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 グぅーーー


 静かな聖域内で腹がなる音はことさら強調されてしまう。


(そういえば、なにも口にしてないな。見る限り聖域には食料はなさそうだし早めに村か街に辿りついて生活基盤を固めないと…。あと問題は村や街が近くにない場合はサバイバル生活をしないといけないってことだよな…)


 そこまで考えたケントだったが、賢者マリアもここで生活していたとすると食事をする手段を外に有しているはずだよなと考え直し、まずは外の様子を確認することにする。


 元の世界で着ていた部屋着の上下黒のスウェットの上にマジックマントを羽織り、サンダルを履いてから《ゲート》のスペルを呟く。

 目の前の何もなかった空間に黒い扉が出現した。


(おー、本当に魔法が使えた!)


 今まで味わったことのない高揚感がケントの心に沸きあがる。


 ちなみに《ゲート》の魔法に組み込まれた術式はかなりの高度なものであり、術者の安全を守る為の機能がこれでもかと付与されている。

 壁や土の中に出現したり、水上や水中に出現したりは絶対にしない。

 さらに術者に害のあるガス類が充満した場所にも出現しない。

 賢者マリアの優秀さを感じさせる術式なのだが、この時点のケントではそのことまでは気づくには至っていなかった。


 ケントは無用心にも躊躇なく黒い扉をあけて外に出ると、気持ち良い風が頬をなでる草原だった。

 見る限り危険な魔獣は存在しているようには見えない。

 しかし現時点で攻撃手段のないケントはすぐに聖域に逃げられるようにしておかなければと思い、《ゲート》の小さくスペルを呟くと目の前の空間に黒い扉が出現した。

 扉をあけて中に入ると、そこは先ほどまでいた草原ではなく聖域の中であった。


(とりあえず聖域を利用すれば、安全に休憩できるのは大きな前進だな。次は食料と水の調達だな)


 ふとベッドの脇にある小さなサイドテーブルの上にある水差しとグラスが目に留まる。


(小川を見つけたら、この水差しに汲めばよさそうだな)


 そんなことを考えて水差しを手に取ると幽かな魔力の流れを感じた。

 慌てて【図鑑】を開きアイテムリストを確認する。


[ウォータージャー]

 状態:良好

 飲水生成

 ※生物が飲める水を作成


(すげーーー)


 思わず驚愕したが、水系統魔法の応用術式が組み込まれているマジックアイテムで空気中の水分を取り出し飲み水を生成しているようだ。

 現代で安全な飲み水を作ろうとすると大掛かりな浄水設備が必要となるが、魔法って本当に凄いなとあらためて思い知らされた。

 これで水問題は一気に解決した。


 他にも家具に混ざっているマジックアイテムがないか物色したところ、新たに3つのマジックアイテムが見つかった。


[ホーリートーチ]

 状態:良好

 聖光常時発生

 ※一部のアンデットを遠ざける光を発する。


[ゲートポーチ]

 状態:良好

 無機物転送

 ※対となるエターナルシートにアイテムを送ったり、念じることで取り出すことが出来る


[エターナルシート]

 状態:良好

 伸縮自在

 劣化防止

 ※シート上の物質の劣化防止


(ホーリートーチは夜間の活動に最適そうだな。ゲートポーチとエターナルシートも食材の確保に役立つのは間違いない)


 早速、聖域の使っていない場所の床にエターナルシートを広げて伸ばしていく。

 どういった魔法が組み込まれているか不明だが、たしかに広げようと思っただけ広がるのは驚きだ。

 5m四方の正方形にエターナルシートを広げ終わったところで試しにゲートポーチにホーリートーチを入れた瞬間、エターナルシート上に出現したのが見える。

 さらにゲートポーチに手を入れて、ホーリートーチと念じると手に持った感触が伝わり、手を引き抜くとエターナルシート上のホーリートーチが消失し、手にはホーリートーチが握られていた。


(あーー、魔法って便利だわーー、すげーー便利だわーー)


 素直に感心しながらケントはニヤニヤしていた。

 魔法の存在しない世界の住人だったものからすれば、魔法の凄さを実感することで脳内の興奮物質を出さずにいられないのだ。


 各種マジックアイテムが判ったところで、本命の食料調達に出かけることにした。


 《ゲート》を用いて聖域から草原に出たケントは、周囲を警戒しながら小高い丘を目指すことにした。

 理由は高い場所からみたほうが地形を把握できると思ったためだ。


 丘に向かって進んでいる途中、【図鑑】の反応を期待して草原に自生している食べれそうな草を手当たり次第、手にとっていたところホウレン草ような葉をした野草が【図鑑】に登録された。


[スィートグリーンリーフ]

 状態:良

 ポーション素材

 ※その身に魔力を内包しており、そのまま食しても美味かつ若干の体力回復効果がある


【図鑑】を信じて口に入れたところ、確かに甘い果物のような味わいが口に広がっていく。


(見た目はホウレン草なのに味わいはフルーツのようで本当に美味しいな。これって魔力の影響なのかもしれないけど、当面はこの食材だけでも乗り切れそうだぞ!)


【図鑑】に登録された影響なのか、一目見ただけでスィートグリーンリーフかどうかの判別が可能となり、引き抜いたスィートグリーンリーフを次々とゲートポーチに突っ込んでいく。


 夢中になってスィートグリーンリーフを採取していたその時、不意に背中になにかが勢いよくぶつかってきた。

 そのはずみで前のめりに倒れ四つんばいになったところに、お尻目掛けてなにかが更に勢いよくぶつかってきた。


 攻撃を受けたことでパニックになったケントは慌てて《ゲート》を用いて聖域に逃げ込んだ。






(やっぱりいきなり攻撃されると手も足も出ないな…。しかもどういった魔獣だったかすら確認する暇もなく退散しちゃったし…)


 お尻をさすりながら、無様な自分の姿を想像してケントは本気で凹んでいた。


(でも、食材確保の障害になる魔獣だから絶対に排除しないとな)


 戦闘力皆無である現在の自分の不甲斐なさを感じつつも、気合をいれて対応しようと覚悟する。


(まずは腹ごしらえだな。空腹じゃ戦えないし)


 エターナルシート上を見ると、洗面器一杯分程度のスィートグリーンリーフが固まって置かれていたのでケントは、おもむろに口に運ぶ。

 見た目はホウレン草だが甘くて美味しいというギャップに戸惑いながらも食していくと、3枚目のスィートグリーンリーフを食したところでかなりの満腹感を得ることが出来た。

 一息ついたところで、どうやって排除するかを真剣に考え始める。


(まずは武器だな。あのぶつかってきた勢いを考えると素手で戦うわけにはいかないし)


 立ち上がって聖域内の家具の置いてある居住スペースに移動すると武器になりそうなものがないか物色していく。

 いろいろ探しているときにベッドの下から旅行用バッグほどの大きさの綺麗な装飾のされた収納箱があるのを見つけた。


(なんでこんな場所に?)


 小首をかしげながら引っ張りだすと魔力を感じたので【図鑑】を急いで確認してみる。



[チャージケース]

 状態:良好

 魔力補充(中)

 ※チャージ系発動アイテムに魔力を補充し使用回数を回復させる


(チャージってことは充電器みたいなものかな?)


 ケースを開くと中に2つのマジックアイテムが収められていたので早速手に取ったあと【図鑑】を確認する。


[フェアリーワンド]

 状態:良好

 精神強化(中)

 《フェアリーアロー》使用回数20/20

 ※打撃武器としても使用可能


[ゴーレムリング]

 状態:良好

 体力強化(中)

 《プロテクション》使用回数20/20

 ※効果時間は術者魔力に依存


(名称と雰囲気から間違いなく攻撃系と防御系のマジックアイテムだな。しかしなんで見つけにくいベッドの下にあったのかが謎だよな…。見つけて欲しくなかったのか?もしくは探して見つけて欲しかったのか?)


 いろいろと思案していくが答えが出ないので、とりあえずはこの2つのマジックアイテムを使いこなすことに専念することにした。

 ゴーレムリングを右手の人差し指に嵌め、さらに右手でフェアリーワンドを持つ。


 まずは《プロテクション》と呟く。

 薄いオーラが全身を包みこむ。

 このオーラがある程度の防御を行ってくれるらしい。

 《プロテクション》の維持時間がどの程度か確認するためにそのままにしてみた。

 正確な時間は不明だが、感覚的には10分程度維持していたようだ。

 指に嵌めているゴーレムリングを見つめると【図鑑】の影響なのか使用回数19/20であることが脳裏に浮かぶ。


 次にフェアリーワンドを持ってから《フェアリーアロー》と呟く。

 短杖の先端から光の矢が放出されて飛んでいき、かなり奥にある聖域の壁にぶつかり光が四散するのが見えた。

 かなりの威力があるのがわかる。

 ゴーレムリングと同様にフェアリーワンドを見つめると使用回数19/20であることが脳裏に浮かぶ。


 武器と防具を手に入れた。

 これを駆使して、なんとか先ほどの魔獣を征するのだ。

 ケントはゴーレムリングとフェアリーワンドを擁して《ゲート》を用い再度草原に向かう。



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