特に何もありません!
中学二年の彼の毎日。ごく普通に過ぎているように見えますが、実は…
その少年は今年中学二年生。本当の中二だ。
だから勿論中二病的なところはある。
「あ~あ、波乱万丈の人生を送りたい。実は俺は別の次元からやっ
てきた特殊能力者なのだから。こんなにも平穏に毎日が過ぎてゆく
のはおかしい」
時々そんな風に夢想しては、自分でノートに物語を書いてたりす
る。
「アンタ、バカ言ってないで早く学校に行きなさいよ? 遅刻する
わよ」
母親にこう言われ、彼は学校に向かう。
「チェッ、今日も何事も無く、登校か」
実は彼が起きてから、彼の周りでガードをしている特殊部隊の隊
員三名が命を落としていたのを、彼はまったく知らなかった。
彼が生まれた時から、世の中は彼を中心に回ってきている。
彼が異次元から来たというのは事実だった。
彼に何かあると、この次元の時間軸に異常が起こり、世界が滅亡
する恐れがある。有名な科学者の一言で、彼をガードする体制が作
られたのだ。
両親は勿論赤の他人。学校や友人、そもそもこの町自体が、彼を
ガードする為に作り上げられたものだったのだ。
彼を手に入れれば最大の武器になる。そう考える国は多い。だか
ら彼を狙う組織も人も多い。
今朝も某大国の某組織が彼を略奪せんとして、特殊部隊と戦闘を
繰り広げたのだ。
この事実を彼は知らなかった。と言うよりこの事実に気づかされ
ないよう大切に扱われてきた。
例の科学者が言うには、彼がこの事実を知ると、彼の精神に負荷
がかかり、その時この世界に何が起こるかまったく予想出来ないと
言うのだ。
そういう訳で、国際連合は日本に世界の運命を預け、そうして国
は、全力で彼をガードしている。勿論、戦闘にしても彼をガード
するにしても、それを彼に気づかせてはならない。これこそが唯一
の守るべき掟だ。
これまで彼を守る為に命を落とした者は、日本国、国際連合国を
含め、多大な数に上っている。だが、今の世界を守る為の尊い犠牲
なのだ。
今日も彼にとっては退屈な一日が終わり、ベッドに入る前。
「ああ、今日も何も無い一日だったな。はい、特に何もありませ
ん!」
そうつぶやいてから明かりを落として眠りに入った彼。
それを無線で傍受していた数多の組織の戦闘員、工作員達は小さ
く叫んだ。
「ふざけんな!」
その夜、ここかしこで 男達のすすり泣く声がいつまでも聞こえ
ていたという。
知らぬは本人ばかりなり…幸せなんだか不幸なんだか…やっぱり幸せなんでしょうね。