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アイスクリームとはんぶんこ

 縁側に座ったままの私は絵本を眺めながら考えていた。

内容は先ほど訪れた小さなお友達について。

あの小さな王子様は恐らくテリトリー内の人気はさぞ絶大だろう。 

 一言にもてると言っても色々あるが、柏葉兄弟のもてるは芸能人並みだろう。

整った顔立ちに品の有る佇まい。育ちの宜しいお家柄に優しいお姉さんと愛嬌のある弟。

まやかし無しに天は三物を与えたわけだ。

その三物くんの親友候補に今、自分がなっているかと思うと何とも変な気分になる。

これから、彼がどんなヒロインを選ぶか楽しみだな。

 リアル恋愛漫画の傍観者なんてなかなかなれるものではない。

面白半分、友人の幸せを願う半分で楽しみにしている。

 自分の色恋は面倒臭いけれど他人の色恋には興味があった私は、いつか彼が恋愛相談してくる日を楽しみに待つ事にした。


 そんな時カラカラと音を立てて窓が開く。

「トウコ?」

姿の見えないわたしにままが様子を見に来たのだ。

後ろには蛍が付いてきていた。

とたとたと歩く弟はわたしを見てすぐに駆け寄って来る。

その姿に今朝は大人げなかったと申し訳ない気持ちが胸にこみ上げた。

 絵本を袋に戻し、弟の相手をする。

この世界でもあちらの世界でも弟はただひとり、大事に仲良くしていこう。

柔らかい蛍の身体を抱きとめる。身体からはほんの少しミルクの匂いがした。

 わたしは蛍のお姉ちゃんなんだから。

決意を新たに決め、ついでにくよくよするのも止めてしまおうと思う。

条件は必ず満たされる。婦人はそう言ってくれた。

あんなに苦しそうになってまで私に伝えてくれたのだ。その言葉を信じてもう少しポジティブに考えてみよう。

それにだ、こちらにきて半年も経たず色々な事が分かったじゃないか。

成果が全く無かったわけじゃない。

焦らず慎重に。

ここで得たものも沢山あるんだ。大丈夫。私は失ってばかりじゃない。


 「ねえ、桃子これは?」

わたしの隣に有る紙袋気付いたままが袋を見て尋ねて来る。

「さっき深月くんが来て、お見舞いだって置いていってくれたの」

「あら、じゃあ今度お礼言わなくちゃ」

袋の中身を確認したままはこれ返すのよねと確認してくる。

もちろんだと頷くと満足そうに頷いて袋を持ち上げた。

 絵本は結構するから、気になったのだろう。

「桃子もいつまでも外に居ないで入っちゃいなさい」

秋の日差しはまだ暖かいとはいえ、半袖とカーディガンだけじゃ日が陰ると寒い。

風邪をひかない内に退散することにした。

「そういえばぱぱ何処行ったの?」

私が目を覚ました時にはもういなかった。

 元々深月くん達と遊ぶ約束をしていたから、何処かに出かけたんだろうか?

私の問いに、さあとだけ答えてままはさっさとリビングに向かっていった。

これは何か隠しているなと思ったけれど、ままは口を割らないだろうから後を追いかけるだけにする。

 和室を抜けドアを潜った所で蛍が急に走りだした。

目ざとくサイドテーブル上のお菓子を見付け、あーあー言って手を伸ばしている。

お菓子は赤いフィルムに包まれた葉っぱのクッキーだった。

「ままー蛍にお向さんのお菓子あげていい?」

私の声にキッチンからままが顔を出す。

「良いけど全部はあげないで。桃子と半分こにして」

「分かった」

 赤い葉っぱを拾い上げ、フィルムを切ると小麦の匂いが鼻をくすぐる。

くれくれと手を伸ばす蛍を待たせ、葉っぱのクッキーに力を込めた。

ぱきっと音を立てて割れた葉っぱは右手のよりも左手の方が大きい。左手のクッキーを蛍に咥えさせ右のを自分が齧る。

齧ったクッキーはサクっと音を立て小麦の味を舌に伝えた。

ほんのりとした甘みに顔がゆるむ。ここのお菓子は本当に美味しい。

 最後の一口が惜しくなるような、そんな美味しさがこのお葉っぱにはあった。

葉っぱを全て飲み込み。赤いフィルムをゴミ箱に捨てようと探す。

あれっと首を傾げた。机のうえに置いたはずの赤い包みは無くなってしまっていたのだ。

まさかっと蛍の方を見たが弟が食んでいるということもなかった。

おかしいなと首を捻る私の耳に玄関を開ける音が聞こえた。

「ただいまー」

声と共に蛍が飛びだす。弟は人を向かえるのがマイブームになっている。

 きゃっきゃいう声を背に聞き、私もぱぱを迎えるべく立ち上がる。包みは諦める事にした。

お迎えに出た私を見付けるとぱぱは嬉しそうに紙袋を掲げ、差し出してきた。

「桃子。お土産」

受け取った袋は重たく、何を買ってきたんだと眉根がよる。

靴を脱ぐぱぱに開けて良いかを尋ねるとすぐに返事が返ってきた。

「良いよ。早く開けてご覧」

良いよの合図をもらったら、せーので包みを取り出した。

綺麗な包装紙は真っ赤な葉っぱのイラストが描かれてる。

さっきまで違う葉っぱの包みを探していた私は苦笑した。

葉っぱつながり、おしい。

はやくはやくと急かすぱぱの声もあり、ぺりぺりと包みをむき剥いだ。

赤いはっぱの中からは私の好きな絵本がどっさり出てきたのだ。

目を丸くする私にぱぱは得意に笑ってこう言った。

「パパからのサプライズです」

丸くなった目で本をみる。

白雪姫に赤ずきん、シンデレラに親指姫。

中の一冊に目が止まった。

コラージュで描かれたアンデルセンの世界は表紙だけでも繊細で、早く中を見たくなる。

「こら、廊下で広げないの」

ままの声が入るまで見入った絵本は人魚姫。

「怒られちゃったな」

ぱぱの声に頷くも目線は絵本を捉えたまま。

「それ気に入った?」

人魚姫を見たぱぱが言う。もう一度頷くわたしにぱぱは嬉しそうにほほ笑んだ。

「ありがとう。ぱぱ」

沢山の絵本を抱えてリビングに入る。持ち切れなかった絵本はぱぱが持ってくれた。

今日の我が家は朗読会。絵本を持って席につく。

沢山の絵本を持ち切れず、一冊をこぼしてしまった。

でも、大丈夫ぱぱが拾ってくれた。

こぼれた絵本は一冊。こぼれた笑顔は二人分。

さあ。早く呼んで。

今日の朗読会は終わらない。

読み手の声が枯れるまで。














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