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プロローグ2

 高く険しい山脈に囲まれた閉塞的な土地――アスケラに、大きな城をかまえるアマルテア国と、複数の村からなるヘスペリア地域が存在する。

 この土地に他方から人が訪れるのは稀である。高々とそびえる山々を越えることは非常に困難なためだ。最も高い山の標高は、生身の人間がギリギリ登れるかの限界とされ、自然の厳しさを突きつけてくる。

 結果、国外において山を越えた先にあるアスケラのことは、民衆の中ではそう詳しくは知られていない。加えて、アスケラについて知っていたとしても、命を懸けてまでの商業的な価値があるわけでもなく、あえて交流を築こうと思う者はいない。また、山脈周辺に大国がないこともあり、商業でも軍事でも、アスケラは長年放置され続けてきた土地である。

 そのためアマルテアとヘスペリアは、国外との交流もほとんどないまま、自給自足でひっそりと歴史を積み重ねてきた。風土に根づいた忌まわしい風習とともに。

 国外でその土地を認知している者たち、とりわけ山を越えて実際に彼の地に足を踏み入れた一握りの人々でさえ、その風習を知る者はいない。

 その風習とは、アマルテアがアスケラを統治し続けるために繰り返される戦争のことである。勃発する頻度はまちまちで、八十年近く平和だったこともあれば、十年ほどで再び戦火が発生したこともある。しかしそのきっかけはいつの時代も変わらず、ヘスペリアのアマルテアに対する武装蜂起で、原因はアマルテアに抱く不平不満からである。

 だが奇妙なことに、その戦争で勝利するのは常にアマルテア側で、ヘスペリア側は必ず敗北する。

 アマルテアを必勝に導くもの。それは、戦争の起こる十数年前の満月が昇る日に、この世に生を受けるフェクタと呼ばれる人物の存在である。

 彼らはアマルテアの軍の采配をつかさどり、まるで未来を見通すかのような寸分違わない的確な指示はヘスペリアの兵たちを翻弄し、アマルテアの勝利と統治、そして争いによる被害が最小限となるような結果をもたらす。その芸当のような技術は超能力と形容されることもある。

 また不思議なことに、フェクタ以外、アスケラ内で満月の日に生まれた者はいない。視認できる二つ月の内のどちらかが満月となった日に生まれた子どもは、必ずフェクタとして認知される。

 繰り返される争いとフェクタとの不可思議な関係が、アスケラで戦争を風習と呼ぶ由縁である。

 皮肉なことに、アマルテアでのみ生まれ落ちるフェクタがヘスペリアに不平を押しつけている象徴として、それに憤激した民衆によって起こされる戦争がほとんどある。その場合、たいてい以前の戦争で親を亡くした子どもたちが、憎しみを抱いたまま成長し、兵を指揮するリーダーとなる。

 長い歴史の中に克明に刻まれた戦争は、生の裏返しにある死の恐怖をアスケラ中にもたらす元凶であるにもかかわらず、現在もなお、この風習は繰り返されている。


 戦争を終結させ、役目を終えたフェクタはどうなるか。彼らは長くは生きられない。彼らの平均的な寿命は二十代半ばであり、三十歳以降も生きられた者は、記録の中では存在しない。戦争へと身を投じるのは二十歳前後であるから、戦後は数年と生きてはいられない。

 死因の多くは、アスケラ内では不明とされている。死の前兆として、ろれつが回らなくなる、歩行困難、身体の一部に痺れを感じるようになる、などがある。絶大な戦果をもたらすフェクタの存在が、人知を超えた特別なものであるからか、その症状を伴う病も、一般人に治すことは絶対に不可能とされている。国外の言葉を借りるならば、実はその正体は悪性腫瘍である。とりわけ脳で発生することが多い。しかし、アスケラの土地でその事実を知るものはいないし、知ったところで治療する技術もない。フェクタの薄命は絶対なのだ。


 フェクタの中で双子が生まれた事例は、たった一度だけである。二つ月が同時に満月となった日のことであると、記録には記されている。二つ月が満月となる日は数百年に二、三度あるかどうか、かつ戦争の起こる十数年前と条件は厳しく、重なる確率は極めて低い。二つ月が双子の出生に関係があるかどうかは、今も確認のしようがない。

 このとき生まれたのは、兄と妹だった。異例の事態に対し、アマルテアは二人をフェクタと認めた。同時期に二人のフェクタがいたこととなる。兄の方は勃発した戦争の即時終結に尽力し、通例に違わず薄命の人生を終えたとある。しかし妹の方は、十五歳となったころに突如として行方をくらまし、記録の中でその存在を消失させた。

 今回ヘスペリア兵が強奪しそこなったフェクタが双子であったことは、ヘスペリア側は知る由もない。


 ヘスペリア側が強奪を実行したのは、フェクタになるであろうと目星がつけられた赤ん坊が、アマルテア城下にいるという、内通者からの連絡があったからだ。そこで、ヘスペリア中の村長たちが検討した結果、赤ん坊およびその母親の誘拐が決定された。各長たちもまた、戦争で親族を失い、かつ敗北を経験した者たちである。そして満月の前日の夜に計画は開始された。

 そんな計画が企てられているとは気づきもしなかったアマルテアであったが、深夜、非番のアマルテア兵が城下に侵入しようとするヘスペリア兵たちを発見。城内に避難させることはヘスペリア兵に阻まれたため、目標である母親とともに、城の直近にあるクリュメネ断崖へと逃走した。その際、同じく非番であった二人の兵士たちも合流し、彼らは赤ん坊を死守することを決意した。

 双方の兵士とも、自らが生まれた故郷を守りたいという意志の元で対峙することになるのは、酷な話ではあるが、長く蝕んできた風習に抗うことは、無力な彼らには到底果たせないことであった。

 アマルテアとヘスペリア。そして人々が知らない、アスケラにひっそりと築かれたもう一つの国。変えることができずにいた戦争という運命に一石を投じることとなる双子は、一度も顔を合わせることなく生き別れることとなった。

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