ハツミミデス
皆さん。こんにちは。根暗女子代表の巣守真白です。あ、自分で言ってライフが削られた…。ただでさえ暑さに殺らてているというのに。
ちなみに今は夏です。真夏です。夏休みです。サマーバケーションです。リア充達が大いに盛り上がるあの夏です。夏が好きな奴なんて大抵リア充ですよ。え、言葉の節々に刺がある?あはは…、気の所為ですよ。気の所為。私だって夏嫌いじゃ無いですよ。何故なら夏には夏コミがありますから!死んでられませんよね!
「男前受けとかたまらんですなぁ、たまらんですなぁ〜。」
現在、クーラーがガンガン効いた部屋でベッドに横たわりパソコンの画面を見つめている。
夏といえば海?誰がそんなことを言ったのですか!え?一般的にそうだって?…。
……こういう日はネットやゲームをするのに限ります。はい。
「この絵師様ほんと素敵すぎますよぉ、ふつくしいー」
おっとよだれが。
私がよだれを拭うと同時に普段鳴らないチャイムが六畳の部屋に響き渡った。慌ててノートパソコンを閉じ、覗き窓を除く。するとそこにはアイシャドウばっちりの大家さんが居ました。年齢不詳だが40代だと思う。
あ、説明不足でしたが、ここは大学の寮です。冷房、暖房完備の良い物件です。
私は戸を薄く開ける。
「あ、あああの、どうされましたか?」
私は根暗女子であり、コミュ障でもある。いらないスペックだ。
「巣守さん、急で悪いんだけど、ここから出ていってくれない?」
「why?」
いきなり何を言い出すんだ大家さん。思考がついていけなくて思わず苦手な英語が出てしまったぞ。
「すみません、聞き取れませんでした。」
「だから、はよ出ていけ。」
「直球すぎますよ!私何か大家さんに気に障ることしましたっけ!?」
ここは、3年間慣れ親しんだ城《六畳》だ。簡単に手放すなんて出来ない。しかも私にはここ以外居場所がないのだ。
「あー、違う違う。そういうのじゃないよ。ここ、夏休み中に耐震工事するの。…って前に言わなかったっけ?」
「ハツミミデス。」
そんなの聞いてたら優雅にBL漫画読んでないわ!
「あー、ごめんごめん。いい忘れていたみたい。」
大家さんの謝罪は悪そびれたように聞こえない。
スペック追加。私は影が薄い。
「お詫びにアイス代あげるから、大人しく帰省しなさいな。ほかの子達はとっくに家に帰ってるよ。んじゃーね。」
ポイッと大家さんは100円玉をほおり投げる。いきなり投げられて戸惑いながらも100円玉をキャッチし、大家さんに文句を言おうかと顔を上げれば、そこにはもう彼女の姿は消えていた。
右手に100円玉を握り締め、暫し呆然とする。
あぁ、なんてこった。実家に帰ってしまえば、帰ってしまえば…
「コミケが遠くなるだろぉぉぉぉ!」
ショックのあまり床に膝をつく。始発で行かないと間に合わない。通行費だけで何冊あの薄くて夢と希望が詰まった本が手に入るのだろうか。あぁ、想像しただけで目から雫が…。
…いや、これただの汗だ。
暑さのあまり滴ってきた汗を拭い、実家のことを思い出す。
…あの二人から離れるために家から出たんだけどなぁ…。
六畳の部屋に入り、小さく溜息をついた。