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ハジマリ

「ずっと好きでした」



それは予想できなかった言葉だった。


俺はいつもどおり退屈な授業の大半を睡眠学習に費やし、放課後はお気に入りの場所(屋上)で日向ぼっこをして過ごした。他の奴らは無駄な時間を過ごしていると俺を見るかもしれないが、俺はこの生活が好きだった。

確かに退屈と感じることもあるが、それはわがままな考えだし、退屈と思えるほどのゆとりが気に入っていた。


下校時間まで残り10分くらいになると、教室に戻り、帰り支度をしてまっすぐ帰る。


そんな変哲もない毎日を俺は気に入っていた。


ただ今日はいつもより早めに帰り支度をしていた。早いといっても10分程度だ。そこに違和感を覚えることはないし、それはきっと意味ないものだと思う。だから俺は、何も気にせず教室のドアに手をかけた。


「ふぇっ!?」


間抜けな声が綺麗にハモる。

そりゃドアが勝手に開いたら間抜けな声ぐらいでるさ。しかし、俺の目の前にいる結城(ユウキ)綾子(アヤコ)はソレとは違う理由があるようだ。まぁ、そんなことはどうでもいいのだが。


「忘れ物か?」


「うぅん、ちょっと用事があってね。」


そう言って綾子はなぜか目をそらす。それが自分でも信じられないほど気に食わなかった。ついつい悪態をつこうとしてしまう。しかし、それよりも早く綾子が口を開いた。


「晃、ちょっと……いいかな?」


綾子が俺の暇を探るときは大体ろくでもない頼みごとを託すときだ。こいつは俺の家が隣ということを上手に利用する。重いものを運ぶときは否応なしに俺を駆り立てる。


「なんだよ?買出しの手伝いか?」


「ち、違う違う……ちょっと言いたいことがあってさ」


「お小言か?今日は1回も授業サボってないぞ。」


「いや、そんなことじゃない……ってか授業はサボらないのが普通。」


お小言以外の用事となるとわからない。あまりいい方向には向かわない気がする。


「じゃぁなんだよ?もうすぐ下校時間だぜ、とっとと帰らないと門閉められるぞ。」


「ハハ、あんま急かさないでよ、こっちはけっこぅいっぱいいっぱいなのに。」


そう言いながら綾子は胸に手をあてて、深い呼吸を繰り返した。自分の弱いところを抑えて強がろうと必死になっているように見えた。


何をするつもりなんだ?


また間抜けな顔をしていたであろう俺を、綾子はまるで諌めるかのような目で見た。そして、腹の底から大声をだすような動きをして、その口を開いた。


「好きです」


俺はその4文字の言葉を理解できなかった。


「ず、ずっと……ずっとずっと前から、好きでした」


顔を真っ赤にして、綾子は俯いてしまった。

綾子の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。しかも俺に対して……


綾子とは小学校からずっと同じ学校で、家も隣だから、いっつも遊んでた。俺は弱虫だったからすぐに泣いた。それを綾子はいつも慰めてくれた。

綾子は俺にとって親友だった。姉貴だった。その綾子が………


――――俺に好きだと?


「晃?その……できればすぐ返事を聞かせてくれないかな?沈黙は耐えれないや、ハハハ。」


綾子は曖昧な笑顔を浮かべていた。その理由は俺もわかっている。


今まで恋愛には全く触れる事のなかった俺も、この歳になって初めて気になる人ができた。ある日の放課後、いつも通り屋上へ向かったがそこには先客がいた。

夕焼けを背にフルートを奏でる少女、それが小野木(オノギ)由奈(ユナ)だった。由奈は決して自己主張の強い人間ではないが優しい子だった。

そこまで頻繁に会話を交わせたわけではなかったが、俺はあの日の彼女を忘れることは出来なかった。


綾子は由奈の存在を知っているハズ。

そして、俺にとって由奈がどのような存在かも理解しているはずだ。

実際、綾子に詰め寄られたこともある。だから、綾子が俺を好きだということが理解できなかった。


「あ、晃………?」


「え、あっ、あぁ。」


どうすればいいんだろう?俺は自分の気持ちに正直でありたい。


「これからも、私は晃を好きでいていいかな?」


だけど、ここで断ってしまうと………綾子とは二度と今のような関係に戻れないような気がする。俺はそんなの絶対に嫌だ。


「……………………」


俺はどうすればいい?俺はなんて答えればいい?「Yes」も「No」も、どちらを選んでも俺はひとつ失わなければならないのか。なら、俺は………俺は………


「……いい……ぞ……」


「………えっ?」


「ずっと俺を好きでいてくれて…………かまわないぞ」


はっきり言ったつもりだったのに、俺の言葉はとても弱々しかった。俺は自分の気持ちを抑えることになっても、綾子の笑顔を壊したくなかった。

だから俺は選んだのに………俺は顔を上げることができなかった。


すると、綾子は俺の予想していた反応とは全く違う反応を見せた。


「やっぱり晃は優しいね」


「へっ?」


「晃はきっと私のことを考えてくれたんでしょう?昔から喧嘩になってもすぐ晃は謝りに来たもんね、私が悪いのに、『ゴメンね』って泣きながら謝ってた。男の子のクセにとか思ったけど、それが晃の優しさなんだよね。だから今の晃の気持ちもうれしいよ。」


綾子は笑っている。さっきの曖昧な笑顔じゃない。いつもの笑顔だ。

でも………


「でもね」


でも…………


「でもね、それじゃぁダメなの。晃が優しいのはわかってるけど、今の私にはそれはツライだけなの。」


綾子は泣いている。

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