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第3章 ガルシアの悲劇②

「技師やべぇまじでやべぇ!びっくりした!」

エルが右腕を押さえつつ部屋に戻ってきた。

応急措置として彼の足には木で出来た簡素な義足が取り付けられているが、勿論それは武器兼鉄の義足に代えねばならない。すでに彼の腕には取り付けが始まっている。これは何度かの大きな手術を経るのだが、その最中に適性がない、または痛みに耐えきれず死んだ者は処分されるのが、ザルグの常識であった。

その点エルは痛みに耐える強い精神を持ち、レスの前では弱音を吐かまいとする優しさが感じられる。レスはエルよりも進度こそ遅いものの、腕だけで済むので、彼より早く終わるであろうことは想像がついた。

「なんか色々いじってくる技師の他に、じっと見てくる眼鏡の技師が…しかもたまにトランペット吹いてやがるし…巧いし」

「それ、多分ザルグの管理人…というか幹部だと思うぞ」

「あんなやつがかよ!」

ベッドにどかっと腰掛ける。

今夜は月明かりが部屋の中をくっきり照らす。鉄柵の向こう側には、瞬く無数の星が見えた。

「戦闘訓練と手術の時にしか外に出れないなんて、拷問だな」

「それだけじゃねぇよ、レス。6割は『処分』される」

「…エル、俺怖いんだ」

レスは膝を抱えた。

もう嫌だ。限界だ。エルと助け合えたからここまで来れた。でももう自分の中の恐怖に打ち勝てない。

どうして理由もなく捕らわれ、自分の身体に好きに刃物を入れられているのだろう。同じ、ヒトという種族なのに、平気で殺せるんだろう。あんなに理不尽な死に震える、あの瞳を見て、何とも思わない人間がこの世にいるのか。

「エル…エル、怖いよ…」

「…レス」

エルは、レスの頭に手をのせた。

「良いか、レス、俺と約束しただろ。一緒に生き残るって。…それにな、俺がどうして普通でいられると思う?」

「え…」

「…憎むんだよ」

ふと窺ったエルの表情は、不気味な笑顔だった。レスはぞっとする。

「オルディア、アンティアの奴等は、これだけ優れている俺達ガルートを、いいように扱ってやがる。でも…考えてもみろ、ガルートが10人もいれば、普通の人間100人は殺せるぜ」

「…それは」

エルの目が光った。

「憎むんだよ。どうやったら奴等が皆殺しにできるか計画を練るんだよ!そうしてれば、こんなとこで折れてらんねぇって思うじゃん」

レスは息を呑んだ。本気だ。

…皆殺しという言葉を本気で発する。レスは渇れた喉を無理矢理抉じ開け、声を絞り出した。

「…皆…」

「皆だよ。そりゃあ、中にも善人はいるだろ。けどな、俺達がこう思わなきゃ生きていけない環境が出来た時点でな!それは死に値するんだよ!見て見ぬふりして、俺達のこと見捨ててんのは、俺達のことを殺してるのと同じだ!」

…ああ。

レスは視線を落とした。

そうだ。エルの言っていることは、同意できる。けれど、けれどレスは。

今度は声が出せないままに終わった。

「俺はさぁ、ガルートだけの軍隊をつくる!ガルート同士が潰し合うなんて馬鹿らしい状況はもうごめんだ。両国を滅ぼして、そこに俺達だけの国を…」

大人は、子供の戯れ言だと言うだろう。

レスは思った。


しかしエルは偉大な指導者になり。

革命をおこすような、

気がするのだ。



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