ようやく、触れられた。
翌朝、僕はさっそく燈弥を正面玄関で待つことにした。双子の兄弟がいるのに無視はできないと僕は朝早くに起きて学校に向かった。
本音は彼に早く触れてみたかった。
早く着いた学校にはまだ登校してくる人は少なかった。朝からユニフォーム姿の野球部くらいだ。向かいながら、早くいったところで燈弥が何時に来るか分からない、と心配になったけれど無駄な心配にだった。
さすが双子で一卵性双生児だ。お互いの存在を知らなくても思考は似ているらしい。僕が正面玄関に着くと彼もまた同時に、反対側の通学路から歩いてきた。左右対称の黒子の顔を目にすると、とても不思議な感覚に襲われる。僕たちは同時に初めまして、と言ってなんだかおかしくて笑い合った。
燈弥は最初僕のことを、神山君と名字で呼んだ。だけどすぐにやめてもらった。兄弟なのに名字で呼ぶのは変だし距離感を感じてしまうから。そしてお互いに名前で呼ぶことを決めた。
それからはすぐに打ち解けた。
兄弟である上に一卵性の双子。思考も何もほとんど似ているのだから、気が合わないわけがない。僕たちはホームルームが始まるギリギリまでお互いの生活環境を教え合った。燈弥は頻繁に変わる母さん予備軍に嫌気を感じていると言った。だけど生活は悪くないとも。
燈弥の話を聞いていると自分のしてきたことのように、体に染み込んでくる。それは不思議な感覚で本を読むとかよりも、自分の出来事のように感じる。その日の放課後も僕たちは家に帰らず、体育館裏の人のいない階段に座っていろんな話をした。僕らの過去の身の上話は終わって、お互いの好きな音楽や漫画の話(これも面白いほどに同じものが好きでかえって盛り上がらなかった)やこれからの話をした。
昨日までは知らない存在だったけれど、今日からは兄弟だ。これから交流を持って仲を深めていこうと二人で決めた。
僕はどうしても、彼に触れたい衝動にかられて我慢ができなかった。だってあんなに会いたかった彼が、目の前に実在するのだから。待てと言われて待てるほど、僕はお利口な犬じゃなかった。
「ちょっとさ、触ってもいい?」と僕は聞いた。
遠回しにきく方法を思いつかなかった。触るって何に? と燈弥は聞き返す。燈弥の声は少しだけ、僕のより低い気がする。そして僕より自信持った話し方をする。
「まだ自分が双子だってことがさ、今目の前で話しているのに信じられなくて、その確認っていうか」
そう言うと燈弥は、いいけど、と言って姿勢を正して僕と向かい合った。鏡に映っているみたいに、僕の正面にいる。
僕が右手を伸ばしても彼は邪魔をしなかった。僕の手は鏡に塞がれることも無く彼の胸に指が触れた。彼の胸に触れると、新品の制服は僕のと同じくサラサラな触り心地で、春の気温とは違った暖かさが僕の手と彼の間に感じられる。それから首に触れた。冷たい無機質な感触じゃなくて、柔らかい弾力のある感触だ。次に頬っぺた、薄い毛が生えていている。
僕は自画像を描いた時に観察したみたいに、燈弥の体を観察した。髪はさらさらな黒髪で僕より少しだけ長い。前髪をどけて眉毛に触れた。眉毛は整えられていてざらざらする。まつ毛は長くて、鼻の左と右のえくぼに黒子がある。僕はその黒子に触れることができた。
僕の欲求は止まらなくて、燈弥の腕に触れた。腕は僕のより筋肉質で引き締まっている。テニスをやっているからだ。鼻を近づけると家と違う匂いがする……。燈弥は犬みたい、と言って僕の頭を撫でた。




