不時着、宇宙船くちびる号
脱がせたい。燈弥を脱がせて体の隅まで観察したい。
燈弥はくすぐったがったりするだけで、文句言わずに僕の好きなように触らせてくれた。だけどギリギリのところで一線は超えないよう唇を嚙みしめた。燈弥であって「彼」ではない。
僕たちは連絡先を交換して、こまめに連絡をするようになった。そしてひと月もしないうちに燈弥は僕の家に遊びに来るようになる。
「おかえりー」
燈弥が家に来ると母さんはそういって出迎えた。初めて家に来た時だけ、いらっしゃいと言っていたけど二回目からは、おかえり、と言うようになった。燈弥はそれが嬉しいらしい。おかえりと言われるたびに下を向いて照れ隠ししているのを僕は見逃していない。
燈弥は家に来て宿題を一緒にやった。高校が同じわけだから、ある程度出る宿題も同じだった。それを半分ずつ解いて、残りの半分は写すことにして効率よく終わらせた。
今まで何をして遊んできたかと聞くと、ゲームを買い与えられて一人で遊んでいたという。遊ぶものに困りはしなかったけれど、家に友達は呼ぶなと言われて家で一緒に遊ぶことができなかったらしい。僕は逆にゲームなんか無かったけれど、トランプや漫画を読んで部屋で友達と過ごしてきた。燈弥が羨ましいかと聞かれたら、すぐには答えられないところが正直な意見だ。
「トウマは彼女いないの?」
椅子を並べて宿題を写していると唐突に聞いてきた。僕は正直に答えた。
「だよなー」と燈弥は言うだけだった。
燈弥と二人で部屋で過ごす間ずっと僕は彼に触れたくて仕方がなかった。だけどせっかく会えた兄弟で、思いをはせていた『彼』だ。今の関係が壊れてしまうような行為をするのは怖かった。
疲れたー、と言って燈弥はベッドに倒れ込んだ。宿題を見るとまだ終わっていない。
燈弥はベッドで仰向けになって目を瞑っていた。僕は宿題を閉じてそっと、ベッドの端に腰掛けた。ベッドが沈んで燈弥が一度目を開けて僕を見る、そしてまた、目を瞑った。
燈弥の顔は僕が鏡の中で見ていた顔そのものだ。黒子は僕と左右対称で、猫目の左目が少し高い。肌も僕と同じく焼けている。心臓のドキドキに背中を押されて、仰向けに眠る燈弥に覆いかぶさって真上から顔を見下ろした。
「どうしたの?」と燈弥が目を開ける。
僕は何も言わなかった。
「そんなに見られたら双子でも恥ずいんだけど」
「触ってもいい?」
燈弥は今度は何も言わなかった。
僕は両膝と左手だけで体を支えて、右手で燈弥の顔に触れた。
頬に触れて、鼻からおでこ、顔の表面をぐるっと一周してから黒子に触れた。くすぐったい、と燈弥は顔をクシャっとする。
その顔が可愛い。とても。
僕もこの顔であるはずなのに、僕は顔のない妖怪であるみたいに燈弥の顔を欲して触れた。
そして僕は唇を、重力に逆わらずに地球に落としていった。燈弥の目が僕と会う。何をしようとしているとか分かるはずだ。だけど燈弥は拒否の反応は見せない。
僕の唇が重力にそって地球の中心に近づく。
僕と地球の間に燈弥がいるから必然的に彼に触れてしまう。ただそれだけのことだ。唇が彼に衝突する瞬間に、扉がノックされた。それと一緒に母さんの声が聞こえてきた。
扉がガチャッと開いて、僕の宇宙船唇号は枕に不時着した。
母さんは僕が燈弥に乗りかかっているのを見て、ただ遊んでいると判断したみたいだった。
「もう宿題終わったの?ちょっと出かけてくるから、何か食べたいものある?」
「プリン」
僕たちの声は重なった。




