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 心地よい風が頬をなでる草原に降り立ったケントはすぐさま《プロテクション》を発動したあと注意深く辺りを見渡す。

 3mほど離れた右手の草がかすかに動いたと思った瞬間、黒い矢のような物が右の脇腹目掛けて飛んできていた。

 避けることも出来ずに、黒い矢がぶつかったが痛みを感じることは一切なかった。

 《プロテクション》の効果で防御し、黒い矢をはじき返したのだ。


 はじき返された黒い矢を確認しようと近寄ったところで、どういった攻撃を受けたか理解することが出来た。

 攻撃してきた魔獣は体長20cmほどの黒光りする皮膚を持つ芋虫タイプだった。

 尺取虫のような動きで体をしならせて、そのしなりを利用して矢の如く飛んで体当たりするのだ。

 今まさに再度体当たりをしようと体をしならせ始めていた。


 ケントはフェアリーワンドを魔獣にさっと向けてから《フェアリーアロー》と呟くと、光の矢が魔獣を貫きあっという間に絶命させた。


(えーっと、明らかにオーバーキルっぽいな、これ…)


 初めての魔獣討伐なので本来は感激すべきところなのだが、《フェアリーアロー》のあまりの威力の大きさに驚いてしまっていた。

 しばしフェアリーワンドを見つめたあと、例の実験の為に魔獣の死体に近づく。


【図鑑】を死体に近づけて《イート》と呟くと、死体が【図鑑】に光となって吸い込まれていった。

 すぐに【図鑑】を確認しようと考えたが、別の魔獣に襲われるのを警戒して《ゲート》で聖域に戻ることを選択する。


 聖域に戻ると椅子に座ってからウォータージャーで生成した水をコップに注ぎ、一気に飲み干した。


(やっぱり初めての魔獣との戦闘で、緊張しちゃってるな…)


 乾いた口の中に流れ込んだ水によって若干だが緊張が解けてきたのを感じると早速【図鑑】を開く。

 モンスターリストと魔法リストが新たに追加されていた。

 記載内容を確認していく。


 まずは先ほど倒した魔獣を確認する。


[ジャンプワーム]

 6/100

 性別:不明

 種別:バグ

 系統:土

 スキル:体当たり

 ※スキルの威力は魔力に依存


(うーん、王道のファンタジーでいえば最初に遭遇する雑魚敵だよな…。しかし6/100ってなんだ? あとで検証しなくちゃな)


 次に魔法リストを確認する。


 《フェアリーアロー》

 系統:光

 種別:攻撃魔法

 ※自動追尾型。威力は魔力依存


 《プロテクション》

 系統:土

 種別:防御魔法

 ※一定ダメージ無効化。一定ダメージ量は魔力依存


(あーー、これ凶悪だわー)


 術者の熟練度が増すほど魔力は増えると想定されるんだが、この装備はかなりのオーバースペックであることがわかる。

 まずフェアリーアローは、自動追尾があるので狙った獲物を確実に仕留めるのに最適だ。

 空中にいる魔獣からすると相性が悪いだろう。


 次にプロテクションのほうは、ある程度のダメージを強制的に無効化できる。

 雑魚魔獣程度なら防御無視が出来るだろう。

 注意すべきはクリティカルな大ダメージを与えてくるスキルを持っている魔獣だ。

 その場合はこちらにダメージが通ってしまうので致命傷になってしまう。

 そういった敵と遭遇したら聖域にサッと非難をするべきだなと再度肝に銘じる。


 さて次にやるべき実験が残っているなとケントは椅子から立ち上がり、聖域の広めのスペースに移動すると、左手に【図鑑】を持って《サモン・ジャンプワーム》と呟く。


 しーん


 何も起きない。


(あれ?)


 再び《サモン・ジャンプワーム》と呟く。


 しーん


 何も起きない。


(あれれー? もしかして召喚条件を満たしていないってことかな…)


 そこでもしかしてと【図鑑】をじっと見つめると頭の中に以前みた知識が再度流れ込んできた。


(なるほど一定の魔力量を吸収しないと召喚できないってことか。ってことは6/100ってことは6は今回吸収した魔力量で100は召喚可能になる魔力量だな)


 頭の中で計算したところ、あと16匹近くジャンプワームを倒さないと召喚は出来ないと結論が出てしまう。

 明日からジャンプワーム狩りの毎日になるなと苦笑しつつ、机や椅子のある居住スペースに戻ると、フェアリーワンドとゴーレムリングをチャージケースに収納してからベッドに横になる。

 どういう仕組みかベッドに横になった途端に聖域全体が薄暗くなり眠りに付きやすい環境になった。


(今日は色々あって疲れたし眠ることにしよう。明日目覚めたら元の世界に戻っていて、全部夢の出来事だったってオチになるといいんだけどな…)


 淡い期待を抱きつつすぐに寝息を立てて深い眠りについたケントだった。




 目覚めて辺りを見渡してから、がっくりと肩を落とす。


(夢オチって展開はやっぱりないのね…)


 聖域の光景がケントを包み込む。


(さてと今日から修行だな…)


 気合を入れなおしてから、テキパキと準備を進めていく。


 まずは朝食。

 適当な皿の上にスィートグリーンリーフを2枚のせ、ウォータージャーで生成した水をコップに注ぐ。


「いただきます」


 一人だけだが声を出して食事前の感謝の挨拶をしてから食事を開始した。

 昨日から食べ続けているのでスィートグリーンリーフの味と見た目のギャップにも慣れてきたなと思いつつ、さっと食事を済ませる。


 食後に【図鑑】の各種リストに変化がないか確認してみると魔法リストにいくつか魔法が追加されていた。


 《イート》

 系統:召喚

 種別:補助魔法

 ※指定した魔獣の死体から魔力を吸収


 《ゲート》

 系統:空間

 種別:補助魔法

 ※登録された特定空間への扉を出現させる。敵性進入不可


 どうやら使用したスペルが登録されたらしい。

 なぜ今日になって記載されたのかが謎だなと想いながら、他に追加された内容がないかを確認していく。


(お、更新されているな)


 人物リストの自分の詳細に変化があったのを見つけた。


[佐紋健人サモンケント]

 性別:オス

 種族:人族

 スキル:図鑑魔法(スライム級)薬草採取(スライム級)打撃耐性(スライム級)


 スキル項目が増えている。

 眉間に指をあてながら思案していく。


(薬草採取はスィートグリーンリーフを確保したからだろう。打撃耐性はジャンプワームの攻撃を食らったからだよな。うーん…)


 なんらかのアクションをすればスキルを得られるということは判明したが、防御系スキル習熟は難易度が高いなと苦慮する。

 欲をいえば存在するであろう切断耐性など今後有利になっていくスキルをすぐに得たいが、想像するに間違いなく何度も痛みを伴うだろうし下手をすれば命にかかわる。

 まずは攻撃手段ともなる図鑑魔法を少しづつでも着実に習熟していこう。

 安全第一だと想いながら椅子から立ち上がるとマジックマントを羽織り、サンダルを履いてからチャージケースに近づく。

 チャージケースの中のフェアリーワンドとゴーレムリングを取り出すときに脳裏に使用回数が浮かぶ。


(両方とも20/20か。一晩で昨日使用した分の魔力は充填できるみたいだな)


 そう想いながらゴーレムリングを指に嵌め、フェアリーワンドを手に持った。



 《ゲート》を使って草原に出る。

 ふと頭上を見上げてから愕然とした。

 昨日は天頂近くに太陽があったので気づかなかったが、太陽が2つ存在していた。


(あー、やっぱり俺の知らない異世界なんだな…)


 寄り添いあう2つの太陽の位置から察すると今は午前中に相当するのかなと考えながら周囲を見渡すと昨日は全く感じることのなかったジャンプワームの気配を遠くに感じる。

 魔獣を【図鑑】に登録するとなんらかのサポートが発生するのは確定だなと思いつく。

 スィートグリーンリーフの採取でもそうだが、なにげなく視界に入っただけで判別がすぐに出来るのはおかしい。

 明らかの魔法によるサポートと考えるのが妥当だ。

 魔法によるサポートでないとすると薬草採取というスキルの影響かもしれないなとも考えが浮かんだが、習熟度を上げれば徐々にわかっていくだろうと行動を開始することにした。






 空を見上げて2つの太陽の位置を確認すると天頂近くに存在したので、そろそろ昼だなと思い聖域に戻り休憩することにした。


 ウォータージャーで生成した水を飲みながら一息つく。


 午前中の成果だが、スィートグリーンリーフの大量採取。

 それと5匹のジャンプワームの討伐および吸収。

【図鑑】を見ると17/100となっているので、左側の数字が吸収した魔力で間違いないようだ。

 あと魔獣によって内包している魔力の量に差があることがわかり、その結果100まで貯めるのに必要な討伐数は当初の予想より多いことがわかった。


 他に目立った成果は新しい薬草を発見したことだろう。


[ミスティリーフ]

 状態:良

 ポーション素材

 ※その身に魔力を内包しており、独特な香りを放つ


 香草であり匂いをかぐとミントに近い清涼感あふれる香りがした。

 味見もしたが美味しくはなく、葉っぱ特有の苦さが口に広がる。

 食料にはならないが使い道が今後出てくる可能性があるので、スィートグリーンリーフと同様に見つけ次第、採取してゲートポーチに突っ込んでいった。


 軽い昼食としてスィートグリーンリーフを1枚食べてから、午後の活動を再開しようとケントは椅子から立ち上がり再び草原へと足を踏み出した。



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