アイスクリームは蜜のあじ
他のお話の合間にちらちら更新していければと思っております。
宜しくお願い致します。
べしゃっ。
ソフトクリームが落ちた。
地面に落ちたクリームはどろどろと溶けだし、地面にピンク色の水溜まりをつくる。
前の私もアイスは苺味が好きだった。
わらわらとアイスクリームに集まりだした蟻を見ながら、今やっとその事を思いだしたのだ。
ゆっくりと手を上げ自分の手を眺める。私の知っている手じゃない。私のはもっと大きかった。
小さくなってしまった手を優しい手がすくい上げる。
「そろそろ帰りましょうか。お父さんそろそろギブアップしている頃よ」
私に優しく言って手を引くこの人も、間違いなく私のお母さんだ。
「まま」
手を引く彼女に声をかける。上手く言葉が出てこない。
ままは私がしょげているのだと思っているのかもしれない。
「アイス、残念だったわね。今度来た時また食べようね」
違う。そうじゃない。
私が言いたいのはそういうことじゃないんだ。
只何と言って説明したら良いのか分からない。
今の自分が昨日までと違う人間なのだと言っても多分通じないだろう。
私は一体どうしてしまったのか。自分でも分からないのだ。
最後、思い出せるのは2016年2月半ば。
日づけは忘れてしまった。
私はいつも通り布団に潜って眠りについた。
空が白み始めた頃だった。
いつも通り眠って、いつも通り目覚める筈だった。
なのに……。
それ以降の私の記憶はない。
そこからはわたしの記憶になっている。
わたしは三橋桃子。
ももこと書いてトウコと読む。四歳。
今の西暦は分からないけれど、私が産まれた頃と街並みの雰囲気が似ているから恐らく1900年代だろう。
家族は四人。わたしと父、母、弟の四人家族。
幼稚園は若葉組。それが今のわたし。
布団に入り眠りについた私はもう二十歳を越えていた。
全く訳が分からない。夢なら、今すぐ覚めて欲しい。
そんな葛藤をよそに今のママはわたしを車に乗せてチャイルドシートのベルトをしっかりかける。事故があってはいけないからと。
動き出した車は街並みをびゅんびゅん追い抜いていく。
私の知っている街並みは此処にはない。
どうしてこうなったのか、分からない以上これからどうするかを考えなければいけない。
まずは情報収集だ。四歳のわたしは残念ながら自分の住所も曖昧だ。分かる事は雀の涙ほどもない。
これからしなくてはならない事の多さにわたしは小さな手を握りしめた。