ゴリラ人間化ウイルス
『ゴリラ人間化ウイルス』
その新種のウイルスについて聞いたのはいつだっただろうか。半年前ぐらいかな。確か海外での報告が最初だったかと思う。感染すると、凶暴になって最後にはゴリラの見た目になってしまうというもの。ただ、二足歩行は保たれるので感染しても人間の生活は普通に送れるとのこと。それこそ家にいて見た目はゴリラの人間が掃除をする、洗濯をする、料理を作る、スマホをいじる、テレビを見ながらハナクソをほじる、トイレに入る、ベッドでゴリラ人間同士で愛し合う。などなど。
想像してみると実に滑稽である。滑稽ではあるのだが、実際にそうなっている感染者が海外にいるらしいということが怖くもあった。
ゴリラの見た目になる以外、健康上、何の問題もないとのことだったが、勘弁してくれよと。そんな風になったら普通の人間のコミュニティでは生きていけないよなと。
遠い国の話だと思っていた。
「ゴリラ人間化ウイルス。半年前に海外で最初の報告があり、各国で感染対策が行われてきましたが、日本でも感染者が確認されるようになってきました。感染が進行すると、ゴリラのような見た目になってしまいます。顔がゴリラになるだけで二足歩行のままであり、健康上の問題も何もないということが既に感染されている方にとっても安心材料ではありますが、とはいえ国としては感染拡大を起こさずに食い止めていきたいと思っています。」
厚生省の緊急会見が始まった。
ゴリラ人間化ウイルス。この日本でも感染者が出てきているらしい。遠い国のことだと思っていたが、もうそういう段階ではなくなってきているのか?
「感染が初期段階であれば、治癒できる可能性もあります。ぜひ今から言う特徴が見られた方には早いうちに感染症専門病院の受診を勧めて下さい。このゴリラ人間化ウイルスは精神的な変化から始まることが多いようです。人が急に乱暴になったり、怒りっぽくなったりしていると、それは感染している可能性があります。」
なるほど、そんな初期症状があるのか。もしも近くにそんな人がいたら受診を勧めなきゃな。俺も感染したくはないし。
月曜日
いつものように出勤してはいつものように仕事をこなす。
経理担当のマキさん(33歳女性)に領収書を渡す。
その時
「ちゃんと内訳を詳細に書かなきゃダメでしょ!」
と、いつにもない怒号が飛ぶ。
マキさんはいわゆるパンダ顔の穏やかな見た目と雰囲気で、いつも指摘がある時には穏やかな口調。
「こういう風にお願いします。ここ詳細にお願いします。」
というような口調ではあったのだが、今日だけは何だか違っていた。
とはいえ女性というのは男に分からない生理とかホルモンバランスとかいろいろあると思うので、そういう時なのかな?ま、俺が丁寧に内訳を書かなかっただけのが悪いし、気を付ければ良いかと。
火曜日
「もっと丁寧に書いてよ!雑だよ!」
「しっかりやりなさいよ!」
こんなにもマキさんから怒号が続くとは、明らかにおかしい。俺の中で1つの疑念が浮かぶ。
(ひょっとしてマキさん、ゴリラ人間化ウイルスに感染している?)
そんなことを考えて動きが止まっているとマキさんより
「聞いてんのか、オイ!」
その瞬間、俺はマキさんに殴られていた。
「えっ・・・・?」
会社で殴られるなんて今の時代なかなかないことで俺はびっくりしたが、当のマキさんは別に悪いことをしているような風ではなかった。殴られることをしている方が悪い的な。いつものコンプラインアンスをしっかり守るマキさんのそれではなかった。
やはり、この状態は正常ではない。絶対に感染している。
おそるおそるマキさんに言ってみる。
「マキさん、たぶんですけど最近の以前とは異なる怒りっぽい様子からゴリラ人間化ウイルスに感染していると思うんです。今日は仕事を早退して、感染症専門病院を受診してみたらどうですか。」
その瞬間、マキさんは更に怒り出した。
「は? 私がゴリラだって? そっちの仕事のやり方が悪くて指摘しているだけなのに何なのそれは!? この!」
そうして私はまた殴られた。
(キツイなこれは・・・)
翌日はマキさんが元々の有給休暇で仕事が休みだった。
木曜日
2日ぶりに見るマキさんは明らかに変貌していた。
ゴリラの見た目の特徴といえば毛深いことである。
マキさんは、明らかに毛深くなっていた。
また、肌の色もゴリラに近づいている。
「おはようございます」
「・・・おはようございます」
おそるおそる挨拶を返す俺。ただマキさんの様子が2日前までとは違い、少し泣きそうになっていた。
「夫も子どもも、実家に逃げちゃったんですよ。水曜日の朝に起きたら物凄く毛深くなっていました。夫も子どもも、私が最近凶暴になっているし、これはゴリラ人間化ウイルスに感染しているに違いないと。」
「そして水曜日の午前中に感染症専門病院を受診しました。受診結果としては、陽性であり、かつここまで変化が進んでいると今から治療を試みても治療できずに、ゴリラ人間の見た目になっていくしかないようです。」
「診察後、このように言われました。ゴリラの見た目になっていく以外は二足歩行のままだし、そのままの生活を送れます。健康上の問題はありません。もし何か悩んだりした場合には、同じようにゴリラ人間化した方々の話を聞くようなカウンセラーを紹介できますので、連絡してみてくださいと。」
「火曜日の朝に受診を勧められた時に受診していれば良かったのかもしれません。」
そうか、マキさんは完全にゴリラ人間化していくのか。
俺、どうしよう?
感染経路等は分からないが、そうは言っても飛沫とか、同じ空間にいたらかかりやすいよね!?
どうする、マキさんから離れるか!?
そんなことを考えていると、マキさんから言われる。
「ちょっと目を閉じてください。」
「え、何でさ?」
「いいから閉じなさい。」
言われるがまま、俺は目を閉じてしまった。後で思うと、ここ失敗したかもしれない。
「は、はっくしょん! はっくしょん! はっくしょん!」
3回ほどマキさんの飛沫が、俺の顔にかかった。
マキさんは俺の鼻の目の前で、それこそ俺の鼻の穴から飛沫が吸い込まれるのを願うような位置でくしゃみをしていた。
「なにするんだよ! きたねーじゃねーか。」
「考えていることは分かりましたよ。自分も感染しないために私から離れようってことですよね。でも私だって夫や子どもに逃げられて寂しいんですから。感染経路について正式な発表はされていませんが、実際にゴリラ人間化した人達のコミュニティでは、どうやら感染者の排泄物が感染源になっているだろうとの認識のようです。だから、あなたにも感染してもらうために飛沫をかけました。本当は、おしっことかウンチとかを無理やり飲ませたり食べさせたりすると、感染がかなり速いらしいんですけど、今回は全年齢向けの作品で留めておいてくれと作者から言われているので、そういったことはしません。ただ、くしゃみが出そうな時とかオナラが出そうな時には、近距離で行いますね。」
「作者って・・誰と話しているんだ。それはさておき、なんでやねん!俺の感染したくない気持ちは無視か!」
「だって寂しいんですもん。どうするんですか、このまま私が孤独を苦にして死んだりしたら嫌ですよね」
とてもそんなことをしそうにない様子に見えるゴリラ人間化しているマキさんだったが、まーこうなったら仕方がないのか。
マキさんの毛深さにおそれをなした他の社員は全くマキさんに近づこうとせずに、俺に用事を頼んでくる。そうなると俺とマキさんは更に関わる回数が増える。
「排泄物っていろいろありますもんね。あ、ちょっと私の鼻の中から大きなハナクソとれそうです。鼻ほじほじ。あなたの腕につけます。」
「きたねーじゃねーか!」
「あ、すごい。すぐに皮膚に吸収されています!ゴリラ人間化するのも時間の問題かもしれませんね。」
普通、ハナクソを体につけられてもすぐに手で払いのけれるはずが、なんとそのハナクソはあっという間に俺の腕の皮膚から体内に入っていったかのように吸収されていった。
ゴリラ人間化ウイルスがターゲットを見つけましたと言わんばかりに。
その後も
俺がパソコン作業に集中しているふとした時にも、オナラがかかってきたり。
しかもそのオナラがゴリラ臭いというか、動物臭いというか、人間のオナラとは少し違う臭い。
なおかつマキさんが、オナラをする瞬間から俺の目の前で服の中からではなく、直にかかるようにお尻を出してオナラをしていたようだ。
そうなると至近距離で動物臭いオナラを浴びることとなり、これは仕事どころではない。
マキさんは経理の仕事をそれなりにしながらも、くしゃみ・ハナクソ・オナラなど何らかの排泄の瞬間の時には、私にそれをかましてきたため、もうキツかった。
私はその日、早退して感染症専門病院を受診しようかと思った。
今ならまだ感染を止められるかもしれないからな。
しかし、その雰囲気を察知したのかマキさんに押さえつけられる。
ひもで机とイスに縛られる。
マキさんの力は、もう人間の女性のそれではなかった。
今ではそれなりにゴリラな力となっており、普通の人間である俺は抵抗するすべもなかった。
そうして俺は退勤するまでマキさんの排泄攻撃を浴び続けることとなる。
18時
通常であれば家に帰る時間である。
しかし、俺はマキさんからの度重なるくしゃみ・ハナクソ・オナラ攻撃にすっかり疲れ切っていた。起き上がる気力もあまりない。
「そんなに疲れちゃいましたか。それじゃあ今日は私の家に泊まりませんか。先程言ったように、夫も子どもも私から逃げて、実家に行ってしまったので。いませんから、大丈夫です。」
「とはいえ、それだけじゃあ不倫と誤解される可能性もあるような・・・。」
「固いこと言わないで行きますよ!」
そうして俺はゴリラ人間化しているマキさんの力になすすべもなく、マキさんの車に連れていかれて、マキさんの運転でマキさんの家に到着。逃げる間もなく、家まで連行された。
「おいしいお酒、買っていたので、ぜひぜひ飲んでください。というかこんな状況なんだから酔っ払いましょうよ。今もしも私の夫や子どもが帰ってきたら困るって思っているでしょ。そんな時に、お酒が入っていなかったら言い訳のしようもないでしょうから、まずは飲んでください。」
ちなみに俺はその時も逃げられないように、ひもで縛りつけられていた。
「確かにそうだな。この状況なら、シラフではいられない」
そうして俺は観念して目の前のお酒を飲み干した。
マキさんからもう1杯、注がれる。
「他のお酒も準備してきますから、まずは飲んでてくださいね。」
ええい、こうなったら酔っぱらうまでよと、2杯目も飲み干す。
けっこうアルコール度数が高そうだな。何だかすぐに酔ってしまいそうだ。
「お待たせしました。こちら特製のカクテルです。お飲みください。」
「ちなみに私はオナラをいっぱい顔にかけることができるように、焼きいもをたくさん食べてますね。」
そうして、ジョッキで出てきた特製カクテルを勢いで飲み干す。
勢いで飲んでみたが、なんだか少し苦い部分があったな、これ何だろう?
「このカクテル、なんか苦かったよ。」
俺はマキさんの朝の言葉を思い出す。
>本当は、おしっことかウンチとかを無理やり飲ませたり食べさせたりすると、感染がかなり速いらしいんですけど、今回は全年齢向けの作品で留めておいてくれと作者から言われているので、そういったことはしません。
「もしかして、マキさん、おしっことか入れてる?」
「それは・・・・ノーコメントでお願いします。」
こいつ、やりやがったなと思ったが既に後の祭りである。
その時点でかなり酔っぱらっていた私は、飲んだカクテルを吐き出すなんて思考もなく、眠りに落ちていった。その都度、顔にマキさんのくしゃみがかかったり、マキさんの尻からのオナラが直にかかっていたり、ハナクソを体につけられているのを感じてはいたが、もうそんなことはどうでもよかった。
翌日、目を覚ますと、視界にはメスのゴリラが目に入る。何でこんなところにメスゴリラが!?ま、でも可愛いからいいや。寝起きではあるものの背中側から抱きつく俺。
「昨日の感じだと不倫って思われるのが怖かったんじゃないんですか?」
聞き覚えのある声だったが、誰の声だっけ?
まーいいや。
「そんなこと、どうでもいいだろ。愛し合おうぜ。」
そうして俺達、2人のゴリラ人間は体を密着させてウホウホ愛し合っていた。
一通りの愛情行動が終わった後に、俺は昨日までのことを思い出す。
この可愛いメスゴリラはマキだったな。
よく見ると目元や鼻の形にマキの面影がある。
そういえば仕事はどうなったんだっけ。もう時間、過ぎてるよな。
時計を見ると午後1時を回っていた。
酔っ払った後、半日以上寝ていたということか。
「仕事の連絡はどうした?」
「今日は2人とも有給休暇で休みますよって伝えておきましたよ。会社も、ゴリラ人間化した私達について警戒しているのか、すんなりOKしてくれました。」
「そうか、それなら良かった。」
「私も良かったです。こんなにも早く私と同じぐらいのゴリラになってくれたので感激です。今日の朝の時点の寝顔では、まだ人間の顔で毛深いだけだったのが、昼頃には顔に面影はありながらも完全にゴリラの顔になっていたので嬉しいです。」
「そりゃあお前が、くしゃみかけたり、オナラかけたり、ハナクソをつけたり、終いには、おしっこ入りのカクテルを飲ませたりしたせいだろうがよ!」
「ふふふ、ごめんなさいね、でも、ありがとう。」
俺達はそんな会話をしながらも幸せを感じていた。
ゴリラの見た目となった同士の親近感もあるし、お互いを好きにもなっていた。
時々テレビをつけるが、人間の芸能人には何も感じなくなっていた。アイドルとか女優とかで、イケメンとか美人とかがたくさんいるはずだが、俺もマキもそんな感情は抱かなくなった。自分達のゴリラな見た目と比べると全くの異質な存在であり、それこそ宇宙人のようにも思えていた。
自分達とは異質な見た目の人間が出てくるテレビを見た後にはゴリラ人間どうしの絆が深まり、俺はマキとウホウホ愛し合うことを重ね、子どもができるかもしれない行為も頻繁に行うようになっていた。
そうして、マキは俺との子どもを妊娠した。
その頃にはゴリラ人間化した感染者もそれなりの数となっており、ゴリラ人間専用の産婦人科や小児科なんてものもできていて、ゴリラ人間達も拒絶されることは無くなっていた。
むしろ、少子化対策という文脈において野性味あふれていて本能のままに子どもをたくさん出産するゴリラ人間達が称賛されるようにもなっていった。
ゴリラ人間の夫婦から産まれてくる子どもは同じようにゴリラ人間ではあるのだが、知能的には問題なく、多少の凶暴さは否定できないものの、労働力として十分な存在であると認められていた。
今日もすやすやと眠った子ども達(ゴリラ人間)の寝顔を確認した後、俺とマキは野性のゴリラのようにウホウホ愛し合う。
本当に幸せだ。
ゴリラ人間化ウイルスに感染できて本当に良かった。




