トウヤの代わりに
「あ、ごめんね。あわただしくて。もうびっくりしちゃって、お布団敷いて寝かせてたのよ」
「何かあったの?」と僕は聞いた。汗だくで一刻も早くシャワーを浴びたかった。
「トウヤが風邪ひいたのよ。ピンポーンってなって出てみたらフラフラで玄関に立ってたからびっくりしちゃって。あいつ看病もろくにしないで遊び歩いてるみたいで……」
殺してやるわ、とぼそっと言ったのは聞こえていないフリをした。
「心配だけどうつったら大変だから、部屋には入らないでね。二人同時に看病はさすがに大変よ」
母さんはそういいながらもなぜか嬉しそうにしていた。
「卵がゆがいいかしら」と独り言を言いながら、大きな鍋を取り出していた。僕はシャワーを浴びに脱衣所に入った。練習着は汗で肌にくっついて半袖なのに脱ぎづらい。洗濯機に全部詰め込んでスマホを見るとメッセージが届いていた。燈弥からだ。
『ごめん、お前ん家着ちゃって』
『気にすんなよ。お前の家でもあるんだからさ』
そう送ってシャワーを浴びた。温度は冷ためのシャワーで体を冷やして、体にたまった熱を洗い流した。
『今日デートだったんだけど、向こうに連絡すんのすっかり忘れててさ。あと1時間後にデートなんだよ。向こうは絶対準備とかしちゃってるから断りずらいし……。トウマ代わりに行ってきてくれない?』
僕がシャワーから出るとそう返事が来ていた。僕は髪も濡れたままにそれを読んで一人で、はぁ? と大きな声を出してしまった。どうしたの? と母さんはちょうど扉の前にいたらしく聞き返してきた。僕は何でもない、と言った。
僕はもう一度文章を読んで、返事を送った。
『むりむり、いやだよ』
『双子だからいけるって、名前は重原佐紀さんって言って隣の慶妙女子高の一年生。テニスの練習試合で俺が試合してるのを見かけて惚れてくれたんだってさ。彼女は陸上部で周りを走ってたんだって。双子だってはまだ知らないし、正直お互いのことはまだそこまで知り合っていないから何とかなるはず』
『無理だって。女子とデートなんて柄じゃないし』
『好きな色は赤色で、好きなものは漫画、ヒーローものが好きだって、あとオカルト。ペットで猫のクンタロウを買っている。ロシアンブルーだって』
燈弥は僕の否定的な文章を気にもせずに彼女の情報を送ってくる。僕は燈弥の寝ている部屋の扉の前に立って、無理だって、と言った。するとメッセージで帰ってきた。
『ごめん、声でなくて。頼むよ。俺たち兄弟、それに双子だろ。頼めるのはお前しかいないんだ。何でも言うこと一つ聞くからさ』お金以外で笑、とすぐ付け加えられた。はあー。と僕は深く長い溜息を吐いた。
母さんはまたどうしたの? と聞いてきた。さっきより大きい問いかけだった。僕も声を大きく、何でもない、とまた返した。




