ナキゴエ
綾子は泣いた。
俺には綾子が言った言葉がまったく理解できない。
ただわかったのは、拒絶。
俺の言葉の............否定
「晃は優しいから、もしかしたら.........なんて思ってちょっと期待したけど、やっぱりダメだよ。晃がいいと言ってくれても、私は耐えれないよ。ただツライだけだよ。」
じゃぁどうしろっていうんだ。
これほど綾子に対して苛つくのは初めてかもしれない。
口調が明らかに乱暴になる。浮かんでくる言葉をただ言い放つ。しかし、綾子は泣きながらも俺を睨み、強い口調で言い返す。
「晃の優しいところは大好きだけど、私は同情みたいな気持ちで応えてほしくなんかない!」
体中の温度が上がっていくのがわかる。
「なんでだよ?」
聞かずにはいれなかった。
「わかんないよ」
「なんでわかんないんだよ!自分のことだろ!お前言ったじゃねぇか、期待してたって。なんでそれを突き放すんだよ、えぇ!?」
言葉が凄む。綾子はおびえていた。
それでも俺の中の熱はすでに冷ますことが不可能なくらいに煮えたぎっていた。
頭に浮かぶ言葉が、次々と口から出てくる。
なぜ? なぜ? なぜ?
気づくと綾子は泣き止んでいた。ただ暴言を放ち続ける俺を、ずっと見ていた。
その目が俺は無性に気に入らなかった。
まるで俺が悪いことをしているみたいだ。
そんな考えを掻き消すように、さらに言葉を続けようとするが、それよりも先に綾子の言葉がその場を制した。
「そんなの納得できないもん。」
「はぁ?」
「そんな同情みたいな気持ちで繋がる恋なんて私は嫌だよ、晃だってそれくらいわかるでしょ!」
「…………」
何も言えなかった。頭に溜まっていた血がひいていく。
『晃だってそれくらいわかるでしょ!』
綾子の言葉が頭の中で響きわたる。
なんでだよ?
好きな奴と一緒にいれたらそれでいいんじゃねぇのかよ?
綾子の言葉の意味を俺は理解できなかった。ただ俺が間違っていることを指摘されている。それがなぜか釈然としない。
綾子はまだ俺を睨んでいる。どうやら俺の言葉を待っているようだ。
しかし、俺は自信がなかった。俺には綾子が期待しているような言葉を言ってやれる自信はない。
「わかんねぇよ。」
綾子に背を向け、鞄を乱暴にとり、逃げるように教室を出ていった。
教室から聞こえた綾子の泣き声が、やけに心を締めつけた。
俺は.........間違っていない
俺は、俺は.........
下校を告げるチャイムさえも、あいつの泣き声に聞こえた。