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N高徒然記  作者: 電球
3/8

アマテラスオオミカミ

 

次の日、俺は午後の授業をサボり、体育館の裏手に向かった。

ある人物に会って話をするためである。

目的の部屋の前で、俺はドアを数回ノックした。


「山田、いるんだろ?返事しろ」


返事は無い。気配も完全にしない。

ただし、中には確実に誰か居る。

ドアは内側から鍵が掛かっているからだ。

そしてその人物は99%程の高確率で、さきほど俺が名指しした人物、

山岳部長の山田のはずだ。


体育館裏手の地下部分。

位置で言うと、ちょうどステージの真下あたりに、畳三帖ほどの空間が広がっている。

それが山岳部部室。

俺が今ドアをノックしているこの部屋だ。




少し、この部室と山田の話をしよう。


俺らが入学してきたとき、山岳部は全員幽霊部員で構成されおり、

この小部屋は鍵がかけられ、事実上物置と化していた。

この忘れ去られた秘密の部屋に目をつけた一人の生徒が居た。

現山岳部長、山田である。


彼は何処からか、封印されていたこの部屋の鍵を入手した。

やがてこの部室を、自らが引き篭もるのに相応しい楽園へと改装し、

よく授業中に雲隠れしてはここへと引き篭もった。

教師達には、未だに倉庫としか認知されていないらしい。

校長が全校集会で最近の校内風紀が乱れてると説教しているまさにその足下で、

山田は寝転がってエロ本を広げていたという訳だ。

灯台元暗しとはまさにこの事を言う。


また、山田は先見の明もあった。

この楽園を独占しようとせず、自分と同じく授業をフケる生徒達に開放したのだった。

この行為は、一部の出来の悪い男子達から非常に有難がられ、山田は株を大きく上げた。

恩恵に預かった者達はお布施と称して、

ポテトチップスやら週刊誌やらタバコやら漫画本やらを見返りとして部室に置いていく。

楽園はますます楽園と化し、いよいよ快適で充実したものになる。


やがて山田は、岩窟に篭る天照大神の伝承の如く、

学校で過ごす殆どの時間を部室で過ごすようになってしまった。

もはや山岳部長とはかりそめの姿である。

彼は部室から出ない、そのため山にも登らない。




ノックしてから2、3分待っただろうか。

持久戦を覚悟した時、唐突にドアが喋った。


「誰だ?」


耳をすませなければ聞き取れないほどの小さな声。

間違いない、山田の声だ。


「俺だよ、生野だ。柔道部の」


しかし中からの反応が無い。


「・・・・・・まさか忘れちまったんじゃないだろうな?」


冗談で言ったのではない。

山田とはクラスが違うため、情報が断片的にしか入ってこないが、

最近はいよいよ岩窟篭りが佳境に入ってきたらしく、

HRが終わったら速攻で教室から蒸発するという話だ。

比較的ちょくちょくこの部屋に出入りしてるつもりの俺だが、

名前を忘れられてしまっていても何も不思議ではない。

なにしろ相手の属性は高校生よりも神や仙人の類に近い。


そんな俺の心配をよそに、ようやく返事が返ってきた。


「・・・・・・ああ、あの図体のでかい?」

「ああ」


どうやら記憶の奥底には、俺の情報が残っていたようだ。


「あの、頭の悪いあいつか」

「・・・・・・」


中からガチャンと鍵の外れる音が聞こえ、ようやく扉が開かれた。

ぬうっと出てきた色白で神経質そうな目つきの悪い男、間違いなく山田だった。

山田はドアから顔だけを出すと、目を細めた。

アマテラスにとって下界の光は眩しすぎるらしい。

彼はあたりを注意深く警戒し、外に居るのが俺一人だと分かると、

ようやく俺を迎い入れた。


「まあ、入んな」




俺が部屋に入るとすぐ、背後で鍵を閉める音がした。

山田は用心深い。


「最近は菊沢の巡回が多くてね、物騒でいけない」


ドアにはやたらでかい南京錠がついている。

これおそらく山田が外敵の襲来に備え、新装したものだろう。

あるいは、これも例のお布施なのかもしれない。


部室内は暗くて湿っぽい。

地下部屋だけあって窓は無く、天井の照明はとっくにイカれているため、光源はランタンである。

この中で本を読むのは結構至難の技なので、

山田は来客が来ると山登り用のヘッドライトを貸してくれる。


「何してた?」

「別に。お布施もあらかた読んだし、瞑想していた」


おこの場合の布施とは、この狭い部屋に山積みになった本の山のことである。


「精が出るね。ほら、これ俺からのお布施。昨日がジャンプの発刊日だぜ。まだ読んでないだろ?」


俺が週刊漫画誌の最新号を山田に手渡すと、

今日は火曜日だったか・・・・・・等とぶつぶつ呟いてページをめくりはじめた。

しかし、今日俺がここに来た目的は、

山田にジャンプを差し入れする事でも、授業をサボる事でもない。


「あのさ、山田。ちょっといいか?」


俺が山田に本題を切り出すと、彼は露骨に厭そうな顔をした。

彼は自由を愛する男だった。

それだけに自らの行動を無遠慮に遮る輩を、何より忌み嫌うのだ。


とはいえ、今の俺にとって事態は急を要する。

午後の授業が終われば部活が始まってしまう。

俺は山田に現在自分が立たされている苦境を説明し始めた。

 

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