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 タストの大通りに面したオープンテラスの店にやってきた。

 目の前にはカレンの注文した大きな魚のパイ包みの皿がある。


「トラモンのパイ包みはめちゃくちゃ美味しいわよ」

「へぇー」


 カレンが皿に取り分けてくれたトラモンという魚の身とパイを頬張る。

 芳醇な香りの白身魚特有の味が舌の上で跳ね回る。

 確かにオススメというだけあって本当に美味しい料理だ。


「しかしこんな美味しい魚が食べれて幸せだな」

「ダンジョンのお陰よね」

「…え、もしかしてこれもダンジョンで取れたの?」

「そうよ、魚の魔獣ね。美味だから持ち帰ってくる冒険者が多いのよ」

「もしかして魔獣の肉って、魔力含んでるのが影響して美味しいとかなのかな?」

「中には美味しくないのもいるし、そうとも言い切れないわね」

「あー、たしかにスライムとか食べる気しないよな」


 そんな会話をしながら美味しく料理を全て食べ終わる二人だった。

 食後にコップの水を飲みながら、ふとケントが疑問に思ったことを口に出した。


「この美味しい水だけど、川か井戸の水なのかな?」

「タストでは井戸水を汲んで利用してるはずよ。でもこのスッキリとした味から考えると水系統魔法の《クリン》で綺麗にしてるみたいね」

「そうか、マジックストーンがあれば魔術師でなくても、魔法が使えるのか」

「そうそう、でも高度な魔法になればなるほど不純物の少ないマジックストーンが必要になるから一般の人じゃ使うのは厳しいわね」

「魔法や魔獣を解説した本はないのかな?」

「生活魔法の本は雑貨屋に売ってるけどケント読めないわよね」

「そうだった…」


 ケントは読み書きが出来ないことを思い出し凹んだ。


「あと冒険者ギルドに魔獣の名称、生息場所、特徴の書かれた指南書もあるけど、そっちも読めないわよね」

「うん…」

「私と一緒にパーティーを組めば解決するわよ」


 ニッコリとカレンが微笑む。

 外堀を埋められていく感じがする。


「パーティーについては明日までに考えをまとめるよ」

「うん、期待して待ってるわ」






 昼食後は雑貨屋に移動して、生活に役立つ小物を購入することにした。


 メモとして使う大量の紙

 羽根ペン

 インク瓶

 作業用ナイフ

 食器一式

 調理道具一式

 卓上カレンダー

 洋服を入れる小型チェスト

 焚き火に使う薪

 布袋

 体を拭く為の布切れ

 桶


 などなど。

 結局ここで買った商品の合計金額は300エクという金額になり銀貨3枚を支払った。


 買った商品は全部ゲートポーチに押し込んだ。


「本当に便利ね、そのマジックアイテムの袋」

「まあ、これがあって俺も助かってるよ」

「それってケント以外でも使えるものなの?」

「どうかな? 試したことがないな。カレンで試してみよっか」

「え、いいの?」

「ああ、平気だろ。手を突っ込んで羽根ペンと念じてみて握った感触があれば取り出せるはずだよ」


 カレンがゲートポーチに手を突っ込んだが首をかしげる。


「普通の袋のように底に手がついちゃうだけよ」


 ケントが袋を覗きこむと確かにカレンの手は袋の底を触っているのが見えた。


「俺以外は使えないみたいだな」

「そっか、でもそれなら盗まれても安心ね」

「盗まれるのは勘弁して欲しいけど、悪用されないのは助かるな。貴重な品を入れてるし」

「父のマジックアイテムとは違うのね」

「そうなんだ。そのマジックアイテムはどんなものなの?」

「袋に入れるとサイズが小さくなるのよ」

「へえ、それも便利そうだな」

「冒険者時代にかなり重宝したらしいわ」

「マジックアイテムか~。便利そうだから欲しいけど金を稼ぐか、自分で探すか、手に入れるのはどっちにしても大変だな」

「どんなマジックアイテムがあるか見に行きましょうか。値段を知っておくのもいいでしょ」

「たしかにそうだな」


 カレンとケントは雑貨屋を出て、タストの町の大通りを通って街の南にあるポゼッタ道具店を訪れた。


「いらっしゃい」


 店に入るとカウンターの中にいた老婆が出迎えてくれる。


「カレンお嬢さんが来るとは珍しい」

「お久しぶりです。今日は街の案内依頼を受けて、お店を回ってるんですよ」

「ほほー、なるほど。そうじゃったか。父親に似て冒険者の顔つきになってきたのぅ」

「えへへ。それで、この人が依頼者のケントです」


 老婆が俺の姿を見て驚いた顔を見せる。


「なるほど。これはかなりの実力のある魔術師様だね」

「え? わかるんですか?」

「いやいや、そのマントを見れば一目瞭然じゃ。高級なマジックアイテムを身に着けるのは実力のある魔術師の嗜みじゃな」

「ケント、そのマントって本当にマジックアイテムなの?」

「うん。たしかにそうだけど、これを見抜くって凄いな」


 そういって老婆をケントが見つめる。


「まあ、長年マジックアイテムを見てきたのでマジックアイテム独特のオーラを感じることが出来るという話じゃよ。ただし詳しい性能は《インフォ》を使わんとわからんがな」

「《インフォ》って?」


 そういうとカレンが口を開く。


「光系統の鑑定を行う魔法なの。適正がない人が未鑑定品を鑑定する場合は純度の高い光系の魔法触媒を使う必要があるのよ。ただし一度鑑定されると純度の低い魔法触媒で表示されるようになるわ」

「ダンジョンに行く冒険者はどうしてるの?」

「魔法触媒を自前で調達するか、もしくは他の魔獣素材を売ったりして触媒を購入しているわ」

「実力があれば自前調達で事足りるのか」

「うむうむ。さてと無駄話はここまでとして、今日はどんなマジックアイテムをお探しなのかな」

「あー、探しているというか、どんなマジックアイテムがどの程度の値段なのかを知りたくて来たんです。冷やかしですいません」

「なるほど、しかしそういうにはダンジョンに挑戦するということかな?」

「そうね、私とパーティーを組む予定なの」

「ちょっと、カレン。その話はまだ結論が出てないでしょ」


 ケントは慌ててカレンの口を押さえようとした。


「ほっほっほ。若いうちはそうじゃなくてはな」


 老婆は笑いながら、現在店においてある数点のマジックアイテムを見せてくれた。


「このシルフリングは売値は金貨1枚。スペル詠唱で素早さが上がる指輪じゃ。こっちのキュアネックレスの売値も金貨1枚でスペル詠唱で自身への解毒が出来るのじゃ」

「ここの商品は最低金貨1枚なんですか?」

「うむ、ダンジョン品じゃからな」


(いろいろ考えるとやはり修行するにはダンジョンが一番なんだな…)


「見せていただきありがとうございます。俺もダンジョンに挑戦する心構えが出来ました」

「また顔をだしておくれ」


 そういって店をあとにした。

 大通りを歩きながらカレンに話しかける。


「カレンが言ってたけど、やっぱり俺が修行するのはダンジョンが最適なんだろうな」

「うん。魔獣がうようよしてリスクはあるけど、そこを切り抜ける力を身に付けられたらリターンは大きいはずよ」

「確かにな。それでダンジョンに挑戦する条件としてクラスの近い二人組み以上の冒険者パーティーで、かつ手続きがスムーズに出来る人がいるということは…」

「私とパーティーを組みなさいって運命なのよ。ふふっ」

「やっぱ、そうなのか…。いやそれならオランでも…ってオランはアイアンか…。ってどう考えても俺の事情も把握してるとなるとカレンしかいないのか…」

「私じゃそんなに気に入らないの?」


 歩きながらカレンがケントを見つめてきたが、ケントは恥ずかしそうに視線をそらす。


「気になるから困ってるんだろうな…。まあどう考えても詰んでる状態だ。よし!護衛の依頼が終わったらパーティー申請するか」

「やった~!」


 カレンが嬉しそうにはしゃぐ。


「そういえばカレンって何歳なの?」

「15歳よ」

「…え?えぇぇぇぇぇ!!」

「どうしたの?」

「年下だったのか… しかも15歳とか、うかつに手をつけたら淫行じゃないかーーーー!!!!」

「ケント、淫行ってなに?」

「あ、えっと、あれかな。カレンは気にしなくていいよ、うん。そうそう気にする必要ないよ」

「そうなんだ、じゃあ、気にしないようにするわ。それとは別に私の歳を教えたんだからケントも歳を教えなさいよ」

「17歳だよ」

「あら、もっと歳上だと思ってたんだけど2歳しか違わないのね」

「あ。俺って老け顔だから…」

「えっと、実は黒目黒髪の人を見たのがはじめてだから年齢の感じがよくわかってないのよ」

「そういえば、街中みてもいないな。じゃあ、俺ってこの街で目立ちまくりだったの?」

「そうでしょうね」

「うはーーーー。目立たないようにしたかったのに、元から無理だったのか…」

「どんまい、ケント」


 年下の女子に慰められるケントの姿がタストの大通りに溶け込んでいくのであった。






 フギン亭の前でカレンと別れたあと、宿で夕食の野菜煮込みとパンを食してから行水用の水桶を抱えて早々に聖域に戻ると、すぐに水桶を床に置いてからエターナルシート上に置かれた購入した商品を整理する。


「今日もいろいろあったよな…。はぁー」


 ケントは少しぼやいた。

 結局、カレンと冒険者パーティーを組むことにしたのだが、どこまで俺の情報を教えていいのか正直迷ってしまう。

 しかしこの世界で非常に珍しい黒目黒髪という容貌で、さらに召喚魔法を使うとなると、今後もいろいろと人目につく機会が多くなるだろうから、その時にうまく切り抜けるためにもカレンの手助けが必要になる。

 いざという時に俺の秘密を知らないことで危険な目に遭うのは避けたい。


 非常にデリケートな問題すぎて答えが出ないのでケントは思考を停止し、当面は今のスタンスのままでいこうと決めた。


 購入した商品の整理ができたところで、黒いスウェットに着替えて楽な格好をしてから椅子に座り机に向かう。

 忘れないうちに異世界の人に触れて得た重要な情報を買ってきた紙に箇条書きでまとめていく。




 エクレタ聖国について


 ・主要な都市はダンジョン都市ドルドス、聖都エクレタ、交易都市タスト

 ・謙虚さは美徳ではない

 ・行動には対価が発生

 ・召喚魔法や治癒魔法の使い手は非常に少ない

 ・野生の魔獣の一部は討伐証明の部位を提出すると討伐報酬がもらえる

 ・ゲートポーチは見せびらかすのを控える

 ・通貨単位はエク

 ・流通貨幣は金貨、銀貨、銅貨

 ・銅貨1枚が1エク、銀貨1枚が100エク、金貨1枚が10000エク

 ・1エク=100円程の価値

 ・街に入るのに身分証がないと100エク必要

 ・交易都市タスト商業ギルドの会員カードは年会費100エク

 ・時間の流れは1日は朝昼夕夜の繰り返し

 ・1月は30日、1年は12ヶ月

 ・エクレタ暦353年7月14日

 ・スィートグリーンリーフは1枚20エク

 ・黒目黒髪はレアな容貌




 冒険者について


 ・冒険者のクラスはカッパー<ブロンズ<アイアン<シルバー<ゴールド<プラチナ

 ・冒険者のパーティーは近いクラスで構成

 ・冒険者への依頼も冒険者の報酬も最低100エク

 ・エクレタ聖国冒険者証は年会費100エク

 ・冒険者証や会員カードには《トランスファ》の魔法でセキュリティを仕込んである

 ・兵士のいる判別所で偽造かどうかの取り締まりが行われる



 ダンジョンについて


 ・ノマリア王国は滅び高度なマジックアイテム作成技術は喪失

 ・カタカナは古代ノマリア文字

 ・ダンジョンから古代ノマリア王国由来の高度なマジックアイテムが出土

 ・ダンジョンの一部の魔獣の肉は食材として利用

 ・ダンジョンの挑戦は最低2名

 ・過剰に魔力を魔獣が内包するとレア魔獣=ボスモンスターとなる

 ・ダンジョンの階層守護者はボスモンスター

 ・ダンジョンでは安全エリアで休憩

 ・《インフォ》の魔法でマジックアイテムの鑑定が可能



 その他


 ・酒は毒扱い

 ・火、水、風、土、光、闇の六属性を扱うのが系統魔術師

 ・一つの系統のみ詠唱可能

 ・スキル=習熟適正

 ・習熟適正を得ると能力が強化される

 ・《ステート》の魔法で自分のみ習熟適正が判明する

 ・ポーションで怪我や病気の治癒が可能。

 ・最高級ポーションを使うと四肢の欠損まで再生可能

 ・死んだ場合の蘇生は魔法でもポーションでも無理

 ・食事、睡眠、専用ポーションで気力回復

 ・気力は魔法の使用で消費する

 ・《クリン》の魔法で水を綺麗に出来る

 ・触媒を用いて生活で使う魔法の本は存在する

 ・魔獣の特徴が書かれた指南書も存在する




 たっぷりと時間をかけて書き上げたが、ぐちゃぐちゃしていた思考がスッキリした。


 ここまで書いて気づいたが、古代ノマリア文字もそうだしモンスターの名前、魔法のスペル、道具の名前、それから文化の中にケントの元々いた世界の情報がちょこちょこと紛れ込んでいる。

 偶然とは考えにくい。

 今の時点ではハッキリしないが、この謎を追求することで元の世界に戻る手段を得られるかもしれないと紙にかいた箇条書きを見ながらケントは思うのであった。


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