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 空を見上げて2つの太陽の位置を確認すると少し西に傾いてきていた。

 だいだい2時くらいかなと思い、休憩することにした。


「カレン、休憩しようか」

「そうね」

「しかしここって気持ちよい場所ね」

「タストの街からずっと東に位置してる場所だよ」

「なるほどね」


 ポチとトムに周囲の警戒をお願いして地面に座って休憩する。


「喉かわいたよね、ちょっとまってね」


 そういってゲートポーチからコップを2つ取り出してカレンに持っていてもらう。

 次にゲートポーチからウォータージャーを取り出して、水を注いだあとゲートポーチにしまった。


「そんなマジックアイテムまであったのね」

「よく分かったね」

「分かるわよ! 何も入ってないのに水が出るんだから… それ売るだけで金貨数十枚になるわよ、きっと」

「俺のじゃなくて師匠のものだから勝手に売れないんだよね。 あ、でも師匠には迷惑かけられてるし売ってもいいのか…」

「売らないほうがいいわ。これがあればダンジョンでの生還率が格段にあがるはずよ」

「たしかに飲み水がないとキツイよな」

「ええ、そうよ。深い階層を攻略する冒険者パーティーは専門の運び人を雇って水や食料を運ぶものだし」

「へぇー」


 大勢でダンジョンを進む光景を想像して、以前テレビで見たエベレスト登頂の様子を取材した特番を思い出した。


(基本は登山もダンジョン探索も同じようなものなんだろうな)


 ふと視界のはしに自生しているスィートグリーンリーフが目に付いたので採取してカレンに1枚渡し、ケントは頬張った。


「やっぱり甘いな」

「え、もしかしてこれってスィートグリーンリーフ? ここに生えてるの?」

「そうだよ。食べてごらん」


 カレンが恐る恐るスィートグリーンリーフを口に運んで頬張る。

 みるみるうちに幸せな表情を浮かべた。


「本当に甘くて美味しいのね。しかし高級な素材が無造作に生えてるって信じられないわ」

「他の入手方法があるの?」

「えっと、有名な入手方法としてはダンジョンのアースゴーレムの頭に生えてるのよ」

「それで高額になんだな」

「この場所を人に教えたら、かなり人が集まってくるわね…」

「カレン、ここのことは黙っておこうか」

「もちろんそのつもりよ」


 ケントとカレンが良からぬ笑顔を見せるのは気のせいだろうか。



 ケントは休憩を利用して【図鑑】を眺める。

 ここまでの成果で吸収した魔力量はグリンスライムは45/100、ジャンプワームは238/100である。

 まだまだスライム召喚は長そうである。

 その時カレンが話しかけてきた。


「そういえば今日からどこに泊まるつもりなの?」

「パーティー申請したら、はやいうちにダンジョン都市に移動しようかと思ってるんだけどカレンの都合はどうかな?」

「カッパークラスの冒険者が忙しいと思ってるの? 暇に決まってるでしょ」

「いや、自信もって言われるとちょっとかわいそうに思っちゃうぞ、それ」

「なんでよ!ふんっ」

「それじゃ、野営しながらダンジョン都市ドルドスに向かおうか」

「それなら乗り合い馬車を利用できるわね」

「おっと、移動手段があるのか」

「ドルドスとタストを結び北街道には定期的に行き来する乗り合い馬車が走ってるのよ」

「なるほど、移動はどのくらい時間がかかるのかな?」

「2日かかるわ」


 その話を聞いてケントは腕組みをする。


「やっぱり徒歩で野営しながら進もう。修行がてら北街道周辺の魔獣の死体を触媒にしたいから」

「ケントがそういうなら仕方ないわね」

「でも何でも入るゲートポーチがあるとしても二人で野営は大変よ」

「あー、うん、そこは平気かな。 俺のとっておきの秘密をみせておくよ、絶対に秘密だからな」

「もう、秘密が多すぎて、これ以上増えても平気よ」

「そうだよな。ちょっと実験も兼ねてみようか」


 そういって俺は《ゲート》と呟く。

 目の間に黒い扉が表れる。


「俺の手を繋いでくれ、この扉に入るぞ」


 そういって右手をカレンが左手を掴み、一緒に黒い扉を開けて先に進む。

 予想通り、カレンと一緒に聖域に入ることが出来た。

 さきほどまで草原にいたのに、急に石造りの部屋に入ったことにカレンが戸惑っていた。


「ようこそ、聖域サンクチュアリへ」







 きょろきょろとカレンが聖域を見てまわり、ようやく理解が出来たようで俺の元に駆け寄ってくる。


「もしかしてここで生活しているの?」

「うん」

「安全な避難場所さ」

「野営ってレベルじゃないわね…、エクレタに転送されて一人だけで旅をするっていっても召喚魔獣の護衛のみで平気なのかなと思っていたんだけど納得だわ」

「まあね、ここがあったから無事に過ごせたのは間違いないよ」

「これがあればダンジョン探索も捗るわ」

「人の目もあるから、どこでも使えるわけじゃないぞ。ダンジョンの中だと人目につくだろ?」

「あー、間違いなくつくわね」

「あくまでも緊急手段として使うほうが正解だろう」

「そうね」


 そこでニッコリ微笑んだケントがカレンに話す。


「ここにカレンの寝具をもってくれば野営も楽だろ」

「うーん、そうしたら私の家に一緒にいかない? ここに置いて欲しい洋服とか装備があるから」

「かなりの量になる?」

「そうでもないわ」

「よし、じゃあ早速転移で移動するか。聖域から直接外に出れるか実験したいんだよね」

「わかったわ。でもタストの街近くに転移するなら目立たない場所がいいわね」

「うん、街の東の林のあたりにしようか、人目につかないだろ」

「あそこなら平気ね」




 カレンが背中に抱きついた状態で【図鑑】の地図を開くとタストの街の東にある林を指差して《ムーブ》と呟く。

 一瞬で周囲の景色が変わり、ケントとカレンは林の中にいた。


「便利よね」

「そうだな、いろいろと修行が捗るよ」


 その時である二人の背後から鋭い殺気が放たれた。

 カレンがその殺気を察知してケントを突き飛ばすと、自分も前転してから剣を抜いた。


 あろうことか、さっきまでケントがいた場所に先端を鋭くとがらせた太い丸太のような魔獣の歩脚が突き出されていた。

 見た目から蜘蛛タイプの魔獣であると思われるが、全長はおよそ3mほど、とにかくサイズがでか過ぎる。

 おそらく過剰な魔力を有してしまった大蜘蛛のレア魔獣だろう。


「ケント、逃げて!! 応援を呼んできて!!」


 カレンが叫ぶ。

 魔獣はケントからカレンに目標を移して襲いかかろうとしていた。

 ケントはこの場を離れようとしたが、離れている間にカレンの身に襲う惨劇を想像して思いとどまり、ありったけの魔力を込めて呟いた。


 《サモン・ポチ・トム!!》


 ポチとトムが召喚された。


「あの魔獣を倒せ!!!」


 ポチが猛烈な勢いでカレンに襲いかかろうとした大蜘蛛の歩脚に角を突き立て大雲の攻撃を阻害する。

 その隙にカレンは剣を構えなおして大きく振りかぶり突き出された歩脚に錬技を放つ。


「スラッシュ!!!」


 気力のこもったショートソードが大蜘蛛の歩脚に大きな傷をつけた。


 予想外の反撃にあった大蜘蛛は怒りを込めて暴れだすが、冷静にカレンは攻撃を回避するとカウンター気味に錬技を放っていく。


 大蜘蛛の注意がポチとカレンに向かっている隙を狙い、背後から近づいたトムが腹部上面に飛びついて手にもった尖った石でひたすら腹部上面を殴りつづけていく傷をつける。

 トムは出来た傷口に手を突っ込んで内臓をかき回し始めると激痛に襲われた大蜘蛛がさらに大きく暴れだした。

 


 少し離れた場所から精神統一していたケントはフェアリーワンドを手に持って大蜘蛛の頭部を慎重に狙い、離れた場所から《フェアリーアロー》20発全て撃ち放つ。


《《《《《《《《《《《《《《《《《《《《フェアリーアローー》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》


 突き出された大蜘蛛の歩脚にカウンターでショートソードを突き刺したカレンが、光の矢が2mほどの高さにあった頭部に次々と刺さっていく光景を目の当たりにして驚愕したのはその時であった。


 ドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッ


 頭部が跡形もなく吹き飛んだ大蜘蛛の魔獣は程なくして大きな音を立てて崩れ落ちた。


 結果として8本あった歩脚のうち1本はカレンが破壊し、2本はポチが破壊した。

 背中にのったトムは腹部上面に穴を開けて大蜘蛛の内臓を掴みだしていた。

 ケントは頭部を一気に破壊し、レア魔獣の討伐は無事に成功したのだった。



 ケントはカレンに駆け寄る。


「カレン、無事でよかった」

「ケントも無事でよかったわ」

「ああ、カレンが気づいてくれてなかったら、胴体に穴があいてたな」

「護衛だから当然だけど…、討伐はケントの手柄よね」

「パーティーなんだから全員の手柄さ」


 そういってケントが笑った。


「そっか、パーティーよね」


 カレンがケントに満面の笑顔を見せる。


「さてと、これって報告しないとまずいよな?」

「うん、こんな街の近くでレア魔獣が出たのは異常事態だから」

「うーん、ちょっとだけ死体をもらって魔法触媒にしてもいいかな?」

「倒したのは私達だし平気でしょ、でも胴体は残しておいたほうがいいかも」

「じゃあ、破壊した脚をまずは吸収してみるか」




【図鑑】を切断された歩脚に近づけて《イート》と呟くと、【図鑑】に光となって吸い込まれていった。

 幽かに【図鑑】が光るので、早速確認してみた。


[フォレストスパイダー]

 598/100

 性別:不明

 種別:バグ

 系統:闇

 スキル:壁面歩行

 ※スキルの威力は魔力に依存



[ギガントフォレストスパイダー]

 598/200

 性別:不明

 種別:バグ

 系統:闇

 スキル:突き刺し 壁面歩行

 ※スキルの威力は魔力に依存



[ポイズンフォレストスパイダー]

 598/400

 性別:不明

 種別:バグ

 系統:闇

 スキル:突き刺し 壁面歩行 毒噛み付き

 ※スキルの威力は魔力に依存



 魔力量が多かったのだろう。

 3つもリストに記載されていた。


「もうちょっとだけ死体もらってもいいかな?」

「平気なはずよ」

「じゃ、もう一本おかわりで」


 《イート》と呟くと、切り離された歩脚が光となって吸い込まれていく。

【図鑑】が光るので、そそくさと確認してみた。



[アサシンフォレストスパイダー]

 ---/800

 性別:不明

 種別:バグ

 系統:闇

 スキル:突き刺し 壁面歩行 毒噛み付き 透明化

 ※スキルの威力は魔力に依存 攻撃行動で透明化解除


(吸収した魔力値がおかしな表示になってるけど、これ以上はもう派生はないってことかな… しかし透明化ってやばい召喚魔獣だな)


「黙り込んでるけど問題があったの?」


 カレンがケントの顔を覗き込む。


「あ、いや触媒は問題なしだよ。じゃあ急いで報告しよう」

「えっとポチとトムは戻しておいたほうがいいわよ。騒ぎになるわ」

「そうだな」


 カレンのアドバイスでポチとトムと戻してから、二人でタストの街の東門の兵士のいる場所まで駆けていく。

 慌てて走ってきた男女二人組みを見て怪しんだ兵士達だったが事情を説明すると街をあげての大騒ぎに発展したのだった。


 その騒動を見ながらケントは肩を落としてカレンに話かけた。


「残念だけどダンジョン都市ドルドスへの出発は延期になったな」

「しょうがないわ」


 そういった見つめあった二人は、思わず声を出して楽しそうに笑いはじめた。


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