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「うわっ、酷い状況だな…」


 ケントは緑色の血溜まりを見て、思わず目を背けそうになった。

 想像はしていたことだがやはり血生臭い戦闘もあるんだなと、しかし【図鑑魔法】を極めるには人型魔獣との戦いは避けられない。

 覚悟を決めて現状の把握をすることにした。


 赤い血溜まりがないので人の被害は少ないかなという考えが浮かぶ。

 ポチが近寄ってきて角で馬車のほうを指し示すので、そちらを見ると人影があった。


 剣と盾を構えた戦士がこちらを見ているのだ。

 その後ろには倒れ込んだ人影も見える。


(あー、もしかしたら自分達も魔獣の仲間と勘違いして襲ってくるかもしれないな…、とりあえず慎重に様子を伺いながら声をかけるしかないな)


 ケントはそう思い、離れた場所から大きな声で戦士に話しかける。


「魔獣に襲われていたようですけど大丈夫でしたか?」


 返事がない。


(あーー、日本語で喋ったけど、異世界だし言葉が通じるわけないか。じゃ英語で喋る? いやそもそも俺英語苦手だったし… どうする? こんな時どうすれば…。 そうだ! ボディランゲージなら万国共通だよな!)


 再度大きな声で変な踊りを踊ってるかのような仕草を交えて話しかける。


「魔獣に襲われていたようですけど~、大丈夫でしたか~」


 返事がない。


(うーん、やっぱり通じてないようだな。これは困ったな… この世界の言葉がわからないとなると活動に制限がついてくるな…)


 ケントが思案していたところ、戦士はヒステリック気味の大声で叫んだ。


「誰だ!貴様は誰だ!」


(お!言葉が通じる!)


 異世界の人と会話が出来たことでケントは素直に喜んだ。

 そして大きな声で返事をした。


「俺の名前は佐紋健人サモンケント、修行中の魔術師だ」

「サ、サモンだと! まさか召喚魔術師サモナーなのか!」

「あー、そうだな。召喚魔法も使う魔術師だ」

「ま、まさかそんな…」


 先ほどまで剣と盾を構えていた戦士が剣を鞘に納めて駆け寄ってくる。

 反射的に身構えそうになったが、悪意を感じないので友好的に振舞うことにした。


(いざとなればポチがいるしな)


 そう思うとポチが反応する。


「キュ?」

「あはは、俺が危険だったら助けてくれってことさ」

「キュキュ」


 そこまで話をしたところで、戦士がひざまずき頭を下げる。


「数々の無礼お許し下さい。助けていただきありがとうございました」


 思わぬ丁寧な言葉の対応にケントの方が慌てた。

 まずは落ちつこうと、ひざまずいた戦士をよく見ると金髪の女性戦士である。

 装備を見るとなめした皮と金属を組み合わせたレザーメイルだろう。

 丸い形状の鉄製である小型の盾と鞘に収めている剣も鉄製のショートソードみたいだ。

 ファンタジーMMORPGでいう軽戦士っていう装備である。


「えっと、そこまで丁寧な対応されると困っちゃうので頭をあげてもらえますか」

「ははっ」


 顔を合わせた瞬間、お互いに驚く。


(すげー美人だ!この人!)

(えぇぇ! 黒い髪に黒い目だと!! 伝説に出てくる勇者じゃないか!)


 たっぷり20秒ほど無言で見つめあう二人の姿がそこにあった。







 襲撃騒動の片付けに時間がかかり、気づけばすっかり陽がくれていた。


 野営地周辺の警戒はポチに任せて、ケントは焚き火を囲んでカレンから様々な情報を得ようとしていた。


 まず今回のゴブリン襲撃の被害を確認したところかなり軽微であることが片付けをして判明した。

 女性冒険者であるカレンの話で、一緒に荷馬車護衛を請け負ったフルアーマーの先輩冒険者オランが奮戦してくれたおかげで馬も死なずに済んだ。

 さらにオランもフルアーマーのお陰で打撲による気絶だけで命に別状がなかった。

 荷馬車のオーナーである行商人ゴルドも恐怖による気絶で倒れただけなので心配はいらない。

 気絶した二人は現在荷馬車の荷台に運んで寝かせている。


「しかし偶然俺達が通りがかって命拾いしたな」

「ええ、そうね。本当にありがとう。でも修行中の召喚魔術師サモナーって珍しいわね」

「さっきも驚いていたけど召喚魔術師サモナーって、そんなに珍しいのか?」

「旅人じゃ、聖国の事情を知らないのも納得ね。聖国で召喚魔術師サモナーといえば聖殿魔術師のことを指すのよ」


 聖国というのがひっかかる。


「えっと糞迷惑な師匠のマジックアイテムでこの地に強制的に飛ばされて修行することになった俺はこの地の常識に疎いっていう話をさっきしたよね」


 ケントは異世界から来たという事実を隠すためにある程度のアレンジを加えてカレンに修行する経緯を話していた。


「ええ、そうね」

「その糞迷惑な師匠からはノマリア王国って言葉を聞いたんだけど聖国と同一と思っていいのかな?」

「え?」

「ええっと…、まずい質問しちゃったのかな?」

「いえ、ノマリアって古代ノマリア王国のこと?」


 古代ノマリア王国という言葉に不安な気持ちになった。


「ここはエクレタ聖国よ… その師匠って人が持っていた知識がかなり古かったのね」

「古代ノマリア王国ってのはどのくらい前に存在した国なのかな?」

「かなり古いらしいわよ。歴史には詳しくないけど聖都にある宮殿図書館には記録があるかも」

「でもカレンが古代ノマリア王国のことを知ってるってことは、それなりに有名なんでしょ?」

「ダンジョンで発見されるマジックアイテムが古代ノマリア王国由来のものが多いのよ」

「ダンジョンがあるのか!!」


 思わず身をのりだしてカレンに質問をぶつけると、その勢いに圧倒されながらカレンが答える。


「ええ、エクレタ聖国はダンジョンに関わる産業で成り立っているダンジョン国家なのよ」

「ダンジョン国家?」

「高度なマジックアイテムを発明する技術は現在失われているのよ。だからダンジョンから見つかる各種マジックアイテムは良い値で売れるの。それで稼ごうと各地から冒険者が訪れることで冒険者が都市にお金を落としていくのよ」

「なるほどな」

「それにダンジョンに出没する魔獣から取れるマジックストーンは魔法触媒として高額で取引されるの」

「マジックアイテムを発明する技術は失われてるのに魔法触媒が必要なの?」

「魔法触媒さえあれば魔法を扱う適正のない人でもスペルで魔法を使えるのよ」

「あー、アイテムとしてではなく魔法発動の触媒にするのか、カレンは博識で凄いな」


 ケントがそういうとカレンが褒められたことで恥ずかしそうにうつむく。

 そしてカレンがおずおずとケントにしゃべりかける。


「ケント、ちょっと相談があるんだけど」

「ん?」

「えっとね、助けて頂いた報酬についての相談なんだけど、お金を望むなら街につくまで待って欲しいの」

「報酬?」

「えっと、それが目的で助けてくれたんでしょ?」

「いや、襲われている人がいたから助けたんだよ。困ってる人を見たら助けるのは当たり前でしょ。特に報酬とか期待してなかったし」

「……、えぇぇぇぇぇ!」


 カレンの驚く顔をみて、ケントは理由を思いつかず小首をかしげた。


「ここまで常識がずれてるとなると、まずいことに巻き込まれるわね…」


 ぶつぶつとカレンが呟いてから、真剣な顔をしてケントを見つめる。


「他人に対する無償の奉仕はこの国ではありえないのよ。そういう行為を行うのは下心があったりして近寄る口実になるということで法律で禁止されてるの」

「え~」


 今度はケントが驚く顔をする。


「ようは何らかの行為を行う場合、相応の対価を要求することでトラブルを未然に防ぐということなのよ。冒険者ギルドもその精神を元に成り立ってるからこれは常識なのよ」


 ケントは腕組みをしてカレンの発言の意を汲み取る努力をするが、難しく考えてもしょうがないと思考を放棄してカレンの指摘に従うことにする。


「よくわからんけど法律でダメというなら、俺が報酬をもらえばいいんだね」

「そうね。それで報酬はお金でいいのかしら」


 腕組みをしたまま、報酬について考える。


(俺にとって今一番ほしい物はなんだろう。やっぱり魔獣の死体だよな)


「いや今回討伐したゴブリンの死体が全部欲しいんだけどいいかな?」

「死体?牙や爪を売ってお金にするってこと?」

「いや魔法の触媒にするんだよ」

「魔獣の死体が魔法触媒になるって話は聞いたことがないわよ」

「師匠いわく門外不出の秘儀らしいから俺もよくわかってないんだけどね」


 カレンは少し考えてから、その報酬で構わないと告げてきた。

 ただしゴブリンの右手だけは冒険者ギルドに提出したいので残して欲しいという条件がついてきた。


「右手を提出するといいことあるの?」

「私とオランに討伐報酬が支払われるはずだけど今回は全てケントが倒したしケントのものね。あとで手渡すわ」

「断るという選択肢がないという話だし、ありがたく受け取るよ」

「そうね、受け取らないと捕まるわ」

「なんだか、怖いな」


 苦笑しているケントを見てカレンが微笑む。


「じゃあさ、俺は刃物もってないから悪いんだけどカレン、ゴブリンの右手を切り落としてもらえるかな」

「そうね。いいわよ」


 カレンは機敏な動作で立ち上がると腰のナイフを抜いてゴブリンの死体の山に近づき、次々とゴブリンの右手を切り落としていく。


「手首を運ぶ袋は持ってる?」

「荷馬車に空の桶があるからそれに入れておくわ」

「それじゃ腐っちゃうな。どうせ、一緒に街にいくんだし俺が持つよ」

「袋を持ってるの?」


 ケントはゲートポーチを手に取って、切り落とされたゴブリンの右手を次々に入れていく。

 カレンが目を見開いて驚いている。

 当然だろう。

 小さいポーチの中に大量の右手が入るというのは異常である。


「も、もしかしてマジックアイテム?」

「あー、うん。そうだね」

召喚魔術師サモナーって凄いのね…」


 呆れた目でカレンがケントを見つめる。


「さて死体のほうは約束どおり貰うね」

「それもその袋にいれるの?」

「いや、ちょっと違うかな」


 そういってからカレンの目の前で左手に【図鑑】を持ち《イート》と呟く。

 右手のないゴブリン達の死体の山が光の粒子に分解されて【図鑑】に吸収される。


【図鑑】を開いて確認するとモンスターリストに新たにゴブリンが追加されていた。


[ゴブリンシーフ]

 142/100

 性別:オス

 種別:魔獣人

 系統:闇

 スキル:殴打 石投げ

 ※スキルの威力は魔力に依存


 ケントは唖然としているカレンのほうへ向きなおすと、新しい召喚魔獣を獲得できた喜びから満面の笑顔を見せてお礼をいった。


「カレンのおかげで新しい召喚魔獣が手に入ったよ。ありがとう」


 その言葉にカレンはハっと正気に戻る。


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