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 エクレタ暦353年7月15日、この異世界にやってきて12日目の朝。


 いつものようにスィートグリーンリーフを朝食として味わったあと日課となっている【図鑑】の確認作業を行う。


[佐紋健人サモンケント]

 性別:オス

 種族:人族

 スキル:図鑑魔法(スライム級)薬草採取(スライム級)打撃耐性(スライム級)


(とくに修行もしてないし、変化はなしは当たり前だな)


 昨日も多くの人に接触したせいで人物リストにいろいろな名前が追加されていたが、気になる人物の詳細は特になかった。


(今日の予定はとりあえず食材の仕入れだな。あとは…、やっぱりパーティー申請する前にカレンの実力を確認しておくほうがいいよな。街の外で軽く魔獣退治でもやってみるか)


 そこでケントは昨日雑貨屋で購入した街と周辺の情報の書かれた地図があったことを思い出した。

 ゲートポーチから地図を取り出してじっくり確認する。


(3日前に通った街の東の街道周辺なら安全だろうから、ここで軽く野生の魔獣退治してみるか)


 そう思っていると、【図鑑】に魔力の流れを感じた。

 慌てて覗き込むと、項目に地図が存在していた。


 地図の項目を選択すると、街周辺とケントが移動してきた道のりの地図が表示されており、そのほかは空白になっていた。


(うーん。これって俺が移動した場所を中心に一定の範囲の地図が開示されてるな。ゲームにある地図みたいだな…)


 他に変化がないか【図鑑】の確認作業を行う。


[佐紋健人サモンケント]

 性別:オス

 種族:人族

 スキル:図鑑魔法(スライム級)薬草採取(スライム級)打撃耐性(スライム級)地図作成(スライム級)


(なんだこれ、地図をじっくり眺めたことが引き金になってスキル習得したのか! そうなるともともと俺には地図作成の適正があったっていうことか…)


 ふと、ここで【図鑑魔法】の基本的なスペルに《ムーブ》があったことを思い出す。


(地図と組み合わせれば指定の箇所に転移できるのかな?)


 早速装備を身に纏ったケントは《ムーブ》を発動させようとして気づいた。


(もし転移が成功した場合、《ムーブ》で街中に戻るのはさすがに目立つよな、人がいきなり消えたり現れたりするのを見られるとまずいし)


 腕組みしてから考え抜いた挙句、《ムーブ》の検証は街の外に出たあとに行うことにした。

 問題があるとしたらカレンに《ムーブ》を見せることになるかもしれないが、これからパーティーを共にするのであれば遅かれ早かれ説明しないといけなくなるので気にしないことにした。





 聖域から《ゲート》を使用して宿屋の部屋に戻り、宿を引き払うとその足で冒険者ギルドに向かう。


「カレンおまたせ」

「平気よ。今日の予定は?」


 笑顔でカレンが尋ねてくる。


「カレンの実力を確認するために街の東側の街道付近に行って魔獣退治をしよう」

「そうね、私の実力も知ってもらっておいたほうがいいわね」

「もうひとつ食材を少し買っておきたいんだけど、魔獣退治をしたあとの方がいいかな?」

「東の街道にいくなら途中に食材を売ってる店があるから先のほうがいいかもね」

「よし、じゃあ食材を調達してから、そのあと東の街道に移動して実力確認ってことでよろしく」

「まかせておいて!」


 カレンと一緒に大通りを歩くと目的の食材屋があった。

 銀貨2枚分で購入できる野菜、肉、魚、パンなどを店員に見繕ってもらい、購入した食材をまとめてゲートポーチに放り込む。

 店員が驚いた顔を見せていたが、かなりの量だったので仕方ない。


「たくさん買ったわね」

「どんな状況になってもいいように備蓄しておこうかと思ってね」

「でも腐っちゃうわよ」

「ほらマジックアイテムだから」

「あ~、なるほどね。そういう能力もあるのね」

「まあね」


 正確にはエターナルシートの能力なのだがここで詳しく説明する必要がないので適当に誤魔化した。


 食材店をあとにしてしばらく歩くとタストの街の東門に到着した。

 ケントとカレンは兵士に冒険者証を提示して街の外にでる。


「確かに冒険者証があると出入りは楽だな」

「でしょ」


 そのまま二人で東に向けて歩いていき、人の目がない場所まできたところで《ムーブ》の検証をすることにした。


「ちょっと確認したい魔法があるから、ここで待っててね」

「え?」

「すぐに終わるから」


 そういってから【図鑑】の地図を開くと自分の位置を示す赤い光点が点滅している。

 タブレット端末の操作をするように二本指で地図を拡大してから、少し先の場所を指差して《ムーブ》と呟く。

 一瞬視界が揺れたかと思うと、指差した場所に移動していた。


 ふと視線を感じてその方向をみると離れた場所にいたカレンが駆け寄って近づいてくる。


「いま何したのよ!!!」

「えっと新しい魔法の確認だね」

「凄いわ!!」


 カレンが目をキラキラして見つめてくる。


「えっと高速移動の魔法なんだ」

「それってケントだけなの?」

「あ~、どうだろう」


 ちょっと思案する。


(装備も一緒に転移したんだし、もしかして俺と接触していれば他の人も転移できるかもな)


「ちょっと試してみよう。カレン、どこでもいいから俺の体に触れていてくれないか」

「いいわよ」


 そういってケントの背中に抱きついてくる。

 いきなり柔らかな感触が背中に発生したことでケントは焦った。


「うがっ!、ちょっとそこは…」

「振り落とされたら困るからしっかり掴まっておくわ」

「あーー、しょうがないのか…」


 とりあえず雑念を振り払い、検証に集中する。

 先ほどと同じように少し先の場所を指差して《ムーブ》と呟く。

 一瞬視界が揺れたかと思うと、指差した場所にカレンとケントは移動していた。

 ケントの背中にまだ柔らかな感触が存在している。


「成功したな」

「…ケント、こ、これって、も、もしかして高速移動じゃなくて転移?」

「えっと師匠は高速移動っていってたよ」

「どうみても転移じゃない!!」

「そうなのか」

「ちょ、ちょっとこれは無闇につかっちゃダメよ! わ、私とケントの二人だけの秘密にしましょ」


 カレンが焦っているのは面白いが、ちょっと不穏な感じもするなとケントは思った。


「もしかして転移魔法ってやばいの?」

「重要人物の暗殺にも使えるでしょ、この国で転移魔法は禁忌なの」

「あちゃー、もしバレたら?」

「危険人物指定されるけど、どうもされないと思うわ。捕まえても転移でどこにでもいけるでしょ。殺そうとしても転移で逃げ回れるでしょ…」

「なるほど国として対処不能な人物になるのか」

「腫れ物にさわるように扱われるわね」

「よし理解した。カレンと俺の秘密にしよう」

「しかしなんて危険な魔法を使えるのよ…」

「でもこれあると、ダンジョンでの修行が楽になるぞ」


 そういうとカレンが考え込んで口を開く。


「…間違いないわね」

「あと制限があって俺が一度でもその場所に行かないと転移できないよ」

「なるほど強力な魔法だから制限もそれなりに存在するのね」

「いきなりダンジョンの最下層にいくとかは無理だな。ひとつづつ進むのは通常の手順を踏まないといけないし、そういう意味では限定的に使えるって感じかな」

「それでも便利なのは間違いないわね」


 少しカレンの興奮がおさまったところで、ケントが話しかける。


「グリンスライムの死体が欲しいから、生息地域に移動しよう。掴ってね」


 慌ててカレンが抱きつく。

 グリンスライムが生息していた場所を指差して転移する。


 一瞬で周囲が緑一面の草原に転移した。


「本当に常識はずれね…」

「俺とパーティーを組むなら慣れてもらうしかないぞ」

「ええ。覚悟はしてたけど…、うん、慣れてやるわ」

「じゃあ、魔獣を召喚するよ」


 そういって、ポチとトムを召喚すると、カレンが目を見開いて後ずさる。


「ゴ、ゴブリンじゃない!」

「あ、召喚魔獣のトムだよ」

「ギャイ、ギョギョイギュ」

「…よろしくね」


 安全だとわかったカレンが微妙な顔をしてトムに挨拶をする。


「ポチとトムは野性の魔獣を探して場所を教えてくれ。倒すのはカレンだからくれぐれも倒すなよ」

「ギャイ」

「キュ」


 ポチとトムが周辺の探索をはじめた。


「一度常識を捨てたほうがいいのかもね」

「そのほうが受け入れやすいかも」


 しばらくして、トムが野生の魔獣を発見して場所をしめす。


「カレンよろしく」

「ええ。華麗に倒してあげるわ」


 トムが指し示す場所にグリンスライムが緑色のゼリー状の体を震わせてプルプルしている姿が見える。


 カレンは愛用のショートソードを構えると、スラッシュと叫んで袈裟斬りを放った。

 すると物理耐性のあるはずのグリンスライムの体に剣が食い込んでコアに衝撃を与える。

 グリンスライムはゼリー状の体を構成できなくなり崩れ落ちた。


「カレン凄いな!! 今の技は特殊な攻撃なの?」

「えっと、気力を込めた斬撃よ」

「それがスラッシュなのか」

「ええ、スライムは普通に剣を振っても倒せないから、ああいった気力を剣に纏わせる錬技を用いて倒すの」

「錬技は俺でも練習すれば使えるのかな?」

「剣術の適正がないと無理ね」

「適正を持っている人のみの必殺技か」

「でも気力に限度があるから、私じゃ何度も使えないわ…」

「使い続ければ使用回数が増えるんだね」


 カレンが無言でうなずく。


「カレンも修行が必要なんだな」

「ダンジョンは冒険者が自分を鍛える場でもあるの、目標はやっぱりプラチナクラスね」

「しかしカレンの錬技を見れて、俺も安心したよ」

「ありがと、それより死体を触媒にするんじゃないの?」

「ああ、そうだな」


 グリンスライムの死体を意識して《イート》と呟く。

 光の粒子が吸収されていく。


「よし完了」

「もしかして、それって触媒にするとさっきのスライムが呼び出せるの?」

「うん、理論的にはドラゴンも召喚可能になるはずだよ」

「…まあ、召喚魔術師サモナーだとそうよね…。そっかドラゴンか、ドラゴンよね、やっぱり」


 カレンが遠い目をしていたが、なにかを決意したように目を輝かせる。


「よし、ケントと一緒に肩を並べられるように私もドラゴンを倒せるように強くならないといけないわね」

「そうしてもらえると助かるよ、なにせ触媒にするには倒さないといけないんだよね」

「強力な魔法だからこそ、より発動の前提条件がきついってわけね」

「いきなり最強ではないってのが辛いんだよなー」


 するとそこにポチが魔獣がいると場所を示すので、カレンがまた野生の魔獣討伐を行う為に元気よく草原を駆けていく。



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