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なぞなぞミステリシリーズ

なぞなぞミステリ

作者: 高嶺富士

「なぞなぞです。二階建てのアパートで人が殺されていました。ところが二階の住人は犯行時刻前後に足音を聞いていないそうです。犯人はどこから入ったのでしょうか」

「質問いいですかー」

「はい、どうぞ」

「"足音を聞いていない"を具体的に教えてください。普段足音なんて気にしないのでよく分かりません」

「このアパートはわりとボロくて、二階の共用廊下は誰かが歩くと必ず揺れるんだそうです」

「なにが?」

「床が」

「それはボロい」

「この住人は足音や揺れに敏感な方なので、共同廊下の足音だけでどの住人かとか宅配業者なのかということまで分かるそうです」

「そんな神経質な人いるんだ。生きていくの大変そう」

「そんな神経質な人が、足音はしなかったと証言しています。わかりましたか?」

「はい、とてもよく分かりました。ずばり、犯人は窓から入ったんですね」

「どうして窓の話になるんですか」

「だって共用廊下じゃないのなら、玄関と反対側にあった窓から侵入したとしか思えません」

「誰も窓が玄関と反対側にあるなんて言ってません」

「ボロアパートは大概そうです」

「偏見です!今回の問題に窓は一切関係ありません」

「関係ないんですか」

「問題文以外のことは考えなくて結構です」

「なんて厳しい」

「問題なんてそんなものです」

「質問いいですか」

「どうぞ」

「エレベーターや非常用階段はありますか?」

「ありません」

「なるほど。ちなみにアパートの周辺の地面はどうなってますか?」

「いい質問ですね」

「ボロアパートの周りはだいたい雑草がぼうぼう生えた、土と石だらけだと思います」

「それも偏見!」

「思います、ってあんた出題者じゃないでしょ。ちゃんとしたボロアパートに謝りなさい」

「ちゃんとしたボロアパートなんてありません。ちゃんとしてたらボロいはずが無いもん」

「どんな偏見もってんのよ、あんた」

「このアパートの周りは、砂利が敷き詰められているわけでもありませんし、土や砂があるわけでもありません。玄関まで舗装された、ごく普通のコンクリートです」

「ちゃんとしたボロアパートだった」

「どこに驚いてるのよ」

「ちなみにアパート周辺の音は響きません」

「つまり二階の住民は……」

「質問はここまでです」

「えー」

「先生、私わかりましたよ」

「はい、どうぞ」

「犯人は玄関から入ったんですね」

「正解です」

「早いよ」

「どうしてそう考えたのですか」

「ちょっと待ってください。玄関から入ったんなら足音を聞いているはずです。でもその時間に足音はしなかったと問題にありましたよ」

「誰が二階で人が殺されたと言いました?」

「へ?」

「被害者は一階に住んでいて、犯人は一階へで犯行を行なったんですね」

「その通りです」

「卑怯だ!」

「ミステリなんてそんなものです」

「こら」

「なんで一階の玄関と特定できたんですか?」

「まず問題文には犯行現場を特定する記述がなくて、二階の住民は"共同廊下の足音は床が揺れるから分かる"と出題者が言ってた。でも床の揺れない一階の足音はこの証言と関係あるのか、と考えると関係なさそうだよね。また、地面が砂利とかだったら二階の住民も足音を聞いたかもしれないけど、地面は舗装されているし音も響かない。これらの考えを合わせると、二階の住民は共同廊下の足音しか分からないということになるよね」

「その通り」

「つまり事件発生時に二階の共同廊下を使った人はいなかった。さらに、"窓のことは一切関係ない"という出題者からの言葉を加えて考えると、残るはアパートの一階しかない」

「うぐぅ」

「念のためにエレベーターや他の出入り口の件も聞いたけど、無いという回答だったしね」

「うぐぐぅ。さ……三階で殺人があったかもしれないじゃん」

「二階建てアパート、と最初にあります」

「秘密の通路が……」

「無い」

「ボロアパートには絶対に無い」

「実は二階と一階が中で繋がっていたとか……」

「アパートなのに」

「どうやって?」

「えーと、天井を突き抜けるように梯子が……」

「それは苦しい」

「参りました」

「今回も勝負が決まったね」

「いつも勝てないなー。でも問題文に書かれていないことは考えるな、と言っておきながら地面のことを聞くのはいいの?」

「足音に関係あるからね」

「なんて卑怯な」

「発想力の違いと言ってもらいたい」

「絶対に言ってあげない」

「あはははは」

「また問題考えてくるね」

「うん。楽しいし、楽しみにしてる。でもちょっと問題がずるいよー」

「考えてる私もそう思ってる」

「あはははは」

「でも毎回当てるのすごいね」

「ミステリ好きだからね。どこで引っ掛けようとしてるかを考えたら、だいたい当たるよ」

「私も読もうかなー。いつかはぎゃふんと言わせたい」

「ぎゃふん」

「ぎゃふん」

「今じゃないの!」

「ははははは」

キーンコーンカーンコーン

「あ、チャイムだ」

「次は数学か。寝そう」

「私も頭使ったから寝るかも」

「お腹空いたね」

「ね」

「じゃまたね」

「じゃあね」

先生が来る前に、三人は自分の席へと戻って行った。


『本格ミステリの王国』を読んでいたら、ふと思いつきました。思考時間+製作時間=30分。会話形式でリズム重視で書いたので、いろいろとアレな点があるかもしれません。暇つぶし程度に楽しんでいただけたらと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読させていただきました。 ミステリでこられたので、ようやく感想を書かせていただくことができました。 会話のみで話をすすめられるテクニックはよくできていると思いました。流れも論理的ですし…
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