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1-5

 陽の位置を見ると、そろそろ昼である。

 かなりの距離を歩いてきたところで、草原の景色に変化が見えてきた。

 潅木の密集した林がいくつか存在したのだ。


「ちょっと休憩だな。ポチは見張りをよろしく」


 ケントは草原に腰を下ろし、ゲートポーチからウォータージャーとコップを取り出して水を注ぐ。

 その水を喉に流し込んだあとに、更にゲートポーチからスィートグリーンリーフを1枚取り出して頬張る。

 本来であれば聖域に戻って休憩するほうが安全なのだが、以前行った検証で召喚したポチが黒い扉を超えることが出来ないので仕方なく外で休憩しているのだ。


 もしポチを残して黒い扉を通ってケントが移動すると残されたポチは光の粒子に戻されてしまう。

 そうなると再度召喚を実施しなくてはならず、1日2回までしか召喚できないという現状の制限を考えると無駄な魔力消費は得策ではない。


 昼食を終えたあと、【図鑑】を眺める。

 ここまでの道程で、グリンスライムを更に3匹、ジャンプワームを5匹倒して吸収していた。

 吸収した魔力量を見るとグリンスライムは11/100、ジャンプワームは198/100である。


(移動しながらのグリンスライムの魔力集めは順調だな)


 内心では大量に討伐したいけれど使用回数制限のある《フェアリーアロー》頼りの現状では今のペースでケントは十分に満足していた。

 一息ついたので西への移動を再開しようとケントが立ち上がると周辺を警戒中だったポチが野生のジャンプワームの死体を咥えて戻ってきた。


 ケントがいつものように《イート》で吸収したところで【図鑑】が幽かに光る。


(ん?)


 いままで感じたことの無い魔力の動きを感じて【図鑑】を確認するとモンスターリストに新たにジャンプワームからの派生項目が追加されていた。


[ジャンピングワーム]

 201/200

 性別:不明

 種別:バグ

 系統:土

 スキル:体当たり 串刺し

 ※スキルの威力は魔力に依存


 イラストを確認するとジャンプワームの頭部に先端が鋭く尖った太い角が生えている。


(上位種を召喚できるだけの魔力が貯まったってことなのか…、しかし最初に出会ったのがジャンプワームで良かったな。ジャンピングワームなら串刺しで間違いなく体に穴が開いていたよな)


 腹から血をながして倒れ込む自分の姿を想像して、ケントは恐怖でブルっと体が震わせた。

 しかし強い召喚魔獣が仲間となれば、それは確実に戦力アップになる。

 残りの魔力を考えるときつくなるが新しい魔獣の実力を知るためにジャンピングワームの召喚を試みる。


 左手に【図鑑】を持って《サモン・ジャンピングワーム》と呟く。


 しーん


 何も起きない。

 召喚に失敗したようだ。


(やっぱり複数同時召喚は出来ないのかな…)


 とりあえず《サモンリターン・ポチ》と呟き、ポチを戻してから再度《サモン・ジャンピングワーム》と呟く。

 魔力を消費するダルさを感じつつ、目の前に立派な角を持ったジャンピングワームが召喚された。


(ん、なんだこの感覚… もしかしてポチなのか?)


「キュキュッ」

「おーーー!ポチが強くなったんだな!」

「キュ!」


 新しい召喚魔獣ということで緊張していたケントだったが、どうやら魔獣の中身は以前のポチと同じようなのでホッとしていた。


「じゃ、午前中と同じように西に移動するから周囲の警戒を頼むよ」

「キュ!」


 ポチは立派な角を見せつけるかの様に頷いてから周囲への警戒を開始する。

 その姿に安心感を持ったケントは西への移動を再開した。




 角が生えたポチの戦闘力は想像以上だった。

 大きさは大型犬サイズと以前のポチと同じだったのだが、午前中倒せなかったグリンスライムを串刺しで仕留めていったのだ。

 どうやら串刺しにはクリティカル効果があって、グリンスライムの所有している物理耐性でも耐えられない程の瞬間的なダメージを与えているようである。

 確かに物理無効などのスキルであればどんなダメージも負わないのであろうが、グリンスライムの所持しているのはあくまで耐性なのだ。

 限界を超えればダメージで体力が削られるのであろう。


 しかしそうなるとグリンスライムの派生にも興味が出てくる。

 物理無効を持ったやつもいるかもしれない。


 そんな妄想をしてニヤニヤしながらケントはポチに倒されたグリンスライムの死体を吸収していくのだった。





 西陽が照りつける中、目を細めながら歩を進めると前方に不自然に草が生えていない箇所があるのが見えてきた。

 轍もあることから南西と北東を結ぶ街道のようである。


(ふー、道を見つけられてよかったよ)


 街道や村など人の生活する痕跡を見つけるまで、あと数日はかかるだろうと覚悟を決めていたのだが予想より早く発見できたことにケントは素直に喜んでいた。

 しかし轍があるということは車輪の付いた馬車かなにかが存在するのであろうと推測される。

 そういった馬車にもしも乗せてもらえる機会があれば人里への移動時間を短縮できるなと淡い期待が脳裏をかすめる。


 時間も時間なので街道発見という節目でキリよく聖域に戻ろうかとも考えたが、角の生えたポチもいるので陽が完全に落ちるまで南西に向けて街道を歩くことにした。


 しばらく歩いたところで異変を察知する。

 前方から騒がしい音がしているのだ。

 緩い登り坂を上がって下を見ると荷馬車が醜悪な顔つきの緑色の肌をした小人集団に襲われていたのだ。

 小人集団の手には石斧や棍棒を持っているのがわかる。

 数としては30体ほどいるようだ。


「ポチ、あの荷馬車を守るぞ!小人は敵だから倒せ!」

「キュ!」


 ポチは鋭く尖った角を前面にして体をしならせて黒い矢となり小人集団に飛び込んでいく。

 ケントは落ち着いて《プロテクション》と呟き、薄いオーラを全身をまとい、次に右手にフェアリーワンドを持ってから襲われている荷馬車めがけて駆けたのだった。






 ケントが駆けつけるほんの少し前、荷馬車の護衛をしていた金髪碧眼の駆け出しの女性冒険者は悪夢のような光景を見ていた。


 街道脇の林の近くで野営準備をしている最中に本来いるはずのないゴブリンの集団の奇襲をうけたのだ。

 一緒に護衛を受けたフルアーマーの男性冒険者は、野営の為に木に繋いでいた馬を守ろうと飛び出ていきゴブリンにたこ殴りされて倒されていた。


 ゴブリンと1対1の対決ならば勝つ自信はあるが1対30近くとなると厳しすぎる。

 彼女は商人の前に立ち、商人を必死に守るように剣と盾を構えるが、ニヤニヤと牙を向き出した醜悪な笑い顔のゴブリン達が荷馬車を包囲してじりじりと迫ってくる。


(な、なんで、こんな場所にゴブリンがいるのよ!)


 これから我が身を襲う惨劇を想像してしまうと逃げ出してしまうだろう。

 だが自分は冒険者なんだと何度も心の中で言いきかせ必死に恐怖に対して抗う。


(死ぬなら戦い抜いてから死ぬんだ!)


 彼女は覚悟を決めた。


 取り囲んでいたゴブリン達が石斧を振りかざして一斉に駆け出して迫ってきた。

 背中にいるはずの商人から悲鳴があがりドサっという音が聞こえる。

 どうやら恐怖で気絶し倒れ込んだようだ。


 彼女は剣を力強く握り、スラッシュを放とうとしたところで目の前まで迫っていたゴブリンの頭が吹き飛ぶのが見えた。


(えっ?)


 黒い影が猛スピードで動いたあと、さらに包囲していた3体のゴブリンの頭が吹き飛んだ。

 異常が起きたことを察知したゴブリン達が四方に散開したが、そこに次々と光の矢が突き刺さり命を刈り取っていく。

 逃げ出そうとしたゴブリンもいたが黒い影が動きまくり、こちらも命を刈り取っていく。


 あっという間に先ほどまで30体近くいたゴブリン達が全滅していた。

 黒い影の正体がわかる。

 大型の角の生えた魔獣である。

 ワーム系だと思われるが、あれほどの大きさのワームは見たことはこれまで一度もない。


 ゴブリンを倒した魔獣が彼女を見つめる。


(あれだけのゴブリンを倒してしまう強大な魔獣だ。次に命が刈り取られるのは私なんだな)


 見つめてくる魔獣を前に彼女は死を覚悟した。

 その時である。


「ポチ、よくやったな!偉いぞ!」


 短杖を持って街道を駆けてくる一人の魔術師の言葉に彼女は呆然としてしまった。



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