もう一人の僕がいた。それは現実に存在する
もう一人の僕がいた。
どういうことかというと、僕は双子で、一卵性双生児で、双子の弟がいたのだ。
僕が双子だった記憶はない。四歳の頃には両親が離婚をしたと聞いていたし、ずっと母さんとの二人暮らしの思いでしかない。だけど確かに、言われてみればかすかに、脳みその奥底に残っている映像がある。
母さんと、僕と、父さんらしい男と、ほかにもう一人がいる。夢か現実か分からない映像は確かに残っていた。それも遊園地で遊んでいるのか動物園なのかも分からない程あやふやな記憶だった。だけど四人で歩いている。それだけの映像だ。
母さんは帰りの車でエンジンをかけると、僕が何かを聞く前に説明してくれた。まあ、説明せずにはいられない状況ではあったと思う。僕と同じ顔の人間が存在する。入学式が終わって車に乗るまで、母さんは何事も無かったようにしていたから入学式の間はその謎を考えるので緊張の一つもしなかった。
母さんはまず、覚えてる? と僕に聞いてきた。バックミラー越しに母さんと目が合う。僕は首を横に振って言った。
「言われてみると、確かにいたかもって……。でもほとんど覚えてないよ」
「そりゃ、四歳の時だもんね」
母さんは何から話そう、とつぶやいて暫く黙り込んだ。そして彼のことを教えてくれた。
僕の双子の兄弟は、燈弥と言うらしい。僕が燈真だから一文字違い。双子らしい名前の分け方だと思った。父さんの苗字は田口、これも初めて聞いた。田口燈弥が僕の弟の名前だ。
そして母さんたちの離婚理由は、父さんの不倫らしい。だけど入学式で一緒にいた女性は、その原因の女性とは違うという。あんなふうになったらだめよ、と母さんは付け加えた。
本来は僕たちを引き取る権利は二人分母さんにあった。だけど生活費やそういった面で母さん一人で、二人を育てるのは難しいと、しぶしぶ父さんに燈弥を引き渡すことにしたらしい。
本当は一緒にいさせてあげたかったのだと、それだけは分かってほしいと母さんの目は少し赤く染まった。母さんは夜遅くまで働いて、僕を育ててくれているのを見ているからそれは分かる。
「大丈夫、分かるよ」と僕は母さん言った。
「でもまさか、同じ高校とはね、母さんもびっくりよ」
二十歳になったら教えるつもりだったと母さんは言った。そして僕たちが四人で暮らした少ない思い出を話してくれた。母さん話し方はいつもより明るさがあって、それが母さんの中で大切な思い出だと言わなくても伝わってくる。僕もそれを聞くと、自分の頭の中にあった記憶のように感じることができた。
僕はその日家に帰ると、しわの無い制服を脱いでハンガーにかけた。そしてお風呂に入ると言って脱衣所の鍵をかけた。シャツを脱いでパンツ一枚になった。そして鏡の彼と見つめ合う。さっきの彼と見た目は一緒なのに、勝手には動かない。僕は右手を上げて、さっきできなかった挨拶をした。彼は左手でそれを返す。
君は実在したんだね。何となくそんな気はしてたけど。いつか会えるんじゃないかってね。
僕は心の中でそうメッセージを送る。彼は同じ気持ちだったよ、と僕に言ってくる。僕たちは手のひらを合わせて、お互いの血管が繋がって血が巡り合うような感覚になるまで一緒にいた。




