぐに電話を切るともう一度わたしに向き直って目線を合わせた。

「桃子は気になる事が有ると周りを見てない事が多いね。好奇心旺盛なのは悪い事ではないけれど、今日の桃子は悪い子だった。」

頭に手を置き言い含めるようにぱぱは言う。

「反省しなさい」

「はい」

「ままにもきちんと謝るんだぞ」

「うん」

「よしじゃあ、ままが来るまでクラゲを見てなさい。ただし、きちんと手は繋ぐように」

「うん」 

 ぱぱと手を繋ぎ、水槽を見つめる。

ふわふわ浮かぶクラゲは大好きだけれど、私の頭の中はそれどころではなかった。

考えまいとしても出てくる黒い靄の事は雨雲のように私の頭に立ち込め、覆い尽くしている。

彼女を覆っていたあの靄は多分。

 負の感情。

指先に落ちた雫は彼女の記憶の断片を垣間見させた。

彼女は正しく人魚姫そのものだったのだ。

悲しい記憶と彼女の絶望の断片は私の心にも刺となって刺さっってしまった。

あの人死のうとしてたのかな・・・・・・。

ぽろりと零れた疑問に彼女の笑顔を思い出す。

大丈夫、靄は晴れたんだから。

そう心に言い聞かせ彼女が新しく歩き出せるように願った。



 

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